66話 サラさん、武者修行の旅に出る⑤~チート同士が戦えば、どちらかは負けるものだ。
サラは魔法を発した。
「〈ホーリー・アロー〉!」
アデリナを取り囲むようにして、聖なる矢が複数、出現。
アデリナ目がけて、一斉に発射される。
しかし、聖なる矢はアデリナに到達する前に、かき消されてしまった。
サラは驚愕する。
「そんな──〈ホーリー・アロー〉は、どんな魔法でも消せないはずです」
「あいにくね、サラちゃん。いまのは魔法ではないのよ。わたしの特殊スキル、〈パーフェクト・キャンセル〉。わたしの周囲では、全ての魔法・必殺技スキル・特殊スキルが、無効化されるの」
サラはゾッとした。
『全ての魔法・必殺技スキル・特殊スキルが無効化される』。
それほどのチート・スキルが、存在するとは。
「ですが、ここで退くわけにはいきません!」
アデリナが嗜虐的な笑みを浮かべる。
「悪い子には、お仕置きが必要ね。サラちゃん。体内の血液が沸騰したら、どうなると思う? 〈ヘル・ワールド〉」
アデリナが、サラを指さし、〈ヘル・ワールド〉を発動。
一方、サラはそれを無視して、〈天使の杖〉を振るう。
次なる魔法を発動した。
「〈ホーリー・ロスト〉!」
邪まな心を持つ者の視力を奪う魔法だ。
しかし、アデリナの〈パーフェクト・キャンセル〉が、それを無効化してしまう。
アデリナは小首を傾げた。
「不可解ね。わたしが放った〈ヘル・ワールド〉が無効化されてしまったわ」
サラは、あえて〈純白ラ界〉の能力を明かすことにした。
「特殊スキル〈純白ラ界〉の力です。わたしを傷つけようとする攻撃は、全てが無効化されるのです」
「あら、あら。あなたも、なかなかにチートみたいね。わたしの〈パーフェクト・キャンセル〉と、そっちの〈純白ラ界〉は、とても似ているわ」
サラも、同じ考えだった。
アデリナには〈パーフェクト・キャンセル〉があり、サラには〈純白ラ界〉がある。
これでは決着の付きようがない。
しかし、サラには時間切れがある。
〈聖なる乙女〉の初回特典が終わったときが、サラが敗北するときだ。
(残り16秒──時間がありません。打開策を見つけないと)
しかし、打開策を見つけたのは、アデリナだった。
「サラちゃん。あなたを傷つけようとする攻撃が、無効化されるのね。では、これならどうかしら? 〈ヘル・ドリル〉」
このときサラとアデリナは、半死半生のムシャムシャから、15メートルほどの位置にいた。
アデリナの右手が、ムシャムシャへと向けられる。その手から発射されたのは、高出力エネルギーで造られた槍状だ。
このエネルギー槍状である〈ヘル・ドリル〉が、ムシャムシャに激突する。
すると、オリハルコン並みの強度を誇るはずの鱗に、〈ヘル・ドリル〉の先端が減り込んだ。それほどに〈ヘル・ドリル〉の攻撃力は圧倒的だった。
だが、サラが真に驚愕したのは、ここからだ。
〈ヘル・ドリル〉が回転しながら、進みだしたのだ。すなわち、ムシャムシャの体表を、どんどん抉っていく。
とたん周囲へと、鱗の破片が飛び散る。
鱗破片の一つ一つが、まるで砲丸のようだ。
(これが、ドリルというものですか。しかし、アデリナの狙いは一体──)
猛スピードで飛散する鱗破片の一つが、サラの胸部に当たった。
その衝撃を受けて、サラは後ろへと弾き飛ばされた。肋骨が折れたらしく、激しい痛みが走る。
「……な、なぜ?」
アデリナがワープし、倒れたサラを跨いで現れる。
「〈純白ラ界〉を発動しているのに、なぜ攻撃を受けたのか、不思議なの? 簡単なことよ。いまの鱗破片は、あなたへの攻撃ではない。わたしはただ、可愛いペットの皮膚を抉っていただけ。そうしたら鱗破片が飛散して、一つがサラちゃんに当たってしまった。これは、不運な事故なのよ。あなたへの攻撃ではない。よって〈純白ラ界〉も発動しなかった」
「……それが……狙いでしたか」
サラは自らの傷を、〈エンジェル・ヒーリング〉で治癒した。
「ですが、もう同じ手は喰いません」
アデリナが、サラを指さす。
「はい、残念。時間切れ」
「え?──あっ!」
〈聖なる乙女〉の初回特典が終了していた。
すなわち、サラはGODランクから、いつものEランクへと戻ってしまったのだ。
アデリナが嗜虐的な口調で問いかける。
「ねぇ、サラちゃん。もう一度、聞いてもいい? あなたの体内の血液が沸騰したら、どうなると思う? さぁ、素敵な悲鳴を聞かせて。〈ヘル・ワー、あら?」
