表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネオ渋谷のナルシストCEO  作者: AItak


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/71

第六十七話:優美先生、降臨!秘密特訓の夜!

公開審査まで、一週間。


白銀タワーの食堂が、にわか特訓場になっていた。


「課題①は『喜怒哀楽を五分で表現せよ』!! ロボ美ちゃん、まずは喜びから!!」


「はい!!」


「どうぞ!!」


「…………」


ロボ美が両手を上げた。


「わあ!!」


「……それだけか?」


「喜んでいます!!」


「もっとこう……!!光り輝く感じで!!」


「光り輝く感じ……?」


「こうだ!!」


光が実演した。


両手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべ、一回転した。


「これが喜びだ!!」


全員が固まった。


「……社長、それはナルシズムでは?」


豪が言った。


「違う!!これは喜びだ!!俺流の!!」


「ロボ美ちゃんに合っていません」


「…………そうかもしれない」


光が大人しく引き下がった。


---


その夜。


食堂に残っていたのは、ロボ美と優美の二人だった。


「……優美さん、いいんですか?」


「何が?」


「私の特訓に、付き合ってくれて」


「気が向いたのよ」


優美はコーヒーを一口飲んだ。


「光さんたちは?」


「社長は豪に止められて、帰りました。二時間粘っていましたが」


「……あの人は本当に」


「心配してくれているんですよね」


「……わかっているわ」


優美がロボ美の向かいに座った。


「ロボ美、一つ聞かせて」


「はい」


「感情を表現することと、感情を感じることの違い——わかる?」


「……難しいです」


「感じているのに、うまく表現できないことはある?」


「あります。光さんが頑張っているのを見ると……胸がいっぱいになるんですが、それをどう言えばいいか、わからないことがあります」


「それよ」


優美が言った。


「感情は感じるもの。でも表現は、それを言葉や行動に変えること。審査では、表現が問われる。あなたは感じる力はある。ただ——表現の語彙が、まだ少ない」


「語彙……」


「感情の言葉よ。嬉しい、悲しい、だけじゃない。もっと細かい言葉がある。それを増やすの」


「どうやって?」


優美が一枚の紙を出した。


手書きで、ぎっしりと言葉が書いてある。


「感情語彙リスト。私が作った」


「優美さんが……?」


「感情を失っていた十一年間——私はこういうリストを作っていた。自分が感じられないから、せめて頭で理解しようとして」


「…………」


「役に立つかどうかわからないけれど。私には感じることができなかった言葉たちが、あなたには感じることができるかもしれない」


ロボ美はリストをじっと見た。


「ほわほわする」「むずがゆい」「じんと来る」「胸がいっぱいになる」「じわじわ嬉しい」「きゅんとする」「しゅんとする」……


「こんなに……感情の言葉って、あるんですね」


「人間は……感情を表現することを、長い時間をかけて発達させてきた。それだけ、感情が大切だったということよ」


「……優美さんは、今は感じていますか?」


優美が少し間を置いた。


「……少しずつ。昨日——橘に『感情の再接続が進んでいる』と言われた」


「よかった!!」


ロボ美がぱっと顔を輝かせた。


「どんな気持ちがしましたか?」


「……」


「ほわほわ、ですか? じんと、ですか?」


優美がリストを見た。


「……じんと、かな」


「じんと、は……なんか……大切なものが来たときの感じ、ですよね」


「そう。昔の本には、そう書いてあった」


「じゃあ……橘さんの言葉が、大切なものだったんですよ、優美さんに」


「…………」


優美はコーヒーを見下ろした。


「……そうかもしれない」


「よかった」


「何が?」


「優美さんに、大切なものが戻ってきているから」


優美は何も言わなかった。


しかし——その顔が、かすかに柔らかくなっていた。


「さあ——続けましょう。審査の課題②は料理ね」


「はい! 私、ホットケーキ作ります!」


「なぜホットケーキ?」


「一番自信があります!」


「……料理のレパートリーはホットケーキだけ?」


「他のものは……まだあんまり……」


「……教えるわ」


「え!?」


「ホットケーキだけじゃ笑われる。もう一品くらい作れるようにしましょう」


「優美さん、料理できるんですか!?」


「……一人で生きていたからね」


「教えてください!!!」


「うるさい、少し静かに」


「はい……! でも、嬉しいです……!」


「…………」


優美が立ち上がった。


「冷蔵庫を見てくる」


「はい!!」


優美が食堂の冷蔵庫に向かった。


その後ろ姿を見ながら、ロボ美は感情語彙リストを見た。


「ほわほわする」。


——うん、これだ、と思った。


---


翌朝。


「社長!!昨日、優美さんに料理を教わりました!!」


「優美さんが!?」


「はい!!スクランブルエッグです!!」


「どうだった!?」


「うまくできました!!あと……優美さんが感情語彙リストを作ってくれて、それを見ながら、どんな気持ちがするかを練習しました!」


「優美さんが……」


光は優美を見た。


優美は窓際でコーヒーを飲んでいた。


「優美さん」


「なに」


「……ありがとう」


「礼は要らない」


「でも言う!!」


「……好きにして」


「好きにする!!本当にありがとう!!!」


「……うるさいわ」


その口元が、笑っていた。


豪が静かに二人を見ていた。


(黒宮さんも……随分と変わった)


(いや、変わったのではなく——戻ってきた、のかもしれない)


「豪さん」


ロボ美が豪の隣に来た。


「はい」


「豪さんは……今、どんな気持ちですか?」


「……なぜ聞くんですか?」


「特訓の練習です。相手の感情を聞くのも、感情を理解する練習になると思って」


「……なるほど」


豪はしばらく考えた。


「温かい、と思っています」


「温かい……どのあたりが?」


「……社長と、ロボ美ちゃんと、黒宮さんを見ていると。何か……温かい気持ちになります」


「それ、感情語彙リストでは……『ほっこりする』に近いですね」


「ほっこり……」


「温かくて、落ち着いて、幸せな気持ち、みたいな」


豪がそれを繰り返した。


「……そうかもしれません。ほっこり、します」


「えへへ! 豪さんもちゃんと感情がありますね!!」


「……当たり前です」


「でも豪さん、あんまり感情を言葉にしないから、ちょっと心配していました」


「……そうですか」


豪は少し間を置いた。


「私は……言葉にするのが、得意ではないのかもしれません」


「でも今、言えましたよ」


「……ロボ美ちゃんが聞いてくれたからかな、と思います」


「えへへ!!」


ロボ美が嬉しそうに笑った。


「豪さんも、特訓に付き合ってもらえますか?」


「もちろんです」


「じゃあ——喜怒哀楽を五分で表現してください!!」


「……」


「どうぞ!!」


豪が少し考えた。


そして——静かに微笑んだ。


「これが——喜び、です」


ロボ美が目を丸くした。


「……小さいですね!!」


「私はこのくらいです」


「それでいいんですか!?」


「人間の表現は、大きくなくてもいい。それぞれのサイズがあります」


「……なるほど!!」


「参考にしてください」


「はい!!豪さんサイズの喜びも、素敵です!!」


「ありがとうございます」


豪の口元が、もう少しだけ緩んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