勇者のお披露目
とうとう、この日がきた。。。
まだまだ知識もなく戦技的にも未熟である私を、勇者として全ての国民にお披露目する日だ。
「イリス様、本日もよくお似合いです。今回の衣装も貴女様の愛らしさを引き立たせております。」
「えぇ、本当に。今日が貴女様の初舞台。これからの行く末を披露する時。貴女様の美しさを余すことなく、人々に届けられるよう、張り切らせていただきました。よく、ご披露ください。」
そう、こちらに発破が掛かる元気な声で激励するミーナと、私の不安心を取り除く様な穏やかな声を聴かせてくれるイレーネ。そんな2人が気合いを入れて、私を着飾ってくれたのだ。何も怖いものがない。
銀の髪に合う髪飾り。太陽がモチーフの細目の金色のかんざし。それに、私の紫の瞳に合うような、クリームイエローの膝丈ワンピースのドレス。シンプルな作りで可愛らしいんだけど、動きやすさも兼ね備えたスポーティなデザイン。私が女の子って分かるくらいの愛らしさを残してるんだけど、勇者だということもわかるくらい華美過ぎず、このまま動き回るのも苦もないって装いだ。
ここまでしっかり衣装を整え、髪型もまとめてくれたのだ。だから私も、2人のその想いをどうにか支えにして、この場に立っている。
これからずっと、2人の優しさに私は頭が上がらないのだろう。そんな思いをしている。。。
「2人ともありがとう。頑張ります。」
ワーー……ワァーーーッッ………
2人に感謝を伝えた私は、王様、エリオット様と共に、歓声を上げた国民が押し寄せる、一般開放された王宮のバルコニーへと一歩を進めた。それは、とてつもない緊張に違いなかった。
戦技訓練のこれからがやっと決まって、数日が経つ頃。エリオット様から話をもらった。
国民の前で私のお披露目式を執り行うと。色々な媒体に私を取り上げてもらうため、周知期間も含めて、2週間後に行うそう。
本来はもっと早くに行いたかった様だが、私が栄養不足の子どもであったことも影響して、今の時期になったのだ。少し前の私だと見栄えが悪く、国民に余計な不安を持たせることになるかもしれなかったから遅らせてくれていたようなのだ。
まぁ、‘ようだ’と言ったのは、直接エリオット様から言われていないというか、言い方のニュアンスでそうなんだろうと私が思っただけのことだが。。。
だけど考えただけでも分かるだろうが、私の推しである魔王、セレネアが魔法を使用し、ヒト族の居住区域まで声を届けたことだけでも相当の力を示している。これだけで、気づく国民を恐怖に陥れることは容易いし、その声にも人々をゾッとさせる様な冷たくも強者を示す力強い響きがあった。にも関わらず、これに対抗する勇者がボロボロな状態であるのだ。間違いなく勇者に期待していた国民にとって、ただの魔物よりも弱そうな状態では、いたずらに不安を煽るだろう。
それに、選定式で定められた勇者だから、未だ幼いことは周りがわかっている状況だ。幼さ以上に余計、これからを悲観させてしまう。
だって、魔王の全体魔法を見るだけで、彼女が力を統べる者と示しているのに、勇者はまだヨチヨチ歩きの赤子同然なのだ。誰だって、少しでも勇者が強そうであってほしい。ボロボロの状態でのお披露目は、私の成長するこの10年間を、ただの破滅へのカウントダウンと思われてしまう。
それなら、少しでも遅らせて見目を整え、教会と王国、ヒト族の2つの権威が私を平等に育てている。そして、その2つの力が、私を勇者として旅立てるよう、今もしっかりと強くなる様に育て上げており、権威も勇者も、頼りになる存在だと周りに示すことで、国民に安心感を与える準備をしていたと、嘯くほうが、幾分か国民は納得する。
ただそのパフォーマンスが、今回のお披露目の目的なのだ。つまり、結果的に国民の先行きを明るくすることが私に求められるお披露目の意味なのだ。
だけど。
けれども。。。
私もこの国に生まれた民の1人なのだ。それは、皆んな知っているのだろうか?