ハニが跳躍して来て、右拳をアデリナの顔面に叩き込む。
「ボクの友達に、手を出すな!」
アデリナの身体が、後方へと吹き飛ばされた。
アデリナは地面を転がる前に、軽やかに舞い、両足から着地。パンチのダメージを受けている様子はない。
「そうなのよね。〈パーフェクト・キャンセル〉にも、弱点はある。『すべての魔法・特殊スキル・必殺技スキルを無効化する』。つまり、通常攻撃だけは、無効化できないわけね。まぁ、通常攻撃で負ける気はしないけれど」
それから、微笑んだ。
「ハニちゃん。さっきぶりね。一回、死んだ気持ちはどう?」
ハニは、サラを守る位置に立った。
「アデリナ。さっさとバカ龍を連れて、立ち去ることだね」
「それは命令なの? それとも、お願いなの?」
アデリナは、サラの持つ〈天使の杖〉へ、改めて視線を向ける。
「……まぁ、いいでしょう。パーティには、ヒーラーが必要よね。可愛い妹のラプソディには、最高のヒーラーが傍にいるべき。〈聖なる乙女〉なら、文句なしね」
ハニが怒気をこめて言う。
「アデリナ! ラプソディ様に構うな!」
「無理よ。姉妹の絆は、絶対だもの」
それだけ言うと、アデリナは消えた。背後に倒れていた黒龍ムシャムシャと共に。
〈ワープ〉で移動したのだ。
しかし、ハニは周囲への警戒を、緩めない。アデリナが立ち去ったのか、まだ定かではない。油断させておいて、不意打ちを仕掛けてくる気かもしれない。
だが、すぐに脱力した。
「ボクとサラを殺すことなんて、アデリナには造作もないんだ。わざわざ不意打ちを狙う必要がないか」
サラは、右手に持つ〈天使の杖〉を見やる。
(GODランクという領域。凄まじかったです。それでも、アデリナさんには届かなかった……)
サラの脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
アデリナは、〈セーフティ〉を解除したラプソディさえも、上回ってしまうのでは? と。
サラは頭を振り、そんな愚かな考えを振り払った。
それに、アデリナに勝つために、〈聖なる乙女〉になったわけではない。
大切な友人を救うためだ。そして、その目的は果たされた。
サラは、ハニに抱きついた。
ハニが驚く。
「うわっ。サラ、どうしたの?」
サラは泣きじゃくる。
「ハニさん……無事で、無事で良かったです……」
ハニは、サラの背中に手をやった。
「うん。まぁ、無事ではなかったけどね。ムシャムシャに踏みつぶされたし。けど、サラのおかげで、生き返ることができた。ありがとう」
やがて、〈純白の塔〉の地下シェルターが開いた。避難していたヒーラーたちが、外に出て来る。
そのうち数人のヒーラーが、サラのもとに、一人の遺体を恭しく運んで来た。
サラは、その遺体を見て、ハッとした。
先ほど、サラに〈聖なる乙女〉の力を与えてくれた、先代〈聖なる乙女〉の遺体なのだ。
サラは力なく言った。
「わたしが今、〈リザレクション√〉さえ使えれば、この方を蘇らすことができましたのに」
「それは無理なのですよ。よく覚えておくのです、我が弟子。〈リザレクション√〉も万能ではないのです。死んでから600秒を経過してしまったら、タイム・オーバーなのです。それからは、いくら〈リザレクション√〉を使っても、死者を蘇らすことはできないのです」
「そうでしたか……え、いま説明してくれた方は──!」
振り返ると、先代〈聖なる乙女〉がいた。もちろん、エネルギー体で。
サラが驚いたのも、無理はない。サラを64代目〈聖なる乙女〉にしたことで、先代は成仏したとばかり思っていたのだ。
「あの、先代さん」
「ミストと呼んで欲しいのですよ、我が弟子。それが私の名前なのです」
ミストという先代〈聖なる乙女〉の口ぶりからして、サラは弟子になったようだ。いつの間にかに。
ハニは、珍しそうにミストを見た。
「へえ。エネルギー体でありながら、自我を保っているなんて。奇跡みたいだ」
ミストは誇らしそうに言った。
「〈聖なる乙女〉をやっていたのは、伊達ではないのです」
「それで、ミストという人。どうして、〈純白の塔〉は襲撃を受けていたのさ? アデリナ──黒龍を従えていた女の狙いは?」
ミストはうなずいた。
「これも運命なのですね。お教えするのですよ。アデリナという賊の狙いは、〈聖白石〉にあったのです」




