81話 討伐対象『魔王の娘』⑬~魔窟と化した王城へ。
ハニは、サラと共に、ある酒場のボックス席にいた。
呪術師を倒したのち、ひとまず人込みに紛れることにしたのだ。それなら賑わっている酒場などは、丁度よい。
ハニはこの時ほど、〈テレパス〉を使えれば良かったのに、と思ったことはなかった。〈テレパス〉があれば、どこにいようとラプソディと連絡が取れる。
しかし、〈テレパス〉は向き不向きの強い魔法だ。ラプソディでさえ、覚えていないのだから。
サラが心配そうに言う。
「いまごろ皆さんも、討伐パーティと戦っているはずです。大丈夫でしょうか?」
ハニは、オレンジ・ジュースを飲み干した。
「王都内の動きを探ってみようか」
「そんなことができるのですか?」
「探索魔法を王都全体に広げるだけだよ」
ハニもレベルを上げている。
アドコンナ村のころより、探索魔法を実行できる範囲は、格段に広まった。
「探索魔法なら、皆さんの位置が分かるのですか?」
「うーん、たぶんね。ただ、時間はかかるけど」
サラは両拳を握って、うなずいた。
「ハニさん、頑張ってください」
王都全体の探索魔法を終えるまで、20分かかった。
とたんハニはテーブルに突っ伏した。かなり精神力を削る仕事だったのだ。
それから、王都の地図を広げて、サラに示す。
「とりあえず、報告しておくけど。ローラは逃げたよ。冒険者ギルド本部は、空だもの」
サラは、あまり驚いた様子ではない。
「ローラさんなら、〈ジャッジメント〉の拘束も解けると考えていました。ですが、ローラさんは討伐パーティに復帰しないように思います。ただの勘ですけど」
「サラの勘が当たることを願おうか。だってさ、ボクたちの状況は最悪だよ。ラプソディ様は、王都のどこにもいないのだからね」
「どういうことでしょう?」
「考えられることは、3つ。王都の外に出たのか、別の次元世界にいるのか、探索魔法にかからないようにしているのか」
「どれもが考えられますね」
ハニはうなずいてから、別の深刻な話へと移った。
「レイも見つけられなかった。ラプソディ様と一緒にいるのなら、心配しなくていいと思うけど……あと、リリアスを見つけたと思ったら、王都の外に出て行ったね」
「リリアスさんが単身で、ですか?」
「うーん、そうでもないんだよね。移動速度から、馬車に乗っているようだったし。もしかして、捕まったのかなぁ」
「ですが、リリアスさんはクルニアさん以上の実力者、ですよね?」
サラの指摘は、正しいともいえるし、間違っているともいえる。
リリアスは、時間魔法を使ってこその実力者だ。
MP節約などの目的で時間魔法を使わなければ、ただの幼女である。
残念ながら、ハニの探索魔法の範囲は、王都までだ。王都の外に出たリリアスを、追うことはできない。
(まぁ、聖剣エクスカリバーもあるし、リリアスは心配ないと思うけど)
ハニは続けた。
「良い知らせもあるよ。クルニアさんが、王都に来ているね。どうやら、敵を追跡しているようだ。合流するとしたら、クルニアさんだね」
そもそも、ほかに合流するべき相手もいない。ラプソディとレイは見つけられず、リリアスは王都の外へ行き、リガロンはまだ帰って来ていない。
サラが立ち上がる。
「では、クルニアさんのもとへ向かいましょう」
しかし、ハニは立ち上がらない。まだ報告は残っているのだ。
「気になることがあるんだよね」
サラは椅子に座りなおした。
「気になること、ですか?」
ハニは、地図の一点を指さした。
王城である。
「ここで、何かが起きている。ボクの探索魔法では、詳細までは掴めなかったけど。大きな魔法が使われたようだ。ゾッとする魔法の痕跡があった。そして、それはラプソディ様と感じが似ていた」
「ですが、ラプソディさんではないのですね」
ハニはうなずく。
サラが不安な表情で言う。
「アデリナ、ですね」
「ボクも、そう思う」
アデリナとラプソディは姉妹だ。魔法の感じも似ているだろう。
サラの話では、冒険者ギルドが討伐パーティを差し向けてきたのも、裏ではアデリナの暗躍があったようだ。
「ハニさん。わたしは、王城に向かいます」
