80話 討伐対象『魔王の娘』⑫~リリアス、姫騎士を作ってしまう。
ラプソディの帰りを待っていたリリアスは、ロリコンの姫様に誘拐された。
あげく、ロリコンの姫様には追手がおり、王都ルクセンを出たところで、追いつかれてしまった。
ちなみにロリコンの姫様は、メアリというようだ。
追手の聖騎士ダッドソンとやらが、そう呼びかけていたので。
リリアスは混乱していた。
(この聖騎士ダッドソンが、ロリコン狩りならば、リリアスの味方? しかし、リリアスが乗っているのに馬車をひっくり返してくるとは──失礼極まりない!)
ロリコンの姫様ことメアリが、抱いたままリリアスに話しかける。
「安心したまえ、幼女リリアス。君のことは、わたしが守る。この命にかえても」
リリアスは、首を捻った。
ダッドソンの狙いはメアリのようだ。よってメアリが解放してくれれば、リリアスは安全なような。
聖騎士ダッドソンに相対するのは、メアリの3人の護衛。
メアリが最も信頼しているのは、護衛のリーダー、サト隊長のようだ。
そのサトが、ダッドソンに向かって、言う。
「貴様の登場で、ハッキリした。第二王子コヒムが血迷ったという急報、事実だったようだな。半信半疑ながらも、メアリ王女をお守りするため、王都からの脱出を決めたのは、正解だった」
ダッドソンは、ダイアウルフから降りた。
「だが、我に追いつかれた時点で、全ては無意味となった。オーウェンも、エイブラハムも、亡き者となった。コヒムが王位につくための障害は、あとはメアリ王女だけだ」
リリアスを抱いたまま、メアリが息を呑んだ。
「父上と兄上が……コヒム、何と恐ろしいことを」
リリアスは思う。
どうやら、かつてアデリナが魔王を弑逆しようとした時と、似た展開のようだ。
ただし、アデリナは失敗したが。
リリアスは、ダッドソンとサト隊長に、スキャン魔法をかけてみた。
ダッドソンのレベルは、886。
対するサトのレベルは、256。部下である2人の護衛に至っては、120と136だ。
レベルだけ見ると、ダッドソンには勝てない。ただ数的には有利なので、サトが隊長として有能ならば、まだ勝機はある。
ところが、だ。ダイアウルフのレベルを見て、リリアスは勝機がないことを知った。
ダイアウルフは、単体でLv650もある。
(これは、死んだ)
リリアスは、メアリに忠告することにした。
「ロリコンの姫様」
メアリは不思議そうに言う。
「わたしはロリコンではないぞ、幼女リリアスよ」
(自覚がない……末期だ)
「……姫様の護衛たちでは、ダッドソンには勝てない」
メアリは微笑んだ。
「心配するな、リリアス。いざとなったら、このわたしが戦おう」
リリアスは目を見張った。
メアリは、ただのロリコンではなく、腕に自信がある姫のようだ。強さは性癖には左右されない。
どのくらい強いのだろうかと、リリアスはさっそくスキャン。
結果、メアリはLv46だった。
一般的な農民でLv2とされる。よってメアリは、どこかの農村でなら、無双できる。
姫様として護身術を習ったところ、勘違いしてしまった、というわけか。
(このロリコン姫様、雑魚だ。あまりに雑魚すぎて、ダッドソンの強さが別次元なことさえ、気づいていない)
リリアスが嘆いていると、ダッドソンたちの戦闘が始まった。
ダッドソンは、必殺技スキル〈分身〉を発動。5体となり、サトたちに襲いかかる。
〈分身〉の対処法は、本体を狙うことだ。5体のうち、ダイアウルフが付き従っているのが、本体だろう。
サトも同じ考えらしく、ダイアウルフの近くにいるダッドソンを攻撃するよう、部下にも指示した。
そこでリリアスは考える。
ダッドソンも、〈分身〉の弱点は知っているはず。つまり、本体を攻撃されると、分身も消滅する、という弱点を。
ならば、それを逆手に取るかもしれない。
試しにリリアスは、再度、スキャン魔法をかけた。それから、満足した。
リリアスの読み通りだったのだ。
スキャンで判明したことだが、5体の中に、本体はいなかったのだ。
ダイアウルフが付き従うダッドソンも含めて、5体とも分身なのだ。
こういうことだろう。
ダッドソンは、〈分身〉で5体の分身を出す。
同時に、本体のダッドソンは姿を消す。
おそらく、透明化の〈インビジブル〉あたりで。
すなわち、サトたち護衛の相手を、分身たちにさせておく。
その隙に、本体のダッドソンが狙うのは──。
リリアスは迷ったが、仕方ないので警告した。
「ロリコン姫様、危ない!」
メアリは顔をしかめる。
「だからロリコンではないと言っている」
リリアスは頭を抱えたくなった。しかし、ここで見捨てると後味が悪い。
たとえメアリが、幼女の天敵だとしても。
リリアスは、血統魔法にして時間魔法を、発動。
「〈タイム〉!」
時の流れが停止する。
このときリリアスは、除外者を変更していた。
