第四十六話:輝きのニュー・ヴィラン!謎の美女、降臨!
ロード・ビューティーとの死闘から一夜明けたネオ渋谷。
白銀タワーの最上階、CEOオフィスでは、白銀 光が今日も完璧なルーティンをこなしていた。
「どうだ……この輝き……! 昨日の激戦を経ても、なお完璧な俺の髪よ……!」
光は鏡に向かい、白銀の髪をうっとりと撫でつける。その瞳には、自分自身への絶対的な愛が宿っていた。
「社長……昨日の戦いでビル三棟が半壊しておりますが」
豪が淡々と報告書を差し出しながら、光の隣に立つ。その目には、疲労と諦めが、絶妙なブレンドで混ざり合っていた。
「細かいことは気にするな、豪!」
「細かくないです」
「俺たちは勝ったんだ! それで十分だろう!」
「保険会社から八十七件の着信があります」
「…………あとで折り返す」
光はコホンと咳払いをして、そそくさと窓の外を眺めた。
ネオ渋谷の朝陽が、超高層ビル群を金色に染め上げている。その光景を見下ろしながら、光は拳を握りしめた。
「しかし……昨夜の声が気になるな」
「私も気になっております」
豪の声が、珍しく真剣なトーンに変わった。
「『覚悟してもらうわよ、光、そしてロボ美』……か」
光は眉をひそめる。
その時、オフィスのドアが勢いよく開いた。
「光さーん! おはようございます!!」
ロボ美が飛び込んできた。その手には、なぜかトレーの上にホットケーキが六段積みになっている。
「ロボ美ちゃん!? どうしたんだい、そのホットケーキの塔は!」
「昨日の戦いのお祝いに、私が焼いたんです! 人間って、嬉しいことがあった翌日に、ホットケーキを食べるんですよね?」
「……どこ情報ですか」
豪が冷静に突っ込む。
「ネオ渋谷・生活百科事典の第四十二ページです」
「そんな本、存在しません」
「え!?」
ロボ美は目を点にする。しかし光は、もうすでにホットケーキを頬張っていた。
「うまい……! ロボ美ちゃん、君は天才だ!」
「わあ! 本当ですか、光さん!?」
ロボ美はぱっと顔を輝かせる。
「社長、昨日の件について話し合うべきでは――」
「豪も食べろ! うまいぞ!」
「……」
豪は一瞬だけ葛藤した。そしてホットケーキを一口食べた。
「……たしかに、うまいです」
「でしょう!?」
ロボ美は誇らしげに胸を張った。
---
同じ頃。
ネオ渋谷の地下深く、豪奢な空間に、一人の女性が腰掛けていた。
真紅のドレス。漆黒の長い髪。そして、まるで磨き抜かれた宝石のような、紫の瞳。
彼女は薔薇の花びらを一枚、指先でくるくると回しながら、微笑んだ。
「ふふ……」
テーブルの上には、「ロード・ビューティー」と書かれたプロフィールシートが置かれている。その上に、大きな赤い「×」印がスタンプされていた。
「ロード・ビューティー……あなたもなかなかやったわ。でも、詰めが甘かったのよ」
「白銀 光……白銀コーポレーションのCEO……超ナルシスト……」
彼女は光のプロフィールを読み上げながら、くつくつと笑う。
「そして……ロボ美……人間になりたがっているAIロボット……」
紫の瞳が細く光る。
「面白い……」
その時、スーツ姿の部下が恐る恐る近づいてきた。
「あ……あの……ダーク・グレイス様……」
「なに?」
声のトーンは柔らかい。しかし部下の膝は、なぜかがくがくと震えている。
「し、白銀 光の本日のスケジュールが判明いたしました」
「聞かせて」
「午前中は保険会社への謝罪電話……午後は白銀タワー半壊部分の視察……そして夕方は、ゴールドコーポレーションの黄金 輝氏と合流して、ネオ渋谷駅前の新商業施設のオープニングセレモニーに出席予定とのことです」
「…………オープニングセレモニー」
ダーク・グレイスは薔薇の花びらを放した。花びらはひらひらと床に落ちる。
「ふふ……初顔合わせには、ちょうどいいロケーションじゃない」
彼女は立ち上がり、ドレスの裾を翻した。
「久しぶりに、私も表舞台に出てみようかしら」
---
その頃、白銀タワー最上階では――。
「な、なんだってー!?」
光は叫んでいた。
「社長。保険会社からの請求額です」
豪が差し出した書類を見て、光の顔面が蒼白になっていた。
「ろ……ロボ美ちゃん」
「はい?」
「人間化計画……一時的に予算が……その……」
「光さん、大丈夫ですか?」
ロボ美が心配そうに光の顔を覗き込む。
「大丈夫だ……! 俺は白銀 光だ……! この程度の試練……!」
光はぐっと拳を握りしめ、立ち上がった。その目に、再び輝きが宿る。
「俺の輝きに、不可能という文字はない……!!」
「ありました、保険会社の請求書に『支払い不可能』と書いてあります」
「豪、お前は今すぐそれをシュレッダーにかけてこい」
「します……」
豪はため息をつきながら、部屋を出ていった。
「光さん、今日のオープニングセレモニー、楽しみですね!」
ロボ美は目を輝かせる。
「ああ! ネオ渋谷で一番輝いている俺が出席するんだ、そのセレモニーは永遠に語り継がれるだろうな!」
光は自信満々に腕を組んだ。
しかしその時、彼はまだ知らなかった。
そのセレモニーの会場に、新たな「輝き」が降臨しようとしていることを。
「ふふ……楽しみにしていなさい、白銀 光」
ネオ渋谷の地下深く、ダーク・グレイスは静かにつぶやいた。
その紫の瞳に映るのは、夜の街にまたたく無数の光――。
そして彼女は、薔薇の花を一輪、手に取った。
「今夜、あなたたちの日常に、少しだけ……色を添えてあげるわ」
不敵な笑みが、地下の闇の中に溶けていった。
……果たして、ダーク・グレイスの目的とは何なのか?
そして、光とロボ美たちは、新たな強敵に立ち向かうことができるのか!?
次回、「ネオ渋谷のナルシストCEO」――
「俺の輝きに、刃向かう愚か者は誰だ!」光の高らかな声が、夕暮れのネオ渋谷に響き渡る!
「社長、セレモニーの受付を通っていただかないと始まれないんですが……」豪の冷静な声が、すぐそれを打ち消した。




