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82話 討伐対象『魔王の娘』⑭~危急存亡の秋は、案外あっさり来る。




〇〇王城〇〇



 天井に逆さ立ちするルティへ、ハニは敵意をむき出しにした。

 

 サラは魔杖〈天使の杖〉を突きあげつつ、ハニに尋ねる。


「彼女は、『敵』ですか?」


 ハニがうなずく。


「吸血鬼を統べる〈ヴァンパイア・ロード〉、それの一人娘だよ。つまり、ヴァンパイア王女。吸血鬼の国家ガラキは、魔族国家ルーファの属国だからね。使節として来たのを、魔王城で何度か見たことがある」


 ルティは天井より落下して、ハニの前に着地した。


「わらわの国が、ルーファ国の属国じゃと? 舐めた口をきいてくれるではないか、ラプソディの狗が」


 サラは、ハニに尋ねる。


「ルーファとガラキが──同盟国ということは、敵対はしていないわけですよね?」


 属国という表現は避けたサラだった。

 

 いずれにせよ、ヴァンパイア王女が、リウ国の王城にいることは、異常すぎるわけだが。


 ハニは渋々と答える。


「……そうとも言えるけど」


「その通りじゃ、ラプソディの狗。わらわたちが同盟関係にあることを、失念するのではないぞ」


「……忘れちゃいないよ」


 サラは思う。

 ハニの中では、ルティは歴とした敵なのだろう、と。なにか遺恨があるようだ。

 もしかすると、それはラプソディとルティの間で、起こったことなのかもしれない。

 というのも、ルティは先ほどから、『ラプソディ』の名を強調しすぎる。


 そんなルティは、意地悪く笑った。


「ならば、なぜアドコンナ村で、わらわの同胞を殺したりしたのじゃ? 同盟者のすることとは思えん」


 サラは、アドコンナ村のクエスト時は、まだパーティに参加していなかった。

 ただアドコンナ村で、レイたちが3体の吸血鬼を倒したことは知っていた。


 その件を、ルティは持ち出したのだ。

 ハニが返答に窮したので、サラは助け船を出した。


「──よろしいですか、ヴァンパイア王女?」


 ルティが、冷ややかな眼差しをサラに向ける。


「なんじゃ、人間?」


「リウ国は、ガラキ国とは同盟などは結んでいません」


 これまで、リウ国がガラキ国と関わることは無いに等しかった。少なくとも、国家レベルでは。

 というのも、両国の間には、大国ルーファがあるからだ。


 それでも、時にはガラキ国民が、リウ国まで来ることはあった。ただし、ガラキ国民、すなわち吸血鬼の入国は禁じられている。

 よって、それらは不法入国となる。そこまでして吸血鬼が来るのは、人間への吸血行為が目的なのだ。


 こういった事情があるため、リウ国民にとって、吸血鬼は敵なる種族である。


 実際に被害者が出たならば、冒険者ギルドの出番だ。討伐クエストが発注され、冒険者パーティが向かう。


 よってアドコンナ村での一件も、正義があるのは冒険者ギルドだ。

 ただ、討伐した冒険者に魔族がいたことが、事態をややこしくしているようだが。


 とにかく、リウ国とガラキ国は、国家レベルでは没交渉。

 だというのに、なぜヴァンパイア王女が、リウ国の王城にいるのか。


 サラは、その点を追求する。


「ヴァンパイア王女、あなたの目的は?」


 ルティは嘲笑を浮かべる。


「劣等種族に説明してやる義理はないのじゃ」


 サラは、違和感を覚えた。

 サラを侮辱するのは、理解できる。しかし、人間そのものを劣等種族と呼んでしまっては、それはコヒム王子をも侮辱したことになる。

 仮にルティが、秘密裏の外交目的であるのならば、賢明なこととは思えない。


 またコヒムの反応も、不可解だ。

 コヒムは、ルティの暴言に対して、激怒している様子はない。受け入れてはいないが、慣れてしまったという感じだ。


 ルティは、腰に差した鞘から、刀を抜き放つ。刀身がぎらりと光る。


「コヒムよ。こやつらは侵入者であろう? とくに片方は、魔族じゃ。わらわが斬り捨ててもよいな?」


 ハニは、ルティを睨む。


「ルーファ国とガラキ国の同盟関係は、どこにいったのかな?」


「ラプソディの狗よ。そちは、リウ国の王城に侵入した魔族として、斬られるのじゃ。同盟違反ではないぞ?」


 サラが、止めに入る。


「コヒム殿下、ハニさんは敵でありません。わたし達は王城の異変を察知し、お助けできればと参上したのです。この王城には、恐ろしい魔族が潜んでいます。アデリナという魔族が──」