時間停止の影響を受けない除外者は、その数が多いほどに、リリアスのMP消費ペースが早くなる。
そこでリリアスは、節約することにした。
メアリだけを除外者としたのだ。
こうしてリリアスとメアリを抜かし、世界の時間が止まった。
メアリが驚いた様子で周囲を見回す。
サトたち護衛、対する分身のダッドソンたち。全員が、完全に固まっている。時間が停止しているのだから、当然だ。
「こ、これは一体?」
「リリアスが時を止めた」
リリアスがそう説明すると、メアリはすぐに状況を理解した。頭は悪くないようだ。
それから、独り言をつぶやいた。
「……時が止まっているならば、悪戯し放題ではないか」
誰に対し、どんな悪戯をするのか。
リリアスは、追及しないことにした。恐ろしいので。
「腐れロリコン姫様」
「なぜ侮辱された?」
「ダッドソンの本体は、すぐそこまで迫っている。ただし、透明化しているため、普通に探しても分からない」
「なんと。透明化というものを、解除はできないのか?」
「透明化の解除はできない。しかし──」
リリアスは地面から砂をすくいあげて、周囲に振りまいた。
すると、メアリから3メートルほど離れた地点だ。
振りまいた砂によって、人の形が作られた。
すなわち、透明化したダッドソンだ。
もちろん、この本体も時間停止のため、固まっている。
それにしても、リリアスの想定より、ダッドソンは近くまで迫っていた。
(あと1秒でも〈タイム〉が遅かったら、ロリコン姫様は仕留められていた)
リリアスは〈タイム〉を継続しつつ、召喚魔法を発動。
「〈サモンズ〉!」
召喚したのは、聖剣である。
聖剣とは、神々に選ばれた勇者だけが授かることのできる、特殊な剣だ。
リリアスは当然ながら、勇者ではない。
召喚した聖剣は、ある勇者を倒したとき鹵獲したものだ。
もとの持ち主の勇者は、エクスカリバーという名だった。
そこでリリアスは、この聖剣を、エクスカリバーと呼んでいる。
「リリアスは、時の支配者。リリアスの前では、全ての強者は無力──そして、聖剣スキル〈忌み嫌われし者を切り裂く刃〉を発動!」
聖剣が特別なのには、理由がある。
神々によって、聖剣自体に必殺技スキル(聖剣スキル)が、付与されているのだ。それは所有者だけが発動できる。
そして、もちろん聖剣エクスカリバーにも、固有の聖剣スキルがあった。
聖剣エクスカリバーが浮き上がり、自動で斬撃を放つ。
敵を問答無用で切断する、〈忌み嫌われし者を切り裂く刃〉の斬撃が。
かくして、ダッドソンは一刀両断にされた。
さすがのSSSランク聖騎士も、リリアスの敵ではなかったのだ。
だが、リリアスは困った。リリアスが聖騎士を倒したことを、サト達に知られたら、いろいろと詮索されるだろう。
そこでリリアスは、聖剣をメアリに押し付けた。
「なにをする、リリアス?」
「これも、お互いのため」
リリアスは、〈タイム〉を解除した。時の流れが正常に戻る。
ダッドソンが死んだことで、5体の分身も消滅。
狼狽したのは、分身と戦っていた、サトたちだ。
時間が停止している間に、リリアスはダッドソンを始末した。
よってサト達にしてみれば、一瞬で事態が急変したことになる。
ダイアウルフは、主の死を見て取り、逃走した。
サトはメアリのほうを振り返った。とたん、口をあんぐりと開ける。
無理もない。メアリのそばには、一刀両断にされたダッドソンの死体があるのだから。
しかも、メアリは剣を持っている。
リリアスが、メアリを示した。
「ロリコ──ではなく、メアリ姫が、ダッドソンを倒した。神々より授かりし、聖剣エクスカリバーで!」
メアリは、ポカンとした顔。
はじめに反応したのは、サトだった。メアリの前に跪く。
「姫様! 拙者の目に狂いはありませんでした。やはり、あなたは女王となられるお方ですぞ! 神々が授けた聖剣が、その証! あなたは伝説の職業である、姫騎士になられたのです!」
残りの護衛たちも、畏怖の表情で跪く。
メアリは、右手に握らされた聖剣エクスカリバーを見る。
それからリリアスを見た。
リリアスが目顔でうながす。
リリアスとしては、こうするしかない。
メアリはともかく、サトたちに、リリアスの力を知られるのは不都合。
そこでダッドソンを倒した手柄を、メアリに押し付けることにしたのだ。
メアリにも、リリアスの求めが分かったようだ。
メアリは気乗りしない様子で、聖剣を掲げる。
「えー、ご紹介に預かった、姫騎士だ」
姫騎士メアリの誕生であった。
それからメアリは、リリアスを抱き上げる。
「そして、わたしの従者となった、リリアスだ!」
メアリは、リリアスの耳元で囁いた。
「リリアス。わたしを姫騎士にしてしまったのだから、最後まで付き合ってもらうぞ。それにしても、幼女の匂いは良いものだなぁ」
リリアスは思った。
(リリアスは、泥沼に嵌った)




