92 オタクおばさんかく語りき 2
お久しぶりでございます
読んでいただけましたら幸いです
「では、先ほどの話の続きになりますが、こゆみちゃんの代わりに複製を連れていきますので、死亡1名、ということになってしまいます。それで……」
「──さっきの話の続きなら、俺の質問に答えてもらえませんか」
塩谷が思いつめた表情でミユキを見ている。彼のこれまでの穏やかな雰囲気がなくなっていた。
(質問──あ、死ぬはずだった人が……ってやつだったか)
「う───ん、未来が変わるかもという話でしたね?」
「そうです。俺たちが戻ることによっていろいろ変わっちゃうかもしれないから……」
「そんなこと言ってたら、私たち戻れなくなるよ!?」
夏光がもう一度叫ぶように言ったが塩谷は険しい表情のまま、ミユキから目をそらさなかった。
ふぅ、とミユキは息を吐く。
「えーと、わたしがこの話をしますと偏っている上に長くなりますが、よろしいでしょうか?」
え、と高校生たちは互いに顔を見合わせる。デジャヴか? しかしやはりカクカクと頷き返した。
「諸説ありますが、未来はですね、どこかの運命製造管理局というところでウサギの着ぐるみを着たヒト?たちが日々未来につながるドアをいくつもいくつも製造してできているらしいんですよ」
「「「「「「「はい??????」」」」」」」
「それで、運命の部屋というところにあるそのドアから開いた扉の向こうにいろんな未来が待っている、と。なので未来は必ずしも一本道ではないと思っています」
「「「「「「………」」」」」」
「と、わたしのバイブルである本に描いてありました。32巻だったかな? アニメ化もしたようなのであなた方のご両親もどなたかご存じかもしれませんね。この部分はOVAだったかな? わたしは原作派でしたのでアニメの方はあまり知りませんがね」
「それは……もしかしなくても漫画ですか?」
「はい」
誰かの問いにミユキは力強く頷いた。
「この本とはあなた方と同じくらいの歳に出会いましてね。ずーっと何度も何度も最近も読みましたとも。あ、話が逸れてしまいましたが、塩谷君、とりあえず未来はたくさんありますので全員助かって生きていく未来も必ず用意されていると、わたしは思いますよ? なので皆さんでその未来を目指しましょう! ……でもまあ、」
「なんですか!?」
勢い込む塩谷にぼそりとミユキが言う。
「召喚がされなければ事故は起きず誰も亡くなったりしなかったんですから、未来が変わるとか考えなくてもいいかと思うんですよね。長々と言っておきながらなんなんですけども……すみません」
「うっ……」(なんとなく納得している自分が怖い……)
「それでですね、こゆみちゃんだけ助からないということになってしまいますので、助かった皆さんは、なんというか、いろいろ注目されたり、責められることはないと思いますが大変な思いをされることと思います。おそらく先生やバスの運転手さんも……」
自分も散々言われたからなぁとは言えないが、遠い目をするミユキであった。
「ホントのことを知っている皆さんは、おそらくこちらのことも話せないし、とても辛い思いをされるかと思います。でもまぁ、先生やあちらのお友達を励ましつつ、頑張ってください!」
「「「「えぇ……(それだけ?)?」」」」
「ええ、すみません。でも、ふた月もすると世間の興味はかなり薄れてきます。こゆみちゃんは若くてかわいい女子高生なのでもう少し長引くかもしれませんが。──こゆみちゃんのご家族にはお気の毒ですが、ここはもう割り「あのう……」えっ?!」
いつの間にか目覚めたこゆみが不安げに口を開いた。もちろんその横には跪いたイークレスがこゆみの両手を包んでいる。そしてその目はこゆみしか見ていない。やはりウザい気がするミユキであった。
「うちの……家族は、その、保険金さえ手に入れば大丈夫です」
「えぇ……?」
「血も、繋がってないし、一緒に住んでいてもあの人たちのこと、私何も知らないし…向こうもそうだと思います…」
あっちの私はもう死んでも、いいんです、と最後は消えいりそうな声のこゆみの薄い肩に立ち上がったイークレスがそっと手を置いた。背中から包み込むようにしている。やはり(以下略)
「何それ!?」
「えーとすみません、ではこゆみちゃんのご家族は保険金さえ手に入れば大丈夫ということで話を続けさせていただきますが、とりあえずこれを。これがこゆみちゃんのですよね」
憤る怜美を遮り、ミユキは淡いピンクのスマホをこゆみに手渡した。首を傾げるこゆみにミユキは続けた。
「もしも、おばあさまが目を覚まされた時のためにメッセージをと思いまして。スマホ使えるんでしょ? おばあさまは。なんか、ほら、いつのまにかちゃんと動いてるからこれに録画して、渡してもらうようどなたかにお願いするといいですよ。ね?」
「え……?」
「では」
スマホを持ったこゆみの手をミユキが包み込むと、同じスマホがもう一つ、現れる。
「なんていうか、これはこのまま持っていたいかなと思いましてふたつにしてみました。──充電は、回復魔法で何とかなるんじゃないかなぁと……。さて、」
ミユキはこゆみの目を見て、できるだけ優しく、言った。
「わたしは、死んでいいひとなんていないと思いますよ? こゆみちゃんが気づいていないだけで、悲しむ人はいるんですよ? ひとがひとり亡くなるってのは大変なことです」
イークレスからの殺人ビーム的な視線が痛いが、これはきっと言わなきゃいけないことだ。オバさんだし。オバさんだから。オバさんとして。
「でも、そんなふうに悲しむひとたちはきっと、こゆみちゃんが幸せになることを望むだろうから、ここで幸せになるために残るんです。……もしかしたらまだ出会っていないだけで、あっちにもこゆみちゃんを幸せにしてくれる人がいる、かもしれないけど、そこはまぁ、早い者勝ちってことで……いいんですよね?」
ミユキの視線を追ってこゆみが見上げた先には、泣きそうな顔のイークレスがいる。殺人ビームは尽きたようだ。ひとの幸せは人それぞれ。とりあえずこの男もこゆみちゃんの幸せを考えているからこそ、こんな情けない表情をしているのだろうと思いたいミユキであった。
「では、戻ってから皆さんにやっていただきたいことを説明させていただきますね。あ、その前にお二人にも返しておきましょうか」
手品のように2台のスマホがミユキの手に現れ、流れるように立花と徳山に手渡されて、画面を見たふたりは言葉に詰まり、何とか声をしぼりだした。
「……う…ありがとう、ございます」
「いえ……保管してくださっていたのはエルフの……保管係の方ですし……ほかの方々にはお返しすることができず、申し訳ないです」
目を伏せたミユキに数人が首を横に振る。
そして、ようやく本題に入ったのであった。