 アデリナの名を聞いたコヒムが、激憤の表情となった。


「この下民が、気安くアデリナ様の名を口にするな」


 瞬間、サラは悟った。

 コヒムとルティは、アデリナと結託している。

 否、アデリナの配下なのだ。


 そして、コヒムがアデリナを招き入れたのだとしたら──。


 サラは叫ぶように言った。


「コヒム殿下! あなたは、クーデターを起こしたのですか! 恥を知りなさい!」


 コヒムが怒りを滲ませた口調で言った。


「ヴァンパイア王女よ。アデリナ様の名のもとに、侵入者どもを駆逐していただこうか!」


「ハニさん!」


 ハニが〈ハウンド・フレイム〉を発動。

 コヒムへと噴出した火柱は、しかし護衛の一人が盾となって、防がれる。


 一方、火柱はルティを標的としても、噴出していた。

 ルティは刀を一閃させ、火柱を切り裂いてしまう。


 ハニは、必殺技スキルを発動。


「〈破拳〉!」


 ハニの右拳が叩き込まれ、通路の床に大穴が開く。

 続いてサラを抱き上げて、その大穴から下へと飛び降りる。


「サラ。ひとまず、態勢を立て直すよ!」


「はい!」


 ハニたちは下の階に着地。

 上方を見上げると、ルティも大穴から降下。刀を振り下ろして来る。


「逃がさんぞ、ラプソディの狗めが!」


 ハニは魔法障壁を張って、ルティの刀を防御しようとした。

 しかし、ハニの脳内で警報音が発せられた。


 ルティの刀には、見覚えがある。すぐにハッとした。


(〈砂漠梟〉が装備していた刀だよ!)


 ハニは魔法障壁を張らず、サラを抱えたまま、横っ飛び。

 紙一重で、ルティの刀の一撃を回避する。


〈砂漠梟〉の刀は、オリハルコン製だ。ラプソディの魔法障壁さえも、オリハルコンの刀身は切り裂いてしまったのだ。


 ハニは舌打ちする。


(まさか、〈砂漠梟〉の刀が、ルティの手に渡っていたなんてね。ただでさえ、厄介な敵なのに)


 ルティは刀を大上段に構える。


「ラプソディには、そちの生首を送り付けてやろう! あのアバズレが悲しみで顔を歪ませるのが、いまから楽しみじゃ!」


 ハニが怒鳴る。


「いま、ハッキリしたね。キミは、ラプソディ様を憎んでいるようだ。そうと分かれば、ここでキミを生かしておくわけにはいかない。〈ヴァンパイア・ロード〉の娘だろうとも、遠慮なく始末させてもらうよ。このボク、ラプソディ親衛隊が一人、ハニがね!」


 ハニが〈ゴッド・フレイム〉を発動しようとすると、サラが止めた。


「ハニさん! 王城内には無関係の人たちも、沢山いるのですよ! こんな通路で〈ゴッド・フレイム〉を使ったら、巻き添えが出てしまいます!」


 ハニが困った顔をする。


「けど、サラ。攻撃を加減して勝てる相手じゃないよ」


「はい。ですから、わたしとハニさん、2人で協力して戦うのです」


 サラの強い決意を感じ取って、ハニはうなずいた。


「けど、もう少し広いところに移動しよう。〈ゴッド・フレイム〉が使えるくらい、広いところに」


 ハニは〈スピード・スター〉を発動し、サラを抱いたまま移動。

 広いスペースを探していたところ、出たのは王の間だった。


 玉座は無人だ。

 ハニはサラを下ろしてから、鼻をクンクンさせた。


「ここ、血の臭いが強いね。まるで大量殺人があったようだ」


 サラは周囲を見回した。とくに死体などはない。

 数えきれない死体があったとしても、すでに掃除されたようだ。


「王の間で殺戮があったのでしたら、国王陛下は──」


「そちの国王は、コヒムによって、殺されてしまったのじゃよ」


 そう言ったのは、王の間に入って来た、ルティだ。


 ハニは、サラを不安な気持ちで見た。

 国王がすでに殺されていたと知って、サラが動揺するのでは、と思ったのだ。


 しかし、サラは凛とした表情で、ルティを見返している。

 内心では、動揺はあるはずだ。だが、それを表には出していない。


 ハニは思うのだ。


(サラは立派に成長したものだよ)


 サラは、ルティに向かって言う。


「ヴァンパイア王女。わたしの名は、サラ。64代目〈聖なる乙女〉にして、冒険者です。そして、あなたを討伐する者です!」


 ルティが嘲笑う。


「わらわのレベルが分かっておるのか? ステータスの数値を見れば、戦力の差は歴然と──」


「黙りなさい!」


 サラは〈天使の杖〉を、ルティへと突きつける。


「誰が、そんな情報を寄こせと言いましたか。失礼しますが、ヴァンパイア王女。あなたとお喋りするつもりはありません」


 ルティは吐き捨てるように言う。


「人間ごときが」


 サラは、ハニへと視線を向ける。


「ハニさん、準備はいいですか?」


 ハニはうなずいた。


「もちろんさ。ヴァンパイア王女を、ボコろう」




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