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蝋燭がぼんやりと怪し気に灯る薄暗い部屋の中。ダイニングルームからこの邪気の漂う部屋へ落されたクロノスはスタッと着地すると、ゆっくり辺りを見廻し警戒を強める。そして部屋の一番奥の壁に視線を向けて飛び込んで来た光景に、彼は目を見開いた。
「ミリアッ!?」
円形の魔方陣に体を縛られているミリア。生命力と魔力を奪う特殊な魔方陣のようだ。気を失っているらしく、声を掛けても反応が無い。ミリアを救出しようと駆け出したクロノスだったが―
「!?」
突如床が巨大な針の塊の様に鋭く尖り彼を串刺しにしようと襲い掛かって来た。クロノスは後ろに飛び退きそれを躱すと、背後に感じた気配の方へゆっくりと振り返った。其処に現れたのは、執事姿の1人の若い男性だった。
「私はこの邸の主に仕える執事のスタンと申します。生命力と魔力を吸収し尽くした後、この娘はあの御方に遊び相手の人形として献上する予定ですので、返すわけにはいきません。」
「あの御方?」
「貴方は知らなくても良い事です。」
剣を構え静かに問い掛けるクロノスに、スタンは感情の全く読めない無表情で一言冷たく答える。
「この娘の次は貴方の番です。貴方にも我々の糧となってもらいます。」
スタンが片手を前に翳すと、空中に大きな土の針が大量に出現し、クロノス目掛けて一斉に放たれた。クロノスは剣に己の時の魔力を込めると、ブゥンッと大きく一振りした。すると剣の軌道は輝く刃となり、土の針を全て斬り裂いていった。そして開かれた道を時の力で加速しミリアの居る場所まで一気に駆け抜けていった。
良かった・・・。まだそれ程ダメージは深くないみたいだ・・・。
ミリアの無事を確認したクロノスは、彼女を助ける為魔方陣に触れ解除を試みた。すると次の瞬間―
「!?」
地面から強烈な威力の波動が放たれクロノスを襲ったのである。波動はクロノスの体を傷付けるだけでなく、彼の魔力を吸い取ってしまったのだった。それでもクロノスは魔方陣から手を放さず力を込めた。魔方陣はパチンと弾けて消滅し、体の自由を取り戻したミリアは意識を失ったままふらっと前に倒れ込む。クロノスはサッと手を伸ばしミリアを受け止めると、「ミリア。目を覚ますんだ。」と彼女を揺すって声を掛けた。
「・・・クロノスさん?私・・・廊下で襲われて・・・」
ゆっくりと目を開き呟くミリア。まだ少しぼんやりしているが無事な様子のミリアに、クロノスはほっと安堵の息を吐く。
まだミリアは本調子ではないし・・・あまり長居は出来ないな・・・。
部屋の最奥にあるドアの方へ視線を向けると、クロノスはミリアを抱えたまま一気に駆け抜けた。しかし走り出した2人を取り囲むようにゾンビ達がうじゃうじゃ現れ立ちはだかって来たのである。
「わ・・・私がやりますっ!!」
ミリアは怯えた表情を見せながらもその場にぱっと降り立ち、素早く杖を構え水の刃を辺り一帯に放った。水の刃は亡霊達を一斉に斬り裂き、一瞬の隙が出来た。クロノスは自身に加速の魔法をかけ扉までの距離を瞬く間につめる。すると天井から巨大な岩が出現し、2人目掛けて勢い良く落下してきた。
「伏せて!」
クロノスはミリアの肩を少し押さえ屈ませると、剣を構え力強く振るった。刃の軌道は輝く刃となって巨大な岩をスパッと細かく斬り裂いたのだった。そのまま進もうとした2人だったが、部屋の奥に居た筈のスタンが目の前の床からバッと飛び出て来て阻まれてしまう。スタンが短剣を振り下ろそうとした瞬間にクロノスは彼に向けて時を止める術を発動する。動きが止まった一瞬の隙を衝いて、クロノスは彼をズバァッと思い切り斬り裂いた。
「くっ・・・」
苦痛に顔を歪ませよろめくスタン。彼に更にもう一撃喰らわせようと剣を振るったクロノスだったが、スタンは自身の足元に黒い空間を出現させ自らその中に落ちて行き逃亡したのだった。
「逃げたみたいだね。」
穴が消えた場所を見つめ苦笑しながら述べるクロノスに、ミリアは「そうですね。」とほっとした様子で答えた。
・・・スタンは恐らくあの御方とやらの所に向かっている。きっと其処に結稀とアーシェも居る筈。ハイネ達もあの部屋を脱出して私達を捜しているだろうし・・・先ずは一番禍々しい気配のする上の階の部屋を目指してみようか。
「結稀達を捜しに行こうか。」
ミリアが「はい。」と頷くのを確認すると、クロノスは静かに扉に手を掛ける。そして2人はゆっくりと廊下へと足を踏み出したのだった。