「自殺行為だよ、サラ。いまのキミじゃ、アデリナの足元にも及ばない」
「はい。それは分かっています。〈聖なる乙女〉のMAXモードでさえも、アデリナを倒すことはできませんでした」
「うん。それに、アデリナは〈聖白石〉を狙っている」
「〈聖白石〉は、死んでも守護します」
ハニは、サラの表情から決意を読み取った。
「どうしても、行くんだね?」
「わたしは、冒険者です。ギルドからは討伐対象にされましたが。それでも、リウ国のために戦う冒険者でありたいと、思っています」
サラは一拍置いてから、続けた。
「わたしは、魔族は敵であると教わってきました。ですが、ハニさんやラプソディさんと出会い、それは違うのだと知りました。優しい魔族は沢山いて、友達になることができるのだ、と。ただし、人間の中に危険な者がいるように、魔族の中にも危険な者がいます。アデリナがそれです」
「その点には、異論はないよ」
「アデリナが、リウ国の王城にいる。大げさではなく、この国の危機といえます。だから、わたしは行かなければなりません。リウ国の冒険者として」
「ふむ──」
ハニは、腕組みした。
リウ国の王族が皆殺しにされようとも、ハニの知ったことではない。もともとリウ国で冒険者などやっているのも、ラプソディのためでしかないのだ。
しかし、サラを一人では行かせられない。
ハニにとっても、いまやサラは大切な友達なのだから。
「分かったよ、サラ。ボクも付いて行こう。キミを守るくらいのことはできると思う」
「ありがとうございます、ハニさん」
「では、2人ですぐに向かおう」
ハニは考える。
クルニアとは、まだ合流しないほうが良いだろう、と。
クルニアも、サラのことは気に入っているはず。
ただクルニアには、冷徹な面もある。場合によっては、サラを見捨てる判断をするかもしれない。
たとえば、ラプソディとサラを天秤にかけるような状況で。
(とにかく、クルニアさんは、王城に行くことに反対するだろうからね)
※※※
王城を囲むのは、三重の城壁だ。
しかし、ハニの敵ではない。
ハニは、サラを抱きかかえ、高々と跳躍。
そうして、軽々と城壁を飛び越えて行く。
すでに隠蔽魔法〈カバー〉も発動してある。気配を消す魔法だ。あとは夜陰に紛れるだけで、まず衛兵レベルには察知されない。
かくして、王城内への侵入は、楽勝だった。
問題はここからだ。
「ところで、サラ。ボクたちは助太刀に来たわけだよね。けど、正確には何をするのかな? ただでさえ、冒険者ギルドの討伐対象なのに」
「冒険者ギルドは、独立性の強い組織です。国王陛下には、わたし達が討伐対象であることなど、ご存じないはずです」
「……もしかして、国王に謁見するの?」
「アデリナが王城に忍び込んでいることを、伝えねばなりませんからね」
ハニは溜息をついた。まさか敵国の国王に、こんな形で会うことになるとは。
すでに国王オーウェンは、コヒムによって亡き者にされている。しかし、そんなことは知るはずもない、ハニとサラだった。
方針を立てたところで、2人は王城内の通路を進んだ。
ふいにハニは立ち止まり、サラに注意する。
「通路の角の向こうから、数人ほど来るね。隠れよう」
サラは首を横に振った。
「いいえ。コソコソしていても始まりません。角から来られる方に、国王陛下への謁見をお願いしましょう」
ハニは、何度目かの溜息をついた。
少なくとも、はじめて会ったころより、サラは逞しくなった。同時に、無謀にもなったわけだが。
ハニも覚悟を決めて、サラと共に通路で待った。
やがて、ハニが察知した数人が、通路の角を曲がって現れる。
サラがハッとした。
「コヒム殿下!」
取り巻きに囲まれた、傲慢そうな若者。これが第二王子コヒムだった。
サラが跪くので、仕方なくハニも倣った。
コヒムが何か言う前に、第三者の声が『上』からした。
「ふん。汚いネズミどもが、迷いこんだようじゃなぁ」
ハニは攻撃体勢を取りつつ、声のほうを見上げた。
天井に、逆さになって立っている者がいる。
ハニも知っている少女だ。
(なんで、コイツが──こんなところに居るのさ!)
天井から見下ろしてくる少女こそ、〈ヴァンパイア・ロード〉の娘、ルティだった。




