6
抑え切れずに溢れ出したアーシェの苦しみが、結稀の頭の中に洪水の様に雪崩れ込む。
アーシェは・・・誰にも受け入れられず、何百年もずっと独りぼっちだったんだ・・・。どんなに孤独で、寂しかっただろう・・・。
アーシェが今まで抱えてきた孤独・苦悩を知り、結稀は胸が張り裂けそうになった。彼女の頬を、つぅっと涙が伝う。
アーシェの孤独を・・・ほんの少しでも和らげてあげたい。
結稀は時を止めると、アーシェの目の前まで一気に距離を詰めた。
「近寄るなっ!!」
黒い霧で結稀を斬り裂こうとするアーシェ。そんな彼を、結稀は優しくギュッと抱き締めた。
「君は“禍の子”なんかじゃないっ!!」
真っ暗な夜空に、結稀の力強い言葉が響き渡る。突然抱き締められたアーシェは、困惑で攻撃の手を止めた。
「ずっと・・・辛かったね、アーシェ。もう1人で苦しまないで・・・。」
静かに囁く様に語り掛ける結稀。初めて感じる優しさ・温かさに、アーシェは唯戸惑いの表情を見せる。
「俺はお前を喰い殺そうとしたんだぞ。お前・・・俺が怖くないのか?」
片眉を上げ不思議そうに問い掛けるアーシェ。そんな彼の問い掛けに対し、結稀はにこっと明るく笑い掛けた。
「全然怖くないよ。それに、君の苦しみが・・・助けを求める声が届いたから。君の事、放って置けなかったんだ。」
温かく包み込む様に、結稀は優しく答えた。余りにも無警戒に接してくる結稀に、アーシェは思わずふっと笑みを浮かべる。
「・・・お人好しだな、お前は。」
眉尻を下げ呆れた様に笑いながら、アーシェは結稀をぎこちなくそっと抱き締め返した。彼の全身から、ふっと力が緩んでいった。その瞳にはうっすらと光るものが浮かんでいた。
アーシェは今まで何処にも居場所が無かった。僕達が、彼の居場所になってあげられたら・・・。
「ねぇ、アーシェ。もし君が良ければだけど・・・僕達と一緒に旅に出ない?」
「俺が・・・お前達と?」
結稀の唐突な申し出に、アーシェは驚きながら呟く。
「うん。僕達は今、この世界の戦乱を止める為に旅をしてるんだけど・・・力を貸してくれないかな?君が仲間になってくれたら、心強いよ!ねぇ、クロノス?」
力強く頷きながら元気な声で語り掛ける結稀。話を振られたクロノスも、くすっと微笑みながら「あぁ。協力して貰えると、本当に有難いよ。」と答えた。
「分かった。俺で良ければ・・・結稀、お前の力になろう。」
小さな声でアーシェが答えると、結稀は嬉しさの余りアーシェにギュッと抱き付いて「有難う、アーシェ!」と笑い掛けた。アーシェは少し目を逸らしながら幽かに照れ笑いを浮かべたのだった。
「あっ、でも1つだけ約束して。」
ふと思い立った様に切り出した結稀に、アーシェは首を傾げ「何だ?」と問い掛ける。
「僕の血を分けてあげるから・・・もうむやみに誰かを傷付けたり、喰い殺したりしちゃ駄目だよ。分かった?」
「分かった。」
真剣な眼差しで語り掛けられた結稀の言葉に、アーシェは素直にこくりと頷いた。
自分に危害を加えようとしたヴァンパイアの心を開いて仲間に引き入れてしまうとは・・・結稀は本当に面白い子だな。
打ち解け合った2人の様子を見守りながら、クロノスは楽しそうにくすりと笑みを浮かべた。
「よし。話は纏まったし、僕は一度エアハルト伯爵の所に行ってアーシェの事を報告してくるよ。」
結稀は伯爵や領地の人々とアーシェの接触を避ける為、1人で伯爵の許へ向かう事にした。領地の人々はアーシェを恐れているし、彼の被害に遭った人々はきっと彼の事を快く思っていないだろう。彼を領地の人々の許に連れて行けばトラブルが起こってしまうかもしれない。穏便にこの件を解決するには、1人で伯爵の許へ行き話をつけるのが最善であると結稀は判断したのだ。
「じゃ、ちょっと行って来るね。話し合いが終わったら直ぐ此処に戻って来るから。この洋館で2人で待っててね。」
結稀の言葉に2人は「分かった。」と頷いた。彼女はクロノス達に見送られながら、待機していた兵士達と共にエアハルト伯爵の居る屋敷へと向かったのだった。




