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67話 サラさん、武者修行の旅に出る⑥~宿命にぶつかった。




〈純白の塔〉の地下シェルターに避難していたヒーラーは、全部で122人もいた。彼ら全員に感謝されて、サラはくすぐったい気分だ。

 同時に、みんなを守れて良かったと思った。


 エネルギー体であり、先代の〈聖なる乙女〉であるミスト。知らぬ間に、サラの師匠にもなっていた。

 そんなミストの案内で、サラとハニは地下シェルターへと降りて行った。


 シェルターの最深部には、台座があり、そこに一個の石が置かれていた。石の大きさは、手の平ほどだ。完全な球体であり、純白。


 ミストが説明する。


「魔石の一種、〈聖白石〉なのです」


 魔石は、この世界に96種類あるとされる。

 それぞれの魔石には、特有の力がある。

 だが、魔石が一つだけでは、力が発動されることはない。

 魔石の力を引き出すには、最低でも2種類の魔石が必要だ。

 また発動される効果についても、魔石の数や組み合わせで、異なったものとなる。

 より強大な力を引き出せるのは、希少な魔石×その数だ。


 サラは、魔石について整理してから、言った。


「有名な魔石だと、〈土門石〉がありますよね。ですが〈聖白石〉とは、初めて聞きました」


「そうなのですね。一口に魔石といっても、ピンからキリなのです。〈土門石〉は、魔石のランクの中では、最もショボいのです。どこでも手に入る代物なのですからね」


『どこでも手に入る』には、少し語弊がある。〈土門石〉1グラムで、金の延べ棒一本の値段はするはずだ。

 ただ市場に流通しているということでは、確かに稀少度は低い。


 ミストは続ける。


「一方で、世界に一つしかない魔石もあるのです」


 サラはハッとした。


「では、この〈聖白石〉が?」


「そうなのです。〈聖白石〉は、この世界に、これだけなのです」


「だからアデリナは、〈聖白石〉を手に入れようとしたのですね」


 ミストが、うなずいた。


「そして、アデリナは失敗したのですよ」


 ハニは納得がいかない様子だ。


「アデリナが失敗した、というのは信じられないなぁ。アデリナが本気で欲しがっていたのなら、いまごろ〈聖白石〉は奪われているはずだよ」


 ミストが誇らしげに答える。


「この私が、それを阻止したのですよ。残りの寿命と引き換えに、代償魔法を発動したのです。〈オーナー〉という代償魔法を」


 サラは、驚いた。

 代償魔法とは、何らかの代償を支払うことによって、はじめて使える魔法のことだ。


 ミストが支払った代償は、残りの寿命。

 そのため、ミストは命を落とした。急遽、後継者が必要となり、サラが選ばれたのだ。


 しかし、サラには疑問がある。地下シェルターには、沢山のヒーラーがいた。その多くが、サラよりも優秀だったはず。

 それなのに、なぜミストは、サラを選んだのか。


 ハニは、代償魔法のことを聞き、納得のいった様子だ。


「〈オーナー〉。この世界に対して、所有権を確定する代償魔法だね。ミスト、キミは〈オーナー〉によって、〈聖白石〉の所有者となった。それは真理のように揺るがない。キミ以外の者が、〈聖白石〉を持ち出すことは不可能だ。たとえアデリナでも」


「そこでアデリナは、卑劣な策に出たのですよ。〈純白の塔〉の住人たちを人質に取り、私に所有権を放棄させようとしたのです」


「ははぁ。それで黒龍ムシャムシャに、〈純白の塔〉を襲わせていたわけだね。そこにボクとサラが、居合わせたと。そして、サラが64代目〈聖なる乙女〉となった」


 サラは意を決し、質問した。


「あの、なぜ、わたしだったのでしょうか? 64代目〈聖なる乙女〉の候補は、他にもいらしたのに?」


 ミストは真剣な眼差しを、サラに向ける。そして、答えた。


「すべては私の直感なのですよ!」


 サラは肩を落とした。


「……直感、ですか」


「私の直感は、よく当たるのです。的中率は、11%なのです」


 ハニが冷ややかに言う。


「それ、よく当たるとは言わないから」


 エネルギー体でありながら、ミストは〈聖白石〉を持ち上げることができた。そうして〈聖白石〉を、サラへと差し出す。


「さぁ、受け取るのですよ、我が弟子。〈聖白石〉の所有権を、あなたに譲渡するのです」


 サラは困惑した。


「……あの?」


「〈聖白石〉は、代々〈聖なる乙女〉に受け継がれてきたのです。すなわち、いまの所有者は、あなたなのですよ、サラ」


「ですけど、あの、ダメです。わたし、〈純白の塔〉にはいられません。仲間たちのパーティに帰らないと」


「それなら心配しなくていいのです。〈聖なる乙女〉は、別に〈純白の塔〉に永住せねばならない訳ではないのです。とくに新米の〈聖なる乙女〉は、各地を行脚し、見聞を広めるものなのです。これを巡礼というのですよ」


