勇者の戦技訓練
セシルたちとの座学の研鑽を続けている間に、エリオット様の仰っていた準備期間の1か月が経とうとしている。その間、戦技訓練の講師として招かれる騎士の方たちも、私に会っておかなければならないと思うのか、日替わりではあるが、何人かの人が交代交代に、来てくれた。
ただ、その中に騎士団長様も含まれていたところを見ると、恐らく来てくれている人たち、幹部クラスなんだろうと思う。
さっきも言うように、座学の時間が現在取られているのは、基礎学力のない私に、講師の授業を少しでも早く理解できるよう、エリオット様が講師を買って出てくれているからだ。
ただ、そのエリオット様が教会でのトップだからなのだろうか?騎士の方たちも、似たような命令が出ているのだろう。私の元にくる方たちも、戦技訓練においては、上位クラスの強さを持つ人たちなのではないかと思う。とてもその風貌などが歴戦の猛者、という姿なのだ。
だけどこちらでも、私に基礎がないからか、基本となるストレッチや基礎体力の向上が目的になっているみたいだ。これだけ体幹など鍛える訓練、まるで前世での学生の頃みたいだ。部活でしていたウォーミングアップと同じ要領なのだ。だからきっとそうなんだろうと思う。何故ならこの一か月の間に体力が付いたように感じており、自由時間の追いかけっこでも逃げおおせるのだ。ああ、セシルたちとの追いかけっこということでもない。この中央教会で面倒を見ている孤児たちが私の遊び相手になってくれている。
エリオット様も、皆んなと仲良くして遊んで欲しいって言っていたから、それに甘えて遊ばせてもらっている。皆んな元気でお転婆なのだ。はしゃぎ甲斐があるというものだ。だけど本来私は前世の記憶があるのでこちらの孤児より精神年齢が高いはずだが、まるでお姉さん味がない。解せぬ。。。
「勇者様。こちらにおいででしたか。」
あれ?今日は騎士団長が私の訓練をみてくれる日だったのか。最近はめっきり彼が来ることはなかったので、多忙なために来られないと思っていた。だけど今日の彼はまるで軽く運動をするような、ラフな格好。だって、以前に来た時の様な、騎士服を着ていない。それに、、、何だか後ろに動く影がある。
あれは、、、、
「よくお気づきで、勇者様。やはり貴女様は察しがいい。ほら。後ろにいないでこちらに来なさい。」
いや、まあ。チラチラと見え隠れしてれば察しが悪くとも気づくと思うが、、、と思っていると、騎士団長様が後ろの影に声をかけ、私の前に差し出した。
「さぁ、勇者様だ。ご挨拶しなさい。」
「う。。。あの。。。ぼ、く。あ。わたしは、騎士団長レオンの息子、ガレスと申します!職業は、騎士です。これから、お見知りおきください、、、」
自己紹介を頑張ってしている少年。少し高めでハスキーな感じだけど声変わり前の声。お腹からしっかり発声するから、耳に届く。きっと、声変わりが終わればそのハスキーがウィスパーボイスになって、色気も漂う声になるんだろう。そんな感じ。うん、やっぱりどんな声優使ってたとかは全く思い出せないけど、その声を思い出して、キャラの設定も思い出せた。攻略対象者、騎士のガレス、、、多分今は10歳の少年。
いたなー。。。なんて思うけど、本来彼も勇者の幼馴染の設定はないはず。それどころか、こんなオドオドしたキャラじゃなかった。
彼は、真面目で真っ直ぐな、守護者のようなキャラで、将来騎士団長の位に就くことを約束されているエリート騎士で、堅物の硬派キャラ。
黒髪黒目をザンバラに切られた髪型が特徴で、見た目に無頓着なのに、元が良いから、女性や男性にもモテた。それはもう、騎士という職業でエリート街道を約束された好物件だけでなくて、彼の切れ長の目に色気を感じる女性やうん、男性にもモテまくっていた。だから、髪型すら無頓着にして顔に傷まで作って対策をしている。
だけどそんな姿でも逆に色気が増している様に見えるのだろう。自分に迫ってくる人たちが、媚薬を使ってきたりするため、誰も信用できず他人が苦手だから、最初、女勇者にも一歩引いていた。
同じ男であっても他人自体を信用していない彼の、固く閉ざした心を少しずつ開かせて通わせ、少しずつ解いていく。そんなめんどいキャラ。
攻略方法は、見た目に絆されず彼の本質を見抜いてその在り方を大事にして、彼のトラウマを克服させること。そして、彼に癒しを与えること。いや、なんだその設定。よくあるモリモリ設定ではないか、、、攻略キャラの中でも最難関キャラだっただけあるのか…?
