第六十四話:反AI議員、現る!霧島 厳の鉄の意志!
申請のニュースは、あっという間に広がった。
「——本日、白銀コーポレーションCEO・白銀 光氏が、AI型ロボット『ロボ美』の社会的人格認定申請を正式に行いました。日本初の試みとして、ネオ渋谷市議会でも——」
白銀タワーのオフィスのテレビが、ニュースを流していた。
「出た!!俺が出た!!」
光が画面を指さして叫んだ。
「社長ではなく、申請の話題です」
「でも俺も映っている!!」
「一秒だけ」
「一秒でも映れば輝きは伝わる!!」
「……そうかもしれませんね」
豪が珍しく諦めた顔で言った。
ロボ美は画面に映る自分の映像を見て、不思議そうな顔をしていた。
「私……テレビに出たんですね」
「有名になったぞ、ロボ美ちゃん!!」
「なんか、照れます」
「照れる必要はない!!堂々と輝け!!」
その時、豪のスマートフォンが鳴った。
「……蒼井弁護士からです」
「出ろ!!」
豪が通話に出た。しばらく聞いている。
やがて、少し顔が曇った。
「……わかりました。ありがとうございます」
通話を終えた豪が、光を見た。
「どうした?」
「霧島 厳議員が、公式に反対声明を出しました」
「な、なんだってー!?」
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霧島 厳、七十一歳。
三期連続当選のネオ渋谷市議会の重鎮。白髪に、がっしりした体格。声は太く、眼光は鋭い。
ニュースのインタビュー映像の中で、霧島は腕を組んで言った。
「AIは道具だ。どれほど高性能であっても、それは変わらない。機械に人間と同等の権利を与えることは、人間の尊厳を貶める行為に他ならない。私は断固として反対する」
光が画面を見つめた。
「……道具、か」
その声は、静かだった。
「社長」
「わかっている。感情的になっても意味がない」
「……珍しいですね」
「俺だって……こういう時は冷静になれる!!……ちょっとだけな!!」
「ちょっとだけでも、立派です」
「豪、今の褒め言葉か?」
「はい」
「……ありがとう」
ロボ美が霧島のインタビューをじっと見ていた。
「霧島さんは……本当に、AIが嫌いなんですか?」
「そうらしい」
「……なんで、ですか?」
「わからん」
「AIが怖いですか?」
「……怖いのかもしれないな」
「怖いというのは……どんなことが怖いんですか?」
光は少し考えた。
「……人間が作ったものが、人間を超える。それが怖いのかもしれない」
「超える、というのは?」
「……わからん」
「光さんはAIが怖いですか?」
「俺が?」
「はい」
光は笑った。
「怖くない。ロボ美ちゃんの何が怖いんだ!?」
「えへへ……」
「お前は怖くない。でも……霧島さんには、何か別の理由があるのかもしれないな」
「別の理由?」
「議員の反対には、必ず理由がある。感情だけじゃなく——何か、根っこがある。ナナさんに調べてもらおう」
「社長、鋭いですね」
豪が言った。
「俺はCEOだ! 人の心の動きを読むのも仕事のうちだ!!」
「……今日は随分と、冷静に動いていますね」
「今日くらいは、いい顔を見せてやる!!……ちょっとだけな!!」
「十分です」
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その日の夕方、ナナから連絡が来た。
「霧島議員の件、少し調べたわ。面白いことがわかったから報告する」
光たちが電話口に集まった。
「霧島議員が反AIになったのには、理由があるみたい。十五年前に、ある事故があった」
「事故?」
「彼の秘書が、当時の最新型AIナビゲーション機器の誤作動によって——交通事故で亡くなっている。霧島議員は現場にいた。そのAIの判断ミスで大切な人を失った」
しばらく沈黙が流れた。
「……そうか」
光が低く言った。
「だから……AIが怖いんじゃなく——AIを信じることが、怖いのかもしれません」
ロボ美が静かに言った。
「……ロボ美ちゃん」
「大切な人を失った悲しみが……AIへの反発になっているなら……霧島さんの反対は、ただの意地悪じゃないと思います」
「……そうだな」
「でも……だからといって、私が諦める理由にはならないと思います」
「ロボ美ちゃん……!!」
「霧島さんが悲しい思い出を持っているなら……それはわかります。でも……私は、誰かを傷つけるために感情を持ったわけじゃない。それだけは、ちゃんと伝えたいです」
ナナが電話越しに言った。
「ロボ美ちゃん、素晴らしいことを言うわね。その言葉、ぜひ議会で言ってほしい」
「議会で……私が、直接話せますか?」
「申請者本人が発言できる機会を、議会規則の中に作れるかもしれない。正式なルートを探してみる」
「お願いします!!」
「任せて!! では——明日から、署名集めを始めましょう。百名、あっという間に集まると私は思っているけれど」
「俺も思う!!ネオ渋谷の人たちは目が肥えているからな!!」
「……自分の輝きの話にしようとしてますよね」
「してない!!」
「してます」
「……微妙なラインだ!!」
ナナが笑って電話を切った。
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夜。
光は一人、オフィスに残っていた。
窓の外には、ネオ渋谷の夜景が広がっている。
豪がコーヒーを持ってきた。
「まだいたんですか、社長」
「考えていた」
「珍しいですね」
「うるさい!!……霧島という人は、本当に悪い人間なのか、と考えていた」
「……どう思いますか?」
「悪くない、と思う」
「はい」
「信念がある。根拠がある。それは……俺には否定できない」
「では、どう向き合いますか?」
光はコーヒーを受け取った。
「正面から行く。逃げも隠れもせず——ロボ美ちゃんのことを、ちゃんと話す」
「……社長らしいですね」
「ナルシストだからな!!俺は正面から輝くのが流儀だ!!」
「……それが社長の一番の強みだと思っています」
「豪!!今のは褒め言葉だよな!?」
「はい」
「嬉しいぞ!!」
「どういたしまして」
豪が部屋を出ようとした。
「豪」
「はい」
「……ありがとうな。いつも」
豪が振り返った。
「……社長のためですので」
「そういう言い方をするな!!もっと素直に——」
「おやすみなさい、社長」
「豪!!」
扉が静かに閉まった。
光は一人、コーヒーを飲んだ。
温かかった。
ネオ渋谷の夜は、今日も静かに輝いていた。




