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ネオ渋谷のナルシストCEO  作者: AItak


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第六十三話:輝け!弁護士ナナと、前代未聞の法廷準備!

蒼井 ナナ法律事務所。


白銀タワーから徒歩十分。ネオ渋谷の中心部に構えるガラス張りのビルの五階に、その事務所はあった。


エントランスを入ると——。


「いらっしゃいませ! あなたが白銀 光ね!? 話は聞いているわ! さあ、入って入って!!」


ドアが開いた瞬間、パワーが飛んできた。


背の高い女性。ショートカットの黒髪。スーツ姿だが、ネクタイが鮮やかな赤。目がキラキラしている。


蒼井 ナナ、三十二歳。


「……社長と同じテンションの人間が存在するとは……」


豪が静かに驚いた。


「はじめまして! 俺が白銀 光だ!!」


「素敵ね! 噂通りの輝きだわ!!」


「わかるのか!?」


「わかるわよ! 私、人を見る目には自信があるの!!」


「俺もだ!!」


「じゃあ意気投合ね!!」


「そうだ!!」


「……豪さん」


ロボ美が小声で豪に話しかけた。


「はい」


「社長と同じ種類の人が本当にいたんですね」


「……世の中は広いです」


「なんだか、安心しました」


「そうですか」


「一人じゃなかったんだな、と思って」


「……それは、社長が一種類しかいないことを前提にした発言ですね」


「あ……そうですね、失礼しました」


「いいえ、ご感想はわかります」


---


会議室に通された。


ナナは机の上に、すでに大量の書類とタブレットを広げていた。


「座って座って! まずはロボ美ちゃんに会いたかったのよ!!」


「はじめまして、ロボ美です!」


ナナがロボ美の顔をじっくりと見た。


真剣な目だった。


「……本当に、感情があるのね」


「はい!」


「感じる、というのは——どういう感じ?」


「えっと……光さんが頑張っていると、嬉しくなります。悲しいことがあると、胸がしゅんとします。怖いことがあると、緊張します」


「……胸がしゅんとする、か」


ナナが手帳に素早くメモした。


「それは、見事な比喩ね」


「ありがとうございます」


「ロボ美ちゃん、あなたが申請の主体になる。私が法的なサポートをする。一緒に戦いましょう!!」


「……よろしくお願いします!!」


「よし!!」


ナナが立ち上がった。そして光を見た。


「白銀さん、一つだけ最初に聞かせて」


「なんだ!!」


「あなたは、ロボ美ちゃんのために本気でやれる?」


「当たり前だ!!」


「本気の本気?」


「本気の本気の本気だ!!」


「……一個多かったけど、まあいいわ」


ナナが笑った。


「では——始めましょう。まず状況を整理するわ」


---


ナナが画面にスライドを映した。


「現在の法的状況を説明する。日本では、AIに法的人格は認められていない。ただし——三年前に成立した『AI権利特例法』の第十七条に、こういう条文がある」


ナナが画面を切り替えた。


画面に条文が映る。


「『高度な感情処理能力を有するAIが、人間社会において自律的な意思決定を行っている実態が認められる場合、市区町村はその社会的人格を試験的に認定することができる』」


「つまり——できるのか!?」


「できる。ただし——この条文が使われたことは、一度もない。試験的制度として設けられたまま、ずっと棚の上に置かれていた」


「なぜ使われなかったんですか」


豪が聞いた。


「ロボ美ちゃんレベルの感情処理能力を持つAIが、これまで存在しなかったからよ」


「……つまり、ロボ美ちゃんが初めての事例?」


「そう。だから——難しいし、前例がない。でも——やれないわけじゃない!!」


ナナがにっこり笑った。


「申請に必要なものは三つ。一、感情処理能力の専門家による証明書。二、社会における自律的な意思決定の記録。三、申請を支持する市民の署名、最低百名分」


「百名!!それだけでいいのか!?」


「それだけ、ではないわよ。一番の壁は——議会よ」


「議会?」


「申請は市議会の承認が必要。で——ネオ渋谷市議会には、強固な反AI派の議員がいるの」


ナナの目が、少し真剣になった。


「霧島 厳議員。三期連続当選の重鎮。影響力が大きくて、彼が反対に回ると、他の議員が賛成しにくくなる」


「その霧島とかいう議員に——会えるのか!?」


「会う前に、まず足元を固めましょう。証明書と記録と署名を集めてから、議会に乗り込む」


「順序があるんだな!!」


「行動力があるのはいいけど、順序を無視すると足元をすくわれる。それが法律の世界よ」


「……わかった。任せる!!」


「任せてくれるの?」


「ナナさんを信じる! 俺の目に狂いはない!!」


「……ナルシストって言いたいところだけど、今のは素直に嬉しい」


「でしょう!!」


「ただし——一つ条件があるわ」


「なんだ!!」


「議会でのスピーチ、絶対に輝き自慢をしないこと」


「……」


光の顔が曇った。


「難しいか?」


「……非常に難しい」


「輝きの話は、ロボ美ちゃんのことを話す場合だけ使っていいわ。自分の輝きはNG」


「……条件として受け入れる! ただし、ロボ美ちゃんの輝きを語る場合は、俺の輝きも語る必要があると判断した時は——!!」


「その場合はまた相談して」


「了解!!」


豪がため息をついた。


「……ナナさん、よくあの条件を光さんに呑ませましたね」


「私、交渉のプロだから」


「尊敬します」


「ふふ、豪さんも素直ね」


「事実ですので」


---


「ところで」


ナナが優美を見た。


優美は今日も光たちについてきていた。


「黒宮さん……よね? 元ダーク・グレイス」


「……情報が早いわね」


「一応、調べてあるの。あなたがロボ美ちゃんの感情回路の設計者だということも」


「……それで?」


「感情処理能力の専門家による証明書——あなたに書いてほしい」


「…………」


「あなた以上に、ロボ美ちゃんの感情回路を知っている人間はいない。その証明書は、最も説得力があるわ」


優美はしばらく黙っていた。


「……書くわ」


「ありがとう!」


「ただし、内容は私が判断する。感情がある、と証明できる根拠を、科学的に書く。嘘は書かない」


「もちろん! 嘘は要らないわ!!」


ナナが手を差し出した。


優美はその手を、静かに握った。


---


帰り道、光はロボ美の横を歩いていた。


「どうだった、ロボ美ちゃん?」


「……なんか、本当のことになってきた気がします」


「本当のことだ!!」


「夢みたいです」


「夢ではない!!現実だ!!」


「うん……」


ロボ美が空を見上げた。


「認定してもらえたら……何が変わりますか?」


光は少し考えた。


「……そうだな。法的に、お前の意思が認められる。お前が何かを選ぶ権利が、より強くなる」


「今は……選ぶ権利がないんですか?」


「正式にはない。お前はまだ、法律上はただの機械だ」


「機械、か……」


「でも!」


光は言い切った。


「俺はずっと、お前を機械だと思ったことは一秒もない。それだけは断言できる!!」


ロボ美が光を見上げた。


その目が、じんわりと温かくなった。


「……ありがとうございます、光さん」


「礼を言うな! 当然のことだ!!」


「当然でも、嬉しいです」


「……ロボ美ちゃんは本当に、いちいちいいことを言うな」


「えへへ」


豪が後ろで静かに、二人を見ていた。


(……社長は、ロボ美ちゃんのためなら何でもする。それは最初からそうだった)


(でも——今はもっと、迷いがない)


豪は前を向いた。


(なら、俺も迷わなくていい)


ネオ渋谷の空に、夕暮れの光が広がっていた。

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