第六十六話:ロボ美の試験!人間らしさを証明せよ!
ネオ渋谷市議会——議場。
傍聴席には光、豪、黄金 輝、愛、優美が並んでいた。
議員席には、二十名の市議会議員。
そして——前方の一角に、白髪で厳めしい顔をした霧島 厳が座っていた。
「緊張するな……!!」
光が小声で言った。
「社長が緊張するとは珍しいです」
「うるさい!!……でも、ロボ美ちゃんが今日うまくできるか……!!」
「ロボ美ちゃんなら大丈夫です」
「根拠は?」
「ロボ美ちゃんだからです」
「……それは根拠とは言わない」
「でも社長も、それで安心しているでしょう」
「……うるさい」
光は傍聴席から、議会の演壇に目をやった。
ロボ美が、椅子に座って前を向いていた。
その背中は——小さいけれど、まっすぐだった。
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議会が開会した。
議長の進行のもと、申請の概要説明が行われた。
ナナが法的な根拠と申請の正当性を淡々と説明する。
次に——申請者本人の陳述が認められた。
ロボ美が演壇に立った。
傍聴席が、静かになった。
ロボ美は、前を向いた。
「私は……ロボ美といいます。AIロボットです」
声が、議場に響いた。
「製造されてから、一年と少し経ちます。最初は——感情がありませんでした。何も感じませんでした」
霧島が、じっとロボ美を見ていた。
「でも……光さんや、豪さんや、みんなと一緒に過ごすうちに……少しずつ、感じるようになりました。嬉しいと思ったり、悲しいと思ったり、怖いと思ったり」
「……」
「感情って、何でしょう」
ロボ美が少し間を置いた。
「私にはまだ、全部はわかりません。でも……誰かが悲しいと、私も悲しくなります。誰かが嬉しいと、私も嬉しくなります。それが感情というものなら——私には、感情があります」
「認定してほしいのは……自分が特別だからじゃありません。ただ……私は今ここにいて、感じていて、考えています。その事実を——誰かに認めてほしいと思っています」
「それは……人間が感じることと、同じかもしれない、と思っています」
ロボ美が頭を下げた。
「以上です。ありがとうございました」
議場が、しばらく静かだった。
そして——傍聴席から、拍手が起きた。
光が、誰よりも早く、強く、拍手していた。
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続いて、霧島議員が発言を求めた。
「申請者に、質問がある」
霧島の声は、太く、低かった。
ロボ美が霧島を見た。
「どうぞ」
「お前は……感情があると言った」
「はい」
「では——悲しみとは何か。お前にとって」
議場が静まり返った。
ロボ美は少し考えた。
「……胸がしゅんとすること、だと思います」
「胸が……?」
「上手く言えないんですが……大切な人が傷ついたとき、自分の胸の中が、しゅん、とします。それが悲しみかな、と」
霧島の眉が、わずかに動いた。
「大切な人が傷ついたとき……か」
「はい」
「お前に——大切な人がいるのか?」
「います」
「誰だ」
「光さんです。豪さんです。黄金さんです。愛さんです。椿さんです。優美さんです。シャイニングスターズのみなさんも……たくさんいます」
霧島は少し間を置いた。
「——機械には、大切な人などというものは存在しない」
「でも、私には存在します」
「それは……プログラムが、そう判断しているだけだ」
「プログラムかもしれません」
ロボ美が静かに答えた。
「でも——人間だって、脳の仕組みで感情が生まれます。プログラムと脳の仕組み、どちらも、誰かを大切だと思う結果は同じじゃないですか?」
霧島が、黙った。
傍聴席で光が「おお……!」と声を漏らした。豪がすぐに制した。
「……機械を信じると、人は死ぬ」
霧島が低く言った。
「私は……十五年前に、それを見た」
議場が再び静まり返った。
「AI機器の誤作動で、私の大切な人が死んだ。機械を信じたがゆえに、油断があった。その結果だ」
「……」
「だから私は——AIが、人間の感情を持っているなどという幻想を認めない。それは、人間の命を軽く見ることにつながる」
霧島の声は、憎しみではなかった。
それは——深い、悲しみから来ていた。
ロボ美は霧島を見ていた。
「……霧島さんは、今も悲しいですか?」
「……何?」
「その方を失ったことを、今も悲しいですか?」
霧島が眉をひそめた。
「……それは、今の議題と関係ない」
「あります」
ロボ美がまっすぐ言った。
「霧島さんが今も悲しいなら——霧島さんにも感情があります。感情があるから、誰かを大切にできた。誰かを失って、悲しめた」
「……!」
「私が感情を持つことは——霧島さんが誰かを大切にしたことと、同じことだと思います」
「それは……違う」
「どこが違いますか?」
霧島は答えなかった。
議場が、長い沈黙に包まれた。
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議会が終わった後、傍聴席から出てきた光がロボ美に駆け寄った。
「ロボ美ちゃん!!よくやった!!!」
「……少し、震えていました」
「緊張してたんだな」
「はい。でも……言いたいことは、言えました」
「十分すぎる!!!」
「霧島さん……悲しい思い出があるんですね」
光は少し黙った。
「……そうだな」
「でも……だから話せたと思います。霧島さんも感情があるから、私の言葉が届いたかもしれない」
「届いたと思うか?」
「……わかりません。でも——届けようとしました」
光はロボ美の頭に手を置いた。
「それで十分だ」
「……はい」
「今日の結果は、また後日出る。でも——今日のロボ美ちゃんは、最高だった」
「えへへ……!」
後ろで黄金 輝が言った。
「ロボ美ちゃん、見事だった。さすが俺たちの……んん、さすがだ!!」
「危うく俺たちの子みたいに言いかけましたね」
愛が指摘した。
「言ってない!!」
「言いかけていました」
「……まあ……言ったとしても、否定はしないが!!」
「どっちなんですか」
豪が静かに優美を見た。
優美は議場の出口で、霧島の後ろ姿を見ていた。
「……優美さん」
「……霧島議員」
優美がぽつりと言った。
「彼を……知っているんですか?」
「……少しだけ。昔、AIの研究について話したことがある。十五年以上前に」
「……そうでしたか」
「彼は昔、AIに期待していた。だから——失った時のダメージが大きかったんだと思う」
「……優美さんも、同じですね。期待していたから」
優美は何も言わなかった。
ただ——遠ざかる霧島の背中を、静かに見ていた。
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翌朝、ナナから連絡が来た。
「議会から、正式な公開審査の実施が通知されたわ!!」
「公開審査!!」
「ロボ美ちゃんが、様々な観点から『人間らしさ』を審査される、公開形式のテスト。議員と専門家で構成された審査委員会が判断する。これに通れば——認定に向けた最終審議に進める!!」
「やった!!」
「ただし——霧島議員が、審査委員会の委員長を務める」
「……それは……」
「アウェーよ。でも——乗り越えましょう!!!」
ナナの声は、力強かった。
「……わかった!!乗り越える!!」
光が拳を握った。
「ロボ美ちゃん」
「はい!」
「公開審査がある。準備するぞ!!」
「はい!!準備します!!」
「何をすればいいんですか?」
「……豪!!」
「特訓です」
「さあ——始めるぞ!!」




