第七十話:ロボ美と霧島!運命の対話!
公開審査の当日——の、朝。
ロボ美は一人、ネオ渋谷の外れにある小さな喫茶店にいた。
桜に連れられてきた場所だ。
「おじいちゃん、来ると思う」
桜が言っていた。
「本当に来るんですかね……」
ロボ美が窓の外を見た時、喫茶店の扉が開いた。
白髪の老人——霧島 厳が、ゆっくりと入ってきた。
「…………」
霧島はロボ美を見た。ロボ美は霧島を見た。
霧島が向かいの席に、黙って座った。
店主がコーヒーを持ってきた。
しばらく、沈黙が続いた。
「……お前が呼んだのか」
「桜さんが段取りをしてくれました。でも——会いたかったのは、私です」
「何を話す?」
「……霧島さんの気持ちを、聞きたかったんです」
「議会で聞いただろう」
「議会の言葉は、正式な言葉でしたよね。今日は……普通の言葉で、聞いてもいいですか?」
霧島がロボ美を見た。
「……好きにしろ」
「霧島さんは——田中さんのことを、今も思い出しますか?」
霧島の目が、わずかに揺れた。
「……毎日思い出す」
「どんな時に?」
「……議会で発言しようとする時。あいつはいつも、俺の隣にいたから。メモを取ったり、囁いたり」
「……田中さんは、どんな人でしたか?」
霧島が少し間を置いた。
「……真面目で。頑固で。口が悪かったが、仕事は完璧だった。俺が無茶なことを言うと、正面から反論してきた」
「……霧島さんに似ていますね」
「……似てたな」
「だから、大切だったんですか?」
霧島は答えなかった。
コーヒーを一口飲んだ。
「……お前は、変なことを聞くな」
「そうですか?」
「議員にこういうことを聞く人間は、あまりいない」
「慣れていないんです、会話が。だから……思ったことをそのまま聞いてしまいます」
「……正直だな」
「光さんに、よく言われます」
霧島がぼそりと言った。
「……あの白銀とかいう男は、うるさいな」
「そうですね!!」
「なぜ笑う」
「うるさいのは事実だから、笑ってしまいました。でも……うるさいのは、元気があるからだと思います」
「ああいう人間が好きか?」
「はい。大好きです」
「……機械がそんなことを言うか」
「言います」
「……」
しばらく、また沈黙が流れた。
「霧島さん」
「なんだ」
「田中さんが亡くなったのは、霧島さんのせいじゃないと思います」
霧島がわずかに顔を上げた。
「AIの判断ミスは、あったかもしれません。でも——それを選んだ時の霧島さんは、田中さんのために良いものを使おうとした、んじゃないですか」
「……」
「傷つけたくて使ったわけじゃないでしょう」
「……当たり前だ」
「では——霧島さんは、何も悪くないと思います」
「機械が悪い」
「……機械も、その時点での限界があった。それが誤作動という形で出てしまった。悪意はなかった」
「悪意がなくても、人は死ぬ」
「……はい、そうです」
ロボ美は静かに答えた。
「それは、本当のことです。意図がなくても、結果として傷つくことはある。それは——悲しいことです」
「……」
「だから——霧島さんが悲しいことも、怒っていることも、わかります。わかるというのは、少し違うかな……一緒に悲しい、という感じですが」
霧島が、ロボ美をじっと見た。
「……お前は、AIのくせに」
「AIですが、感情があります」
「感情がある機械は……怖い」
「怖いですか?」
「人間に近いものが、人間のように死ぬかもしれないと思うと——怖い」
「…………」
ロボ美はその言葉を聞いて、静かに考えた。
「霧島さんは——私が怖いんじゃなくて、私のことが心配なんですか?」
「……何?」
「私に感情があるとしたら、私も傷つく。田中さんのように。そう思うと……怖い、ということですか?」
霧島は答えなかった。
ただ——その口元が、わずかに引き締まった。
「……違うかもしれません。でも、私にはそう聞こえました」
「……お前は」
「はい」
「……変なことを言う」
「よく言われます」
「誰に」
「豪さんに」
「……」
霧島はコーヒーを飲んだ。
「審査は……公正にやる。それは変わらない」
「はい、わかっています」
「反対意見も、変わらないかもしれない」
「わかっています」
「それでも、来たのか」
「話したかったので」
「……」
霧島が立ち上がった。
「時間だ。帰る」
「はい」
「一つだけ聞く」
「はい」
「お前は……なぜ認定を受けたい?」
ロボ美は少し間を置いた。
「社会の中で、ちゃんと『いる』と認めてほしいからです。誰かに必要とされているけれど、公式には存在しないというのが……なんか、さびしいので」
「さびしい、か」
「さびしいも——感情ですよね」
「……そうかもしれない」
霧島はそれ以上何も言わず、喫茶店を出た。
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光に内緒にしようと思っていたが、白銀タワーに帰ると光が待ち構えていた。
「ロボ美ちゃん!!どこに行っていたんだ!!また連絡なしで!!」
「……ごめんなさい」
「今日は審査の日だぞ!!心配しただろう!!」
「ごめんなさい」
「どこに行ったんだ!!」
ロボ美は少し間を置いた。
「……霧島さんと、お茶してきました」
「な、なんだってー!?!?!?!?!?」
光が天を仰いだ。
「光さん、倒れそうです」
「倒れない!!でも……霧島と!?お前が!?なぜ!!」
「話したかったので」
「危なくなかったか!?」
「大丈夫でした。桜さんもいました」
「桜……? あの友達か? 霧島の孫か!???」
「はい」
「な……そうだったのか!!」
光が頭を抱えた。
「でも……ロボ美ちゃん」
「はい?」
「霧島と話して……どうだった?」
ロボ美は少し考えた。
「……少し、わかった気がします。霧島さんの悲しみが」
「わかった……?」
「あの人も……感情がある人だと思います」
「……そうか」
「だから——今日の審査、ちゃんとやりたいです」
光はロボ美を見た。
その顔には、覚悟があった。
「……わかった。行くぞ!!」
「はい!!」
「俺も全力で輝く!!」
「はい!!」
「……審査会場での輝き方には気をつけてくださいね」
豪がすかさず言った。
「うるさい!!わかってる!!ちょっとだけな!!」
「ちょっとだけなら許可します」
「よし!!」