「あ。では、ミストさんも巡礼を?」


「いえ、私は出不精なので、〈純白の塔〉でずっと暮らしていたのですよ」


 ハニが「リリアスと同類かぁ」と呟いた。


「あの、ミストさん。やっぱり、わたしには〈聖白石〉の所有者は、務まりません。アデリナの魔手から、今のわたしでは〈聖白石〉を守り切れません」


「それも案ずることはないのです。私が譲渡することで、〈オーナー〉の効力も、サラへと引き継がれるのですよ。よって、サラが譲渡しない限り、〈聖白石〉を別の者が持つことはできないのです」


「そんな、〈オーナー〉の代償を支払ったのは、ミストさんですのに」


 ミストは、優しく微笑んだ。


「私は、後世へと託せるだけで、満足なのですよ」


 サラは、覚悟を決めた。

〈聖なる乙女〉になることを選んだ。それは責任も背負うということだ。


「わかりました。わたしが〈聖白石〉を護ります」


 サラは、自身の収納ボックスに、〈聖白石〉をしまった。

 収納ボックスとは、魔法が施された巾着だ。120個までのアイテムを入れることができる。


 ハニが、ミストに尋ねる。


「アデリナはどうして、〈聖白石〉を欲しがったの?」


 ミストは首を横に振る。


「それは、私も分からないのですよ。ただ〈聖白石〉には、途轍もない力が秘められているのです。それは〈土門石〉の6000倍とも言われているのですよ。悪用される訳にはいかないのです」


「うん。アデリナの手に渡ったら、悪用されることは確実だよね。ところでさ、ボクを蘇らせてくれたサラは、凄かったよね。でも、今は元に戻っている。なんで?」


「サラは〈聖なる乙女〉の初回特典で、180秒間だけ、MAXモードになれていたのですよ」


「じゃあ、もうサラが、MAXモードになることはないの?」


「そんなことはないのです。修練を積んでいけば、いつの日か、自力で辿り着くことができるのです。〈聖なる乙女〉MAXモードへと」


「ふむ。サラの伸びしろに、期待だね」


「そう、期待なのです」


 ハニとミストが期待の眼差しを、サラへと向ける。

 サラは、精一杯に言った。


「が、がんばります!」



※※※



 それから、50日間。サラとハニは、〈純白の塔〉に残った。

 ハニは魔法を使って、〈純白の塔〉の修復に力を貸した。

 その間、サラはミストから直々に、訓練を受けていた。

 その甲斐もあって、サラのレベルは410までUP。白魔法による攻撃魔法も、いくつか会得した。

 これでサラも、ハニたちと共に戦うことができる。


 だが、何よりも嬉しいのは、〈ゴッド・ヒーリング〉を会得できたことだ。


(これで、ハニさんがまた片足を無くすことがあっても、回復させることができます。ヒーラーとして、皆さんのお役に立つことができます!)


 ただ、さすがに〈リザレクション〉や、回復魔法の極致〈リザレクション√〉までは、会得できなかった。

〈リザレクション〉のほうは、もう一息というところまで行ったのだが。


 そして、ついに〈純白の塔〉を発つときが来た。


 ミストは〈純白の塔〉に残って、もう少しヒーラー達を導くという。それが終わったら、精霊界へ向かうということだ。


 ミストは、最後の教えを口にした。


「サラ。よく覚えておくのですよ。我々ヒーラーの役目とは、なにも回復魔法だけではないのです。パーティが苦境に立たされたとき、希望の光となることも、またヒーラーの使命なのです。そのことを忘れてはいけないのですよ。どんな時でも、希望はあるのです」


「は、はい!」


 ハニは、ミストを疑わしそうに眺めている。


「ねぇ、ミスト。キミさ。もしかして、『未来を見る』タイプの特殊スキルとか、持ってない? なんか、サラの未来とか見ている感じがあるけど」


 ミストは、ハニを見返した。


「そんな大層なスキルは、持っていないのですよ」


「ふうん」


 サラは深々と頭を下げた。


「ミストさん、お世話になりました!」



※※※



 サラとハニが、王都へと発った。

 2人を見送ってから、ミストは呟いた。


「『未来を見る』タイプのスキルは持っていないのです。が、〈預言〉スキルなら、持っているのですよ」


 そばに控えていたヒーラーが、ミストに尋ねる。


「なぜ、サラさんに話されなかったのです? サラさん達のパーティこそが、この世界の命運を左右するということを」


 ミストはウインクした。


「預言者は、余計なことは言わないものなのですよ。ただ、黙って見送るのです」




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