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          5 魔獣

 魔獣と人間のし烈な戦いが100年前合ったが、魔獣が人間を襲ったわけではない。農地を踏み荒らしたのだ。そのため農村が廃れたのだ。

             5  魔獣


 マリエールは、不用意に魔獣を殲滅する事を好まない。例え本来人間が居住していた池の回りだとしても。この子爵領は魔獣にとっても厳しい土地だ。池の回りを除いては住むところがない。し烈な戦いの末人間が高台に逃れたからと言って魔獣を恨むのは筋違いだろう。何も魔獣が人間を襲ったわけではなく、農作物を守る戦いに人間が敗れただけだ。

 マリエールは魔獣を転移させる事を考えている。領内に池や川は幾つかあるが人間が住んでいた池は扇状地の無水川の下流にあって人間が住んでいた頃には池の下流には永く川が流れてなかった。運悪く下流に川が流れた時期があった。魔獣が流れ込んだのはその時期だ。魔獣が農地を踏み荒らした。魔獣と人間のし烈な戦いが起こった。

 マリエールは決断できぬままに10歳を迎えた。マリエールは池を大きく囲んで城塞を作った。中の魔獣達を次々と転移させた。城塞の中は魔獣のいない空間になった。

 マリエールは池周辺への住民の受け入れが完了した事を子爵に告げた。父親は、

「100年振りの帰還か。気持ちが高ぶるの。」

既に子爵屋敷も住民の住いもできて秋の収穫の後に移転が決まっている。新しい居住地は高台の10倍にもなる。単純に考えれば住民が1000名になっても可怪しくない。

 収穫が終わって先ず子爵一家が移転した。後は準備ができた住民から移転を始めた。高台の村はやがて水が尽きて死滅する。新しい村は既に秋の始めに植えられた麦や野菜が育っている。アンドロイドも30体になった。移転してきた住民は、

「広いですね。家も畑も。何やら夢のようですね。」

と子爵に言う。

「夢じゃないさ。これが現実さ。」

秋の収穫後も村民達はアンドロイドの指導で忙しく働いている。秋から春にかけての農作業に勤しむ者、小屋や家具を作る者、農耕や狩りの器具を作る者、狩りをする者などだ。

 マリエールはこの移転の時期もっぱら引っ越し作業を手伝っていた。アイテムボックスに荷物を入れて引っ越しを手伝う。

「マリエールお嬢様、我々の引っ越しまで手伝って頂いて申し訳ございませんね。」

あまり申し訳なさそうに村民はいう。マリエールは昔から運ぶのが仕事だ。村民も感謝しているが100年も続いた伝統だ。領主一族が運ぶ。あたり前の事のように村民は思っている。

「平気ですよ。慣れていますから。」

それももう終わりだ。池は魔獣から奪還した。既に水くみの仕事はもうない。5歳の子どもに水くみをさせていたなんて酷い大人だ。魔法があるという理由だけでそんな理不尽が通っていた。100年もだ。良く続いたものだ。

 100人しかいない領地が子爵領なんて不思議な物だ。しかしかつて栄えた頃は数千人が暮らした事がある。100年前までは、魔獣に殺されたわけではない。ただ廃れただけだ。かつての繁栄が取り戻せるのか誰も知らない。だけどマリエールは取り戻す気だ。そのためにマリエールは今ここにいる。愛する人々に幸せをもたらす事がマリエールの使命だ。

 子爵領がかつてのように繁栄するのかは判らない。しかしそのためにマリエールは今ここにいる。愛する人々に幸せをもたらすのだ。

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