だけど、セシルは私が知らないだけかもしれないが、ガレスと今出会うなんて話はなかったはず。まぁ、ラウルについては、幼馴染キャラってあったから、ある程度は回想シーンに子どもの時のエピがあるくらい何かしらあったけどさ。騎士キャラであるガレスにそんな設定あったはずはないんだけどな。。それとも、私が忘れているだけで、設定されていたのか??ダメだ、思い出せない。。。
それどころか、騎士団長レオンの息子という情報、設定にあったか??そんな設定なら覚えてそうなモノだが、モリモリ設定過ぎて忘れているのか、、??やっぱりダメだ、思い出せない。あぁ、それくらい私の中で頭の混乱が大渋滞している、、、、、
「勇者様。混乱されるのも無理はありません。本日より、貴女様の教育係として、私レオンが着任いたしました。それに伴い、騎士団長としての職を辞して、教会への派遣が決まりました。また、貴女様と切磋琢磨できる仲間として、我が息子を連れて参りました。」
いや、私の混乱はそこではなかったが、勘違いした騎士団長様が私に説明してくれる。
だが、その情報すら私を混乱させるとは思ってもみなかった。なんだ、それは。私のために教会に派遣って。騎士団長は、それでいいのか?それに、あの謁見の場では、騎士団長を筆頭に皆んなで私を育てるのではなかったのだろうか?なぜ今、彼が騎士団長を辞す必要があるのか?
「勇者様の驚きも無理はありません。騎士団が一丸となり貴女様を鍛え抜くと、我らは王に進言しておりましたが、どうにも貴女様の膂力が抜きん出ておいでのよう。これからしっかり基礎を固めるのであれば、同じ頃合いの強さを持つものと共に訓練をしなければこれ以上は見込めない。様々な者が貴女様に関わることで、貴女様の軸にブレが生じることが問題となります。ですので、総合的にみて、これからの貴女様への訓練には私が責任を持って教育させていただきます。」
要は、他の者で役不足だから、集中して騎士団長であったレオンの教育を受けるということか。そのため、場所も一括でする方が効率がいいからって、教会に間借りしてはいるが、一応王家の名の下に、私を鍛えるということにしたのか。だから、最近彼は来ていなかったんだろう。引き継ぎを終わらせなくてはならないから。。。
「私のために、他の仕事、誰かに教えてきたんですか?ご迷惑でしたね。ごめんなさい。」
「いえ、そのようなことはございません。貴女様の、ひいては世界のため役に立てる私はとても栄誉なことにございます。」彼が、私にフォローをする。
そんな中、ガレスは今もオドオドしていることが気にかかる。私は5歳の小娘だ。彼に危害を加えられることなどないというのに、、、
「ガレス。なんだその姿は。落ち着きのない姿を勇者様の前でするものではないぞ。お前の方が5つも上だというのに。もっと堂々としなさい。」
「う。。。申し訳ありません。父上。勇者様、、ただ、緊張が強く、どうしていいかわからず、、、」
「はぁ。お前は本当に、弱気なことだ。もっと強くしっかりしなさい。騎士という職業のお前の力は、私の息子であるお前の力が、こんなものではないはずだというのに、、、もっと前を見なさい。」
「うぅ。。すみません、父上。。。ですが、私が強いはずもないのです、、、父上の期待に応えられるほど、修行も上手くできない。僕1人には荷が重いんです。。。」
「……。強くなくても、私と強くなるんです。だから、貴方は私と同じくらい強くなる。これから10年、私と高め合いましょう。私はイリスです。よろしくお願いします。」
何かを続けようとするレオンの口を塞ぎたく、弱気に反論するガレスにも面倒な思いをしたから。私は、このままでは埒が開かないと思い割って入り、彼に握手を求めた。本来の彼の強さは私がよく知っているから、特に知りたいこともない。だから、取り敢えず挨拶を済まして、この後の話を続けたいと思った。だから、適当なことを言っていた。だというのに。。。
『イリス様、、、』「なんと慈悲深い。貴女様のその優しき強さは、やはり勇者の器。私はこれから、貴女様の成長を見届けられるなんて、とても幸福です。」
キラキラした目を私に向ける親子。レオンは何だか勘違いしている。だけど、ガレスも。
「僕も、貴女と同じ先を見たい。僕も貴女と強くなる。。。なります。なので、これからよろしくお願いします。。!!」
勝手に解釈して前向きになっていた。。。




