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「かなり雲ってきたね。今にも雨が降ってきそう。」
どんよりとした曇り空を見上げながら、結稀がぽつりと呟く。今彼女達が進んでいるのは、王都リーデンと周辺の町を隔てる森の中の道。ザァザァと木々が風に靡き擦れ合う音に包まれながら、一歩一歩進んで行く。
「少し先を急いだ方が良いかもしれないね。森の中じゃ雨を凌げる場所を見つけるのは難しいだろうし。」
ふわりと苦笑しながら、クロノスが語りかける。
「この森を抜ければリーデンはもうすぐだよ。」
前方を指差し先頭を歩くハイネ。リーデンへ向けて先を急ぐ結稀達だったが ー
ポツッ
仄かに冷たい雫が、結稀達の頬を軽く打つ。
「雨が降りだした様だな。」
片手を出し上空を見上げながらアーシェがぽつりと呟く。ぽつぽつと細い雨はすぐさま大粒の雨へと変わり、一同の体を瞬く間に濡らしていった。結稀達は森の中の道を走り出し、何処か雨を凌げる場所はないかと辺りを見廻す。暫く森の中を走り続ける結稀達であったが ー
「!?」
彼女達の前に古びた大きな邸が現れた。壁のあちこちが黒ずんで老朽化しており、それがより一層不気味さを醸し出していた。
「カナリ古イ建物デスネ。築300年ハ経ッテイルト思ワレマス。」
建物をまじまじと見つめ分析するコロンの言葉に、結稀は「ほぇ~。凄い!歴史とロマンを感じるね。」と目を輝かせる。
「ちょっ・・・ちょっと、結稀!まさかあそこで雨宿りするとか言わないわよね!?」
「やっ・・・止めましょうよ!何か得体の知れないものが出てきそうで怖いです!!」
顔を引き攣らせ蒼褪めた表情のクレアとミリアが、結稀の両腕をそれぞれガシッと強く掴み必死に訴える。全身で「行きたくない!!」とアピールする2人。しかし結稀に2人の思いが伝わる気配は全く無いのであった。
「他に雨を凌げる場所は無さそうだし、少し様子を見に行ってみよう。もしちょっとしたトラブルが起こったとしても、僕達なら対処出来るでしょ!」
力強くそう語ると、結稀は邸の方へ一直線に進んで行く。双子が「い~や~!!」と結稀の両腕を掴んだまま踏ん張り結稀が進むのを阻止しようとするが、彼女はそんな事はお構いなしに邸の敷地内へと入って行く。
「まぁ、雨の中歩き続ける訳にもいかないしな。」
「他に選択肢は無さそうだね。」
落ち着き払った様子で淡々と語り結稀の後をスッと付いて行くアーシェと、ふわりと笑みを浮かべまったりとした口調で彼に相槌を打ち隣を歩くクロノス。2人は全く怖がる事無くいつも通りの様子で邸へと向かって行く。
「何か幽霊とか出て来そうでワクワクしてくるな。コロンもそう思うだろ?」
「ハイ。私モ是非会ッテミタイデス。」
暗く不気味な雰囲気の邸を見て楽しそうに目を輝かせながら明るく語るハイネに、コロンが頷く。そんな2人のやりとりに、双子が「信じられない!」と言いたげな視線を送る。
邸の前に辿り着いた結稀は、ゆっくりと扉に手をかける。ギィィィ・・・と重く軋む音が響き渡る。暗く広い玄関ホールは、古びた邸である割には、綺麗な状態が保たれていた。
「かなり古い建物だけど、きちんと整備されているみたいだね。」
結稀は玄関ホールをきょろきょろと見廻しながら、自分自身や仲間達へ向けて時を操る力を込める。すると、雨で冷たく濡れた結稀達の服や体が瞬く間に乾いたのであった。
「この邸・・・随分静かだな。」
少し訝しむ様に目を細め、身構えるアーシェ。彼は結稀の前に庇う様に立つ。
「中は清潔に保たれているのに、見知らぬ人物達が入って来ても誰も現れないのは少し妙だね。」
クロノスは建物の壁にそっと触れながら、顎に片手を当て一言呟く。
「少し邸の中を調べてみよう。」
結稀は邸の奥の薄暗い空間へ真っ直ぐ視線を向け、そして一歩、二歩と力強く歩き出した。ずんずん進んで行く彼女に続いて、仲間達も歩き出す。
「結稀はよくこんな気味悪い邸の中を平気で歩けるわね。」
「お化けが怖くないんですか?」
結稀の背中にぴたっとくっつきながら、怯えた様子のクレアとミリアが話しかける。
「?別に怖くないよ。僕、この世界に来る前は病弱で寝たきりだったんだけど、よく病室で幽霊の友達とお喋りしてたよ。」
