94 旅立ちの朝
新しい朝が来た。
世界樹の葉を朝陽が照らし、足元には朝露がきらきらと光っている。昨日よりもかなり増えて、いろいろな色の草花があたり一面咲き誇っていた。
「みんな、畳んだテントはこっちに集めてくれ。洗ってもらうから」
すっかりボーイ〇カウトの引率のようになってしまった立花が指示を与えている。そしてなぜか新旧の勇者全員がそれに従っていた。
「瀧本、これ、キレイにしてくれるか?」
「はいは~い」
「悪いな、ありがとう」
魔法で集められたテントをクリーンの魔法でキレイにする怜美に満足げに頷きつつ礼を言う立花であった。
「ミユキさん、ありがとうございました」
「いえいえ~、ご丁寧にこちらこそ、ありがとうございます」
ひょいひょいとどこかにしまっていくミユキだが、もう誰も不思議に思わないようだ。慣れって大事である。
仕舞い終わってあたりをざっと見渡すと、制服を着た高校生たちがミユキを囲むように立ち、その少し離れた場所にエルフ達がいた。そしてドラゴンたちもずらりと立ち並んでいる。まあ、全員で朝食をとったので驚くことでもないのだが。ちなみにミユキは来た時と同じ紺のTシャツにジーンズに着替えている。
朝食では立花が作ったじゃがいもと油揚げとわかめの味噌汁をみんなで幸せそうに啜っていた。それを食べたキャサリンさんに頼まれて味噌を量産し、米や道具一式と一緒に入れた異空間収納をビリジアンの青年に託したのは先ほどの話だ。作り方は立花が人型になったビリジアン青年に伝授していた。彼はキャサリンさんの従者となり、竜の里で皆と一緒に暮らすらしい。
「では~、参りますか」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
新勇者達は昨夜元祖勇者たちと話し込んだらしく、この【世界】に残りたいという者は確実にいなくなってしまった。元祖の子たちの現実感ある説明が効いたようだ。
「では、皆様お世話になりました」
ぺこりと頭を下げたミユキに、エルフや竜達は顔を青くして後ずさる。キャサリンが半目で口元を扇子で隠しながら、わかってないのぅと呟きため息を吐いた。その後ろから声が響く。
「勇者様……いえ、塩谷様」
え、と塩谷が顔を向けた先には世界樹さんがいた。
「北尾様、徳山様、瀧本様、向谷地様、東良様、立花様、小山内様、三澤様、それから、賀来様」
名を呼ばれた高校生たちは、戸惑いながら自分を見つめる新緑の瞳を見返した。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
「かたじけのうござった」
世界樹さんが頭を下げ、その横にいたカケルとキャサリン、コウスケが礼を言いながら頭を下げると、エルフや竜人達が続けて跪き、その場にいるもの全員が頭を下げた。
「えぇ……?」
「あなた方が来てくださったおかげで、今、私たちは生きていられているのです。強引に召喚してしまったのに、あなた方にとって縁も何もないこの世界を助けていただき、本当に本当に、感謝いたします」
「いや、俺たちは───」
このおばさんが来なかったら死んでたし、という北尾の言葉は夏光が袖を引いて止めさせた。振り返ると夏光が口元を歪ませ、目に涙を溜めていて、それを零すまいとしているのが分かった。北尾も目頭が熱くなっている。何故だかずっともやもやしていたものが溶けていくようだった。
「それで皆様にお礼の品を受け取っていただきたいのです」
「「「え?」」」
「たいしたものではなく、申し訳ないのですが……」
「?! これは…」
高校生たちの手にはいつの間にか木の葉が握られていた。握りしめていたはずなのに、手を開くと木の葉はつぶされることもなく、かといって硬いわけでもなく柔らかな質感で光り輝いている。
「小さなものですが、お受け取りください。」
「はい?」
「どうか皆様に加護を」
世界樹さんが目を閉じ厳かな声でつぶやくと、それは高校生たちの手のひらに吸い込まれるように消えていった。新勇者たちにも全員同じことが起こったらしく、皆手をひらひらさせて凝視している。その間に世界樹さんはいつの間にかミユキの前に立っていた。
「ミユキ様。どうかご無事で」
まじめな雰囲気が苦手なミユキは、何となく笑ってごまかそうとしたが、それはやめて深く頭を下げる。
「ありがとうございます。皆様もどうかお元気で。世界樹さん、コウスケさんとふたばをどうかよろしくお願いします」
「えっ!? ミユキさん、僕は? 僕はよろしくしてくれないの?」
(……カケルくん…… なんだか日々距離感が違っている気がするよ? 今は親戚のおばさんくらいだろうか。そもそも世界樹さんとはとっても付き合い長そうだよね?)
ひくつきそうな口角を上げて再び頭を下げる。
「……世界樹さん、キャサリンさんとカケル君のこともよろしくお願いいたします」
「御意」
黄金に輝く髪をさらりと垂らし、茶目っ気たっぷりに完璧な礼をとる世界樹さんを思わず半目で見てしまい、アンニュイな気分になるミユキであった。




