95 召喚陣の上で (前)
残酷な表現があります
苦手な方はお避け下さい
「それでは皆さん、隣の方と手をつないでください。参りますよ~ いいですか」
制服に身を包んだ高校生たちは、お互いの目を見つめながら少々照れ臭そうに手を繋いでいる。
まあ、高校生だしね、と思いつつミユキは少し離れた場所に立ち、イークレスから肩を抱え込むように支えられながらこちらを見つめているこゆみに小さく頷いた。不安げなイークレスにも視線を送り、こゆみちゃんを任せたぞ!の思いを込めて笑んでやるとやはり彼は青ざめた。何度目になるのか。何故なんだろうか。ま、いいか。
ミユキの肩にはふたばを抱いたコウスケの手が乗っている。
ふたばの生活については何故か世界樹さん監修のもと昨晩遅くに説明とお願いをしたので大丈夫だろう。本当はここで見送ってもらうつもりだったが、王都までついていくの一点張りでこちらが折れた。ちなみにキャサリンさんとカケルくんもついてくる。意外と律儀なのかもしれない。
「では、さんはい!」
そして勇者たちは一人の聖女を残して、誰もいなくなったのだった。
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目的の場所に立っていることを確認し、ミユキは高校生たちを見回した。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、なんともないです」
「すげ、なんともない」
「ほんとだ、完璧じゃん」
「………でも囲まれてますよ?」
「……うん、そうだね」
「知ってた」
「ですね」
秋月の気づかわし気な声に怜美と夏光とミユキが返す。
魔法陣の中央に立つ地球人?&守護竜+ビーグル犬VS鎧騎士(小剣or槍装備)12人+魔導士10人そして台座の上から狙う弓士5人、その脇には───
「クソが……」
小剣を首元につけられ、涙を流す少年達を見据えてミユキが呟いた瞬間、ごとりと鈍い音がした。直後に男の悲鳴が響く。続けざまに悲鳴の連鎖が始まった。
魔法陣を取り囲む騎士と魔導士が慌てて状況を確認しようと見上げ、愕然とした。
小剣を持っていた騎士たちの両腕がガントレットごと床に落ち、弓士は目を抑えながら両者ともにのたうち回り、辺りは血の海になっている。悲鳴の連鎖はこれだったのだ。
「な……」
槍を構えなおした騎士が次に見たのは、詠唱を始めた魔導士が音もなく次々と倒れていく様だった。
自身も体中から力が抜けていくのを感じる。
これは昨日の感覚と同じだった。
膝をつき、槍で体を支えながら黒髪の少年少女を縋るように見上げる。
しかし、その黒い双眸はただ自分を映しているだけだった。
「ゆうしゃ、さま……」
その場に静寂が訪れるまで2分かかっただろうか。
呆気にとられている高校生たちを前にミユキはむにゃむにゃと何かを唱え、緑色の光が気を失った者たちを包み込んでいった。
落とされた腕が生え、弓士達の目が戻るのだろう。
両者共すでに意識はないのだが。
「ミユキさん!」
台座の上からサルモーとスコンベルが飛び降りてミユキに抱き着いてきた。
「ごめんなさい! 俺、おれ、ううぅ」
「いやこちらこそ、いきなり流血騒ぎにしてしまってごめんね。血が付かなかった?」
やはり髪と頬に血しぶきがついていたのでそっとクリーンをかける。血液だし何かあってはいけないので念のために回復と浄化もしておいた。
どうやら我を忘れてしまったらしく、ミユキは反省した。
けれど腕を落とそうと思ったのではなかったのだ。
ただ見た瞬間、危ないので何とかしなきゃと思っただけである。改めて考えても物騒な力であった。戻せなかったらと思うとぞっとする。いやでも眉間を撃ち抜かなかっただけでもよかったのか?
──やはり見習い天使さんに要相談案件だ。
「ほかの子たちは大丈夫なの?」
「うん、ミユキさんたちがいなくなったあと、ロンブスさんが一緒にお城から出てくれてる途中で捕まってしまって……色々聞かれたんだけど、俺がミユキさんがうちに泊まってくれたって言ったらスコンベルが自分のとこでもご飯を食べてくれたって言って……そしたら、そしたら、うぅ」
大きな瞳からぼろぼろと涙を零すサルモーに高校生は一同ただただ見入っている。だが正直何を説明してくれているのかミユキにはさっぱりわからない。ともかくどこからミユキが新旧勇者様御一行誘拐犯だとバレたのであろうか。そして何故ここで今待ち伏せていたのか。まぁ、今更どうでもいいか。
「うんうん、それで他の子たちは帰れたの?」
「はい、みんな帰されました。ロンブスさんは一緒にいるって最後まで言ってくれたんですけど……」
泣きじゃくって声が出ないサルモーの代わりにスコンベルが答えてくれた。
(ロンブス君はお貴族様だし、刃物は向けられないよね~。まぁ子供に向けるのも完全アウトだけどね)
「スコンベル君、ひとつだけ教えてください。いつからここにいたの?」
「えと、昨日の夜からです」
「は?」
「昨日の夜……」
「ここに?」
疲れた顔で頷くスコンベルにミユキは眉間にしわを寄せる。
「ごはんは? 寝てないの?」
「………少し…その、騎士様たちは交代で「はぁ!?」」
地を這うようなミユキの声に少しざわついていた広間が静まり返った。
「え、あの……」
「マジでけしからんなぁ」
「……ミユキよ」
声に振り向くと扇で口元を隠すキャサリンが眉根を下げている。
「後のことは我らに任せて先を急がねば、面倒ごとが増えるぞよ」
「あ、……でも」
「この少年達を城から外に連れ出せばよいのであろう? 妾の背に乗せてな。城の者にはついでに文句も言っておこう。他にも伝えたいことがあるからのぅ」
「えっ? あ、」
扇をずらし、弧を描く唇を見せてくれたキャサリンの目は、笑っていなかった。
「はい、ありがとうございます」
頭を下げたミユキはコウスケのもとに行き、ふたばを抱きしめて黒々と濡れた鼻先に唇をあてる。
──ふたば。必ず迎えに来るから、いいこで待っててね。
ふたばはお返しとばかりにミユキの鼻をぺろりと舐めた。
「ではコウスケさん、ふたばをお願いします」
「承知した」
深々と頭を下げ、顔を上げるとカケルが目の前にいる。
「ミユキさん、気を付けてね。本当にありがとう」
出された右手を握り、握手をする。
「こちらこそ、ありがとうございました。カケル君も、気をつけて世界樹さんのもとに帰ってくださいね」
「うん! 僕も待ってます」
ミユキはもう一度カケルの手を強く握った後、サルモーとスコンベルに笑みを向け頷いてから、高校生達の顔を見回した。
「お待たせしました。では皆さん、お手を繋いでくださいませ。参ります」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
(………なんか呪文を唱えたほうがいいのかな。ま、いっか)
「それでは、さん、はい!」
次の瞬間、扉が開け放たれ騎士たちがなだれ込んでくる。
だが、魔法陣の上には、もう誰もいない。
「やはり、ミユキの結界が張ってあったのか。勇者殿らもそれに護られていたのだな」
認識阻害を逆にしたようだ。
あの若者達がこの惨状を前に平然としていたのは、ミユキの結界でココロとやらも護られていたからか。
キャサリンは冷ややかに目を細め、少しだけアンニュイな気分になったのであった。




