第六十話:ネオ渋谷に輝け!未来への扉!(最終話?)
あれから、三週間が経った。
ネオ渋谷は、相変わらず輝いていた。
あの夜の騒動は、市民にはほとんど知られていない。地下の装置暴走は「設備工事中の軽微な事故」として処理された。「新たなる秩序」の解体も、静かに進んだ。
白銀タワーは——修復が完了していた。
「どうだ!!美しいだろう!!」
光がタワーの外観を眺めながら、腕を組んでいた。
「はい、修復は完了しました」
「完璧だ!!このタワーは俺の輝きと同じで——永遠に美しい!!」
「修繕費の半分を黄金さんが負担してくださいました」
「黄金!!そんなことを!!」
「あなたが保険会社への支払いで資金不足になったためです」
「……そ、それはわかっているが……!!」
「後日、お礼をしてください」
「わかった!!」
「でも、また競い合って倍の費用が発生しないようにしてください」
「…………わかった」
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その日の午後、橘 誠から連絡が入った。
「黒宮先生の感情回路の状態ですが……」
橘の声が、少し興奮していた。
「……どうだった?」
ロボ美が光の隣で、じっと聞いていた。
「回路自体は損傷していましたが——損傷部位の周囲で、代償的な再接続が起きていることが確認されました。別のルートで感情信号が通り始めている、という状態です」
「……それは、回復できるということか?」
「完全に元通りとは言えませんが——感情を感じる機能は、今後徐々に戻っていく可能性が高いです。トレーニングや、感情を感じる環境に身を置くことが重要になります」
「トレーニング……?」
「はい。感情を感じる体験を重ねることで、新しい回路が強化されます。つまり——」
橘が少し言いにくそうに続けた。
「光さんたちと一緒にいることが、一番効果的なトレーニングになるかもしれません」
しばらく、沈黙があった。
「……それを伝えたら、優美さんはなんと言っていた?」
「『うるさいわね』と言っていました」
「……来るんじゃないかな」
豪が静かに言った。
「来ますよ、きっと」
ロボ美が笑顔で言った。
「でも素直には言わないと思います」
「それはそれで——あの人らしいな」
光は窓の外を見た。
ネオ渋谷の空は今日も青い。
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翌朝。
「……来ちゃったわ」
白銀タワーのロビーに、優美が立っていた。
コートに包まれ、少し居心地悪そうな顔をしている。
「おはようございます!!」
ロボ美が飛んできた。
「……おはよう」
「今日から、よろしくお願いします!」
「……まだ何も言っていないわよ」
「でも来てくれたじゃないですか」
「……そうかもしれないけど」
「橘さんのところに行きますか?」
「……まあ、そのつもりよ」
「帰りに、みんなでお茶しませんか?」
「……お茶?」
「はい! 豪さんがいつも美味しいのを用意してくれるんです!」
「……考えておくわ」
「ほぼ来るということですね!!」
「……違うわよ」
「でも顔が来るって言っています!!」
「……顔は何も言っていない」
ロボ美はにこにこしている。
優美は口を曲げた。
しかし——歩き出した足は、タワーの中に向かっていた。
「……しょうがないわね」
「えへへ」
「何がえへへなの」
「嬉しいから、えへへです」
「……ばか」
「はい!」
優美は額に手を当てた。
しかし、その口元が——かすかに緩んでいた。
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シャドウは、ネオ渋谷の街を歩いていた。
コートのポケットには、一枚の名刺が入っている。
椿が昨日、渡してくれたものだった。
「温泉宿の住み込み仕事、やってみる気があったら連絡しなさい」
そう言われた。
シャドウは名刺を見た。
「……爆裂!温泉女将!黄金 椿」
「……爆裂……」
しばらく見つめて、シャドウはコートのポケットに丁寧にしまった。
考える時間は、まだある。
でも——捨てようとは思わなかった。
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白銀タワーの最上階。
光は今日も鏡の前に立っていた。
「どうだ……この完璧な輝き……!!」
「社長、午前中の予定が三件入っています」
「わかっている!!でも今は輝きを確認しているんだ!!」
「三件とも保険会社との打ち合わせです」
「………」
「行かないと、また八十七件の着信になります」
「……行く」
光はしぶしぶ鏡から離れた。
しかし——廊下を歩きながら、光は少し笑っていた。
(今、なぜ笑っているんだ、俺は)
理由はわからなかった。
ただ——何となく、今日も悪くない気がした。
それで十分だった。
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「ロボ美ちゃん」
廊下で豪に声をかけられた。
「はい?」
「今日で三週間、何も大きな事件がないですね」
「ですね!」
「……珍しいことです」
「また何か起きると思いますか?」
豪は少し考えた。
「……おそらく」
「えっ」
「ネオ渋谷は、いつも何かが起きています」
「それはそうですけど」
「でも——その時はまた、みんなで対処すればいいと思っています」
豪が静かに微笑んだ。
「豪さん、笑った!!」
「……少しだけ」
「珍しい!!」
「珍しくありません」
「すごく珍しいです!!光さん!!豪さんが笑っています!!」
「な、なんだってー!? 豪が笑っただと!!」
光が廊下から飛んできた。
「社長、保険会社が……」
「後で!!今は豪が笑ったという歴史的事実を目撃しなければならない!!」
「……もう戻りました」
「嘘だろ!!」
「本当です」
「ロボ美ちゃん、見たか!?」
「見ました!!」
「証人がいる!!!」
「……では後で、保険会社の打ち合わせをお願いします」
豪がすたすたと廊下を歩いていく。
「豪!!待て!!もう一回笑え!!」
「笑いません」
「頼む!!」
「社長の頼みでも、笑いません」
「この薄情者め!!」
ロボ美はその二人を見ながら、えへへと笑った。
そして——空を見上げた。
ネオ渋谷の空は、今日も青く、高かった。
「……いい日です」
ロボ美は一人、そっと呟いた。
誰かのそばにいることが嬉しい。
誰かが笑うと、自分も笑える。
誰かが悲しむと、自分も悲しくなる。
それが——人間らしさ、というものなのかもしれない。
そしてそれは——ロボ美の中に、もうちゃんとある。
「ロボ美ちゃん!!何をしている!!豪を呼び戻すのを手伝え!!」
「えへへ、今行きます!!」
「走れ!!」
「走ります!!」
ロボ美は走り出した。
光の後を追って。
豪の背中を追って。
まだまだ続くネオ渋谷の、ドタバタした、輝かしい毎日へ。
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——ネオ渋谷のナルシストCEO——
「ダーク・グレイス編」 完
しかし、彼らの物語はまだまだ続く。
光「次の冒険が来ても——俺は輝き続けるぞ!!」
豪「社長、まず保険会社の打ち合わせを——」
ロボ美「えへへ……!」
——ネオ渋谷の空は、今日も輝いている。




