第4話 努力の成果
「【独り言】、最強の固有スキルなんじゃ……」
俺は思わず呟いた。
異世界の自分と会話できる。しかも、相手は俺と別の人生を歩んだ別の可能性。世界が違えば、身につけた技術も知識も違う。
そんな相手から情報を得られるなら、これほど便利な能力はない。
『おいおい、俺だって何でも知ってるわけじゃないぞ』
頭の中から聞こえる声に、俺は我に返った。
「こっちの世界じゃ知ることすらできない知識を、そっちから教えてもらえるんだぞ?」
『それはそうだが、結局はお前が使いこなせるかどうかだ。知識を持っていることと、実際にできることは別だからな』
「……確かに」
知識だけで強くなれるなら、世の中の冒険者は苦労していない。
剣の振り方を知っていても、実戦で振れるとは限らない。魔法の理論を理解していても、魔力を扱えなければ意味がない。
「なあ。そっちの世界で、レベルを上げる以外に強くなる方法ってあるか?」
『もちろんある。基礎ステータスを伸ばす方法だ。レベルアップで上がる数値とは別に、条件を満たすことで伸ばせる』
「具体的には?」
『筋力なら腕立て伏せ、腹筋、スクワットをそれぞれ千回。荷重をかけたトレーニングでもいい。ただし、全部一日で達成する必要がある』
「千回ずつ!?」
『そうだ。達成したら二日は休め。三日後にまた同じことをする。それを一か月続ける』
「いや、ちょっと待て。普通に無理だろ!」
『最初からできるとは言っていない。できるように鍛えるんだ』
さらっと言いやがった。
腕立て伏せ千回。腹筋千回。スクワット千回。
合計三千回。
考えただけで腕も腹も脚も悲鳴を上げそうだ。
「ほかの能力値は?」
『敏捷なら、時速換算で一定以上の速度を保ちながら十キロ走る。耐久なら、攻撃を受けてHPを減らす行為を百回。器用さは狙った場所に物を投げたり、細かい作業を繰り返したりすることだな』
「耐久を上げるために攻撃を受けるって……」
『それから知力。MPを百消費して、制御できるようにする事が条件だ』
「MPを制御……」
俺は自分のステータスを思い浮かべた。
今の俺には、魔法スキルがない。
だが、やり方があるなら試す価値はある。
「よし。やってみるか」
『いい心がけだ。だが、無理はするなよ。条件を満たすことだけを考えて、身体を壊したら本末転倒だ』
「分かってるって」
そこから一か月は、訓練の繰り返しだった。
筋トレの日、走る日、スライムの攻撃を受ける日、プラモデルや投擲をする日
剣を振り、軌道や姿勢を見直す時間。
魔力の感覚を探し、身体の中を巡らせようとする時間。
毎日が順調だったわけではない。
疲れて思うように動けない日もあった。
剣を振っても、昨日より下手になったように感じる日もあった。
魔力をうまく感じ取れず、何時間も無駄にしたと思う日もあった。
それでも、やめなかった。
剣の素振りは、ただ回数を数えるだけではなく、動作を見直しながら続けた。
五万回という数字を目指しながら、一回ごとに改善できるところを探した。
器用の訓練では、石を目標に向かって投げた。
最初は狙いが定まらず、目標から大きく外れてばかりだった。
何が違うのかを考え、ひとつずつ試す。
すると、少しずつ命中率が上がってきた。
そうして積み重ねた努力は、少しずつ結果に変わっていった。
魔力についても、最初は心臓の横にある温かさを見つけるだけで精一杯だった。
やがて、意識を向ければ以前よりも早く感知できるようになり、腕へ動かすことにも慣れていった。
身体強化の練習では、魔力をどこへ、どれくらい流すのかを試した。
強く流そうとすると制御を失う。
少なく流せば、変化が分からない。
その中間を探し、何度も調整した。
少しずつ、魔力を扱う感覚が身体に馴染んでいった。
それから1ヶ月後。
俺は自分のステータスを確認した。
基礎ステータスも、身につけたスキルも、訓練を始める前とは大きく変わっていた。
「……これが、一か月の成果か」
最初の自分と比べれば、確実に前へ進んでいる。その事実が、素直に嬉しかった。
今の俺のステータスはこうなっている。
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萩野 駿 Lv:1 次のLvまでExp:10
見習い冒険者
HP:8/8 ➤ 40/40
MP:9/9 ➤ 27/27
筋力:2 ➤ 10(+8)
耐久:2 ➤ 10(+8)
魔防:4 ➤ 13(+9)
敏捷:6 ➤ 10(+4)
器用:5 ➤ 9(+4)
知力:3 ➤ 9(+6)
魅力:4 ➤ 6(+2)
幸運:10(変化なし)
固有スキル
【独り言】
戦闘系スキル
【初級剣術】NEWLv3
【投擲】NEW Lv2
【逃走】NEW Lv1
魔法系スキル
【魔力感知】NEW Lv2
【魔力操作】NEW Lv1
【身体強化】NEW Lv1
耐性系スキル
【打撃耐性】NEW Lv1
生産系スキル
なし
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「……よし」
ステータスを確認した俺は、拳を握った。
ようやく、ここまで来た。
だが、ここで満足するつもりはない。
今の俺がどれだけ強くなったのか、確かめる必要がある。
『はぁ、ようやくスタート地点ってとこだな、長かったじゃねぇか』
傲慢は肩の荷が降りた、そんな雰囲気を感じるため息を吐いて、いつも通りの上から目線でそういった。
俺は今、池袋ダンジョンの前にいる。
あの時は何もできなくて、自分の力が足りないことを思い知らされた。
だか、今度は違う。
俺には知識、積み重ねた努力がある。
次は、俺自身の成長を確かめる番だ。




