2
「私はクレア・ウィンチェスター。こっちは双子の妹のミリア。いやぁ~、何か勘違いしちゃって御免ね~。」
金髪少女のクレアはアハハと笑いながら明るく謝罪を述べる。
「ほっ・・・本当に済みませんでした。」
一方、妹のミリアは申し訳無さそうに頭を下げ謝る。アーシェはそんな2人に交互にちらりと視線を向ける。
「いや、誤解は解けたし別に構わないが・・・クレアは何かノリが凄く軽くないか。」
緩い雰囲気で喋るクレアに向けて、アーシェは溜め息交じりに言葉を紡ぐ。
「だって、紛らわしい事してた貴方達にも少しは非があるでしょ。」
悪びれた様子も無くズバッと言うクレアに、アーシェは何とも言えない表情を向ける。
「ところで・・・君達は森の方から来たよね。何故森に居たんだい?」
「私達は王都の魔術師の一族で、魔術の腕を磨く為に色々な場所を廻っていたんですが・・・」
クロノスの問い掛けに、ミリアが此処に来るまでの経緯を話してくれた。
クレアとミリアは、国王に仕える魔術師達を数多く輩出する魔術師の名門の生まれらしい。己の魔術を高める為に2人で王都を出て修行の旅をしており、次の目的地であるヒースを目指していたそうだ。(何でもその街で、魔力を高める鉱石が手に入るらしい。)しかしヒースに向かう途中で道に迷ってしまい、森の中を彷徨って2人は空腹で倒れてしまった。其処に美味しそうな匂いが届いて、その匂いに誘われるまま進んでいたら女の子がヴァンパイアに血を吸われている光景を目の当たりにしてしまい助けようと飛び出した、との事だ。
「あれ?ヒースって・・・王都からだと、こっちと方向が全然違うよね?」
結稀は不思議そうに一言語ると、地図を広げヒースの場所を確認してみる。地図は王都から見てヒースはこの湖と真逆の方角であると無言で語っていた。
「えっ、嘘!?こっちの方角じゃなかったの!?」
「私達、ヒースに近付いていないんですか!?」
結稀の言葉に、双子は衝撃の余り声を上げてしまう。その顔には「やってしまった!?」とはっきり書いてある。
「よくそれで今までの旅を生き抜いてこられたね・・・。」
ショックを受ける2人の様子を眺め、クロノスは眉尻を下げ苦笑する。
「・・・というか、食い気半端無いな。あれだけ沢山捕った魚を2人で殆ど平らげてしまったぞ。」
2人の横に積み上げられた焼き魚の串の山の方に少し引き気味にちらりと視線を向けるアーシェ。そんな彼の言葉に、双子は「素晴らしい焼き加減だったわ!」「御馳走様でした。」と明るい笑顔で答えるのだった。
「あっ、バークローに寄った時に商人の人達から貰ったマフィンがあるんだ。食後のデザートに皆で食べようよ。」
思い出した様に鞄をガサゴソと探り、まったりとした口調で結稀が述べる。“マフィン”という単語に、双子は「甘い物大好き!」と嬉しそうに反応し、目を輝かせる。アーシェもマフィンに嬉しそうに飛び付く双子に「まだ食う気か、この2人。」と更にドン引きしつつも、ふっくら甘いマフィンを口の中に放り込み、顔を綻ばせている。「スイーツ美味しいね。」とキャッキャッと盛り上がる皆の姿を、クロノスもマフィンを口にしながら温かく見守っている。
「・・・ヴァンパイアって、血以外の物も口にするのね。」
マフィンを頬張るアーシェの方にふと視線を向けながら、クレアが不思議そうに呟く。
「以前は生き物の血しか飲まなかったが・・・結稀達と旅をする様になってから、人間が食べるお菓子や料理も口にする様になったんだ。」
クレアの呟きに、アーシェは淡々とした口調で答える。
「僕が甘いお菓子が好きでよく一緒に食べてたら、いつの間にかアーシェも甘党になったんだよね。」
ふふっと柔らかい笑みを浮かべ語り掛ける結稀に、アーシェは少し照れ笑いを浮かべながら「あぁ。」と小さく答える。
「スイーツ好きなヴァンパイアって・・・何か変わってるわね。」
さらっと述べられたクレアの言葉に、アーシェはプイッとそっぽを向き「五月蠅い。」と一言ぼそっと呟く。