確かに私は一般的な民よりも物覚えは良くて身体的にも動きが良い。それは認めよう。
それでも私は、1人の子どもである。その私1人をもってして、勝手に一喜一憂するとは身勝手なものだ。
だから、私は、私に優しくしてくれたイレーネとミーナ、そして最初に救い出してくれたマルクスさん、エリオット様たち、彼らの要望のためにここに立つ。他の知らない人のためになんか、立ってやらない。
私が虐待を受けていた時に見て見ぬふりをしていた、街の人たちのためには立ち上がらない。
これだけは、ここに決めて進むのだ。
そして、そんな私が望むことは魔王との邂逅、そしてその気持ちに触れて感謝を伝えること。
私に生きることを思い出させてくれた、その‘声’に、お礼を捧げること。だから、彼女が望むなら、私はこの戦いを放棄すらしてもいいと考えている。
まぁ、魔王に会うまで死ねないことは変わらない。だから対等の力は必要なので、黙って訓練は受けるけど、これは内緒の気持ち。
場合によったら墓場まで持っていく秘密。
勇者を勝手に祀りあげるこの国の民に対する、心ばかりの反逆心。そんな私だから、これから旅を共にする仲間も、本当に必要なのか、考える必要がある。だから誰にも教えない。私だけの誓い……
「民よ!我が愛するフェーリア王国の民よ!!今ここに、宣言する!!我らが敬愛してやまない太陽神フレア様の愛し子、イリス!彼女が我らの勇者である!!そして、我らの国のため、フレア様のため、戦う者である!!皆の者、勇者イリスに深甚たる謝意を示すのだ!!」
(ワーーーーーッッ!!!勇者様、万歳!!勇者様、感謝します!!!)
ああ、こんな暗い感情を持つ私を知らずに、声高に私を崇める民のなんと愚かなんだろう。少し可愛くみえてくるのが、またもどかしい。
「これより、太陽神フレア様の愛し子、勇者イリス様より、民の皆様へ、お声がけいただきます。イリス様の声は、我ら教会からの言葉と同じ。それはこれから先、変わらぬ真理。イリス様の旅に邂逅する者は、喜びと声を聞きなさい。これは、全てにおいて優先される事項です。」ヒソッとエリオット様が、「さぁ、イリス様、国民に声を掛けてあげてください。」
段取りどおり、私は2人の発言に合わせて、国民に戦うことを宣言する。だから。
すーっと息を吸い込み腹に力を込めた。
「フェーリア王国の皆様。私は、勇者イリス。フレア様に認められ、勇者の職業に当てられた存在。これから、皆様の代わりに、魔王セレネアと戦うことを定められた存在。神々の代行を務める者。私の一手が、神の一手、魔王の一手がニクスの一手。互いに苛烈な一手となることが予測されます。これは、皆様へのこれからにも影響のあることです。どうか、それをゆめゆめ忘れることのないよう、お約束ください。そのお約束があれば、私は戦えます、、、戦います……!!誰よりも、真っ直ぐに戦い抜きましょう。ですから、どうか、これを他人事と捉えないでください。これは、我々ヒト族と魔人族の、古来より定められた戦いであります。。。!!それを、皆様、思い出し続けてください、、、」
そう、強く主張をした。私の、私だけの人生を、他の人の人生に塗り替えられないよう、釘を刺した。
(ワーーーーーッッ………!!!)
…………。
興奮した国民に私の言葉が届いているのか、自信はないが、それでも、私の想いを彼らに宣った。
「勇者様。ご立派に演説されていました。貴女の想いが、その声が、民の心に響くことを私は確信しています。」そう、エリオット様が私に微笑み、「ああ、勇者イリス。其方はこれから、民の恐怖をまとめ、その想いを背負い魔王に立ち向かう。腹から響く良き言葉であった。その想い、しかと受け止めたぞ。」と、王様が私を励まし満足気に目を細めた。
2人は私の気持ちを、知っているのだろうか。そう疑り深くなるほど、2人の表情は穏やかで優し気だった。。
誤字の修正です。