サラッと語られた結稀の衝撃的な言葉に、クロノス以外の皆は一瞬表情が固まってしまう。
「ゆ・・・幽霊とお喋りって・・・一体何の話題で盛り上がっていたのよ・・・。」
クレアが表情を強張らせ、ドン引きしながら結稀に問い掛ける。
「悪戯好きな幽霊がポルターガイストで看護師さん達をびっくりさせた時の話とか、1階から屋上まで天井突っ切って競走した話とか、色々面白い話を聞いたよ。」
まったりとした口調で楽しそうに答える結稀に、クレアとミリアは「何病院で好き放題してんのよその幽霊達・・・」「自由過ぎですよ・・・。」と小さな声でツッコむ。一方ハイネは「ポルターガイストなんて、一度もお目に掛った事無いよ。是非生で見てみたいなぁ!!」と目をキラキラ輝かせている。
結稀は幼い頃から、人も人ならざる者も色々惹きつけちゃう所があるからなぁ・・・。
今まで見守ってきた結稀の様子を思い返しながら、クロノスは眉尻を下げ苦笑する。
「幽霊とも仲良くなってしまうなんて・・・結稀は本当に不思議な人間だな。」
くすっと笑みを浮かべながら優しい眼差しで結稀を見つめるアーシェ。そんな彼の言葉に、結稀は「そうかな?僕ってそんなに変わってるかなぁ?」と不思議そうに首を傾げるのだった。そうしてお喋りしながら、暗い廊下を進んで行く結稀達だったが ―
カタンッ
突然壁に掛かっていた絵画が外れて床に落ち、その音に一行は足を止め振り返る。すると、今度は「くすくす・・・」と辺り一面から不気味な笑い声が響き渡ってきた。
『ひ・・・ひぃぃっ!?』
双子は目に涙を浮かべ、結稀にギュッとしがみ付く。怖がる双子に更に追い打ちを掛ける様に、不気味に揺らめく蒼白い炎が一行を囲む形で沢山出現した。
「こっちの世界にも火の玉って居るんだね。」
ゆらゆらと灯る火の玉達を眺めながら、結稀はにっこり笑顔で語る。
「もう、こんな怖い所嫌ですぅっ!!」
「今直ぐ引き返してこんな所出てくぅっ!!」
目に涙を浮かべ大声を上げたクレアとミリアは歩いて来た道を逆走し玄関ホールまで一気に駆け抜ける。扉に手をかけ一刻も早く邸から出ようとする双子だったが ―
いくら強く荒っぽくガタガタ扉を動かそうとしてみても扉は全く開かない。ビクともしない扉に、双子は「噓でしょ!?」と更に顔を蒼褪めさせ悲痛な叫び声をあげる。
「此処で立ち止まっていても埒が明かない。取り敢えず邸内を歩いて出口を探してみよう。」
怖がる2人を落ち着かせる様にクロノスが一同に語り掛ける。彼の言葉に頷き廊下を再び真っ直ぐ歩き始めた結稀達だったが―
「手繋いで一緒に行こう・・・ってあれ?ミリア?」
余りの怖さに耐えられず、クレアは後ろに居る筈の妹に声をかけ手を差し出したが、返事は返ってこない。不審に思い振り返った彼女の視界に、妹の姿は見当たらなかった。
「どうしよう!?ミリアが居ない!!ミリア何処!?返事して!!」
動揺と困惑に満ちたクレアの声が響く。
「ミリアッ!!何処に居るの!?」
結稀達も一緒にミリアを呼んでみるが、やはり現れる気配は無い。
「ん~・・・扉から此処までは一本道だし、壁や床に特殊な仕掛けがある訳でもない。ミリアは何処に消えたんだろう?」
壁や床に手を触れ調べながら、ハイネが真剣な面持ちでぽつりと呟く。皆で周囲を注意深く見廻し捜し続けるが一向にミリアは見つからない。結稀は己の力を広範囲に張り巡らせ、ミリアの気配を探ろうと意識を集中させた。アーシェも使い魔達を放ち邸内を捜索し始めた。
ミリア・・・絶対見つけ出すから!それまで無事でいて!!
強い願いと共に一度ギュッと拳を握り締め仲間達と廊下を真っ直ぐ進み始めた結稀だったが―
「!?」
不意に奇妙な視線を感じ、彼女はサッと素早く振り返った。しかし彼女の眼には、仲間の姿以外誰も捉えはしなかった。
「結稀、どうかしたか?」
「後ろに何か気になるものでもあるのかい?」
真剣な面持ちで後方を見つめる結稀の視線を追いながら、アーシェとクロノスが問い掛ける。
・・・気のせいかな?
少し心に引っ掛かりを残しながらも、結稀は「ううん、何でもない。」と彼等に返事をし再び歩き出した。不安と困惑に包まれながら、一同はミリアを見つけるべく邸の中を進んで行くのだった。