・・・そういえば、アーシェが僕達以外の人とこんなにお喋りするのって、初めて見たかも。
アーシェ達のやり取りをまじまじと見つめながら、結稀はふと気が付く。
「新しく仲良しの友達が出来て良かったね、アーシェ!!」
結稀はポンとアーシェの肩を軽く叩き嬉しそうに一言述べる。
「な・・・何だ、いきなり。・・・というか今までの此奴等との会話の何処にも“仲良し”の要素なんて無かったぞ。」
結稀の唐突な言葉に困惑の表情を浮かべながら、アーシェは鋭くツッコミを入れる。
「そもそも、アーシェは結稀の事しか見てないもん。」
「結稀さん一筋みたいですもんね。」
「!?」
にんまりと笑う2人の口から出た言葉に、アーシェは驚いてギョッと目を見開く。
「ん?僕に何か付いてるのかな?」
顔を触ったり服を見てチェックしながら、結稀は不思議そうに首を傾げる。
「そういう意味じゃないです!」
「アーシェは結稀の事が・・・もがっ!?」
結稀に話を続けるクレアとミリアの口に、顔を真っ赤にしたアーシェがマフィンを乱暴に突っ込んだ。
「げっ、げほっ!?いきなり何するのよ!!窒息死するかと思ったじゃない!!」
「酷いじゃないですか、アーシェさん!!」
むすっとした表情でアーシェに抗議する2人。アーシェはそんな2人を、鼻息を荒げながらキッと睨み付ける。
「お前達にはデリカシーというものが無いのかっ!!」
大声を出して怒るアーシェに対し、クレアは全く動じておらず彼の前にドンっと仁王立ちする。
「結稀みたいなマイペースなタイプは、はっきり言葉にして伝えないと気付いてもらえないわよっ!!」
「ほっとけ!余計なお世話だっ!!」
キリッと表情を決めて力強く語るクレアに、アーシェは怒れる猫の様にフシャーッと牙を出して叫ぶ。
「アーシェ、何か僕に伝えたい事があるの?」
不思議そうに首を傾げながら、結稀はアーシェの目の前にスッと近付く。
「いっ、いや・・・何でもない!!」
アーシェは更に顔を紅くしながら、じぃっと見つめてくる結稀からふいっと視線を逸らす。
「本当に何も無いの?・・・ていうかアーシェ、顔紅いけど熱があるんじゃない?体調悪いの?大丈夫?」
明らかに様子の可笑しいアーシェが気に掛かり、結稀は心配そうに彼の顔を覗き込む。アーシェはあたふたと視線を泳がせながら、「大丈夫だから。」と何度も答える。そんな2人の様子を見ながら、双子はにまにまと笑う。双子の視線に気づいたアーシェは、彼女達をギロリと睨み付ける。
このカオスな状況・・・どう収拾つけようか。
ワイワイガヤガヤ騒がしい4人の様子を、困り果てた表情で暫く静かに眺めるクロノスであった。
暫く食事とお喋りを楽しみ一息吐いた後、クレアとミリアはスッと立ち上がる。
「じゃ、私達はそろそろ行くわ。御馳走様。」
「美味しい食べ物、有難う御座いました。」
3人に御礼を言った双子は、荷物を整理し旅支度を整えていく。
「もう行くの?2人だけで大丈夫?」
「ヒースへの道はちゃんと分かっているのかい?」
出発しようとする2人に、結稀とクロノスは心配そうに問い掛ける。
「大丈夫!ヒースまでの道もバッチリ頭に入ったから!!」
自信満々に語るクレアの言葉に、結稀とクロノスは嫌な予感を感じて苦笑する。
「沢山お喋り出来て楽しかったわ。有難う。さようなら!」
「本当にお世話になりました!」
「2人共、気を付けてね。」
笑顔で手を振り挨拶をする双子に、結稀は手を振り返しながら答える。クロノスも不安を抱きつつ2人を見送る。アーシェは最初去り行く2人を冷めた様子で見ていたが、「アーシェはバシッと気持ちを伝えるのよ!!頑張りなさい!!」というクレアの去り際の言葉に「五月蠅いっ!さっさと行けっ!!」と目を鋭く吊り上げ顔を紅くしながら荒々しく叫び返した。
ん~・・・何だか心配だなぁ。また迷子にならないと良いけど・・・。
結稀とクロノスの不安気な眼差しと、アーシェの苛立ちの籠った鋭い視線を背後に受けながら、双子はズンズンと先に進んで行ったのだった。




