93 前夜にやっておくこととは
本日2度目の投稿となります
「さて、それでは大体の説明を終えたということで解散としますね。とりあえず、異世界最後の夜ってことで皆さんご自由にお過ごしください。私はちょっとやることがありますのでこちらを離れますが、すぐ戻りますのでご心配なく」
にこりと笑ったミユキを半目で睨んだ怜美に、更に笑みを返すととりあえず怜美も笑みを返した。
「なんか大事なことは何も聞けなかった気がするけど、心配するだけ無駄そうだよね……」
夏光がぼそりと呟いている。そのとうりだと塩谷も頷いたが、そうこうしているうちにミユキはふたばを抱いたコウスケと一緒に消えてしまった。
「へんなおばさんだよな」
「そうだね」
「でもなんか、ほんとに帰れそうだよな」
「うん、もう、絶対に帰れないと思ってたんだけど……。なんでなんだか絶対に帰れそうだな。なんでなんだろう。2年前ってだけでも嘘みたいなのにな」
「ほんと、なんなんだろうね。この安心感」
少し悔しそうな立花がぼやき、ははっと塩谷が力なく笑った。
半年前(体感)、この世界に連れてこられたときに、この世界は邪悪な竜に穢され、どこかにある世界樹も枯れ始めていると誰かが言っていた。だが今見上げるその樹はどこまでも枝が広がり、生い茂った葉は精霊の光でほわほわと照らされ、青々と輝いている。
──明日の今頃は、俺は何をしているんだろう。
誰も死なずに過ごせているのだろうか。
*********
「あ、戻ってきた」
元祖勇者達が歩いてくるのを見つけて、柿崎が嬉しそうに手を振り、
笹神が呟いた。
「あれ、オバさんは?」
「……いないね」
「なんか用事があるらしくて、消えちゃった」
「「「「「「「…………」」」」」」」
沈黙の後、夏光がくるりとあたりを見まわした。怜美がいないのだ。が、少し離れたところに姿を確認して小さく笑みを浮かべる。
(かっこいいけどあっちに帰ったら二つ下になるんだよ~? 遠距離かもしれないし………ってまだ出会ってもない二つ年下って………やめたほうがよさそうじゃない? 今はお似合いなんだけどね~)
親しげに話している怜美と秋月を遠目に見つつ、小さなため息をつく夏光だった。
*******
粗方の話を終えて、やり残した事をするためにミユキは【やることリスト】を頭に浮かべた。
一旦この世界を離れるのだから繋がっているものを切り取って支障がないようにしておかなければいけないし、ふたばのこともコウスケにお願いしておかねばならない。(オーク)カエルも何とかしなくちゃなぁ。
忙しい夜になりそうだ。
「コウスケさん」
銀色の髪を揺らし、コウスケは──よくみると睫毛も銀色である、あ、それ風に表現するとアメジストの瞳を縁取る長い睫毛も、てか? 脳内がラノベに侵されているミユキはついつい考えてしまった。しかしありきたりすぎて、いやいやお恥ずかしい限りである──ふたばから視線をミユキに移した。
「あの子たちをもとの場所に連れて行く間、ふたばを預かって欲しいのですが」
「───ッ!?」
(………いやなんですかその驚愕の反応は)
「そ、某がふたば殿といてもよいと仰るのか?」
「(………なぜお顔が赤くなるのか?)その、よろしければ、ですが。というかお願いなんです。とにかく急いで帰ってきますが時間の進み方が違うようでよく判らないので長くなるかもしれません。しかし、私にはこちらに知り合いはおらず、本当に申し訳ないのですが必ず帰ってきますので」
頭を下げたミユキにぶんぶんと首を横に振るコウスケである。
「そ、それは構わぬが、その、ふたば殿が寂しがらねばよいが……」
「そうなんですよね……。ふたば、ちょっとの間だけこのお兄さんと待っててください。 絶対迎えに来るから」
ふたばに顔を近づけると、仕方がないね、という風にミユキの鼻をぺろりとなめてくれた。
「ごめんね」
生まれ変わって何となく意思疎通ができるようになった気がするミユキである。見た目は仔犬なのに。コウスケが、やはり食い入るようにガン見している。ミユキのほうが泣きそうであった。ペットホテルが苦手なふたばは入院以外の外泊したことがない。その入院も夜を待たずに帰されてしまった。つまり、これまで14年間、一度も夜を離れて過ごしたことはないのだ。
「で、コウスケさんはどちらに住まわれる予定ですか?」
「住む?」
「はい。寝て起きるところです」
「あぁ……。申し訳ないのだが、某、気づいたらあの地におったのでそのようなことをしたことがないのだ……。どうしたらよいのだろうか」
(だよね~~~。なんとなくそうじゃないかとは思っていたよ……)
「ならばここにいらっしゃるといい」
「はい?」
振り返ると、やはりそこには世界樹さんがいた。
「……結構ご自由に行き来されてますね……」
ふふ、と世界樹さんは無駄に色気を含んだ笑みを浮かべる。
「先程も言いましたが、この樹の根はこの世界の至るところ全てに張っていますのでわたしに行けない場所はないのですよ」
(忘れてた……。つまり神出鬼没ってことなのね)
「ってことは王都にも行けるのですか?」
世界樹さんは、やはり無駄に色気のある笑みを返してきた。
「音や会話も聴けますよ? ここ数百年は浄化と生き延びることに力を使いきっていましたので忘れていたのですが、先ほどあらゆる場所の音や声が聴こえ、視えていたことを思い出しました。ありがとうございます」
「いえいえいえ、お気遣いなく〜」
(私のせいだったのか……)
ならば受け入れるしかあるまい、とミユキはアンニュイな気分になったのであった。話が進まない……。




