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53話 〈梟の庭〉壊滅戦⑦~ラプソディvs〈地獄梟〉



 レイはサラと共に、ハニのもとまで向かった。

 ハニは不貞腐れた様子で、倒れている。


「ボクの右足がもがれた」


「もがれた、というより、消されたという感じだったが──えーと、見ていいか?」


 ハニの消えた右足を確認するためには、スカートを捲らないといけない。

 ハニはうなずいた。


「いいよ」


「では」


 スカートを捲って、右足がどこまで消えたか、確認した。付け根のところから、無くなっている。

 だが出血はしていない。つまり、単純に切断されたとか、握りつぶされたとかではないのだ。


 レイは、サラに尋ねた。


「回復できそうか?」


 サラは、申し訳なさそうに言う。


「あの、ごめんなさい……肉体の欠損部分の回復には、〈ゴッド・ヒーリング〉以上の回復魔法が必要です」


「サラは、まだ〈ゴッド・ヒーリング〉は使えないか」


 ハニが無念そうに言った。


「〈地獄梟〉とかいうアイツを、ぶっ殺しそびれたよ」


 レイは思った。


(ハニが負けるなんて、〈地獄梟〉は、どんな化け物だ? さっきも、ラプソディがワープしてくるのを、先に予測したようだったし)


〈地獄梟〉は、見た目からして不気味だ。が、それよりも能力の底が見えない、そんな不気味さがある。


〈虚無手〉という右手が、特殊スキルの源のようだ。

〈虚無手〉で接触したものを消滅させるのだろう。

 だが、これだけでは、〈地獄梟〉がワープの如く移動できる説明にはならない。


(ほかにも、特殊スキルを隠し持っているのか?)


 レイは、ラプソディを見やった。

 

 ラプソディと〈地獄梟〉は、15メートルほど離れて、対峙している。

 ラプソディに声をかけたいが、我慢する。ラプソディの集中を邪魔したくなかった。


〈地獄梟〉が、大仰にお辞儀する。


「これは、これは。魔王のご令嬢とお会いできるとは、喜ばしい限りだなぁ」


 レイは一驚した。

 この男は、ラプソディの正体を知っているのか。


 ラプソディは、この程度で動揺するはずもない。


「あんた、ただの人間ではないわね。魔族の匂いがする。だけれど、純粋な魔族でもない──なるほど。混血ね」


 どうも驚きの連続だな、とレイは思う。

〈地獄梟〉の正体は、人間と魔族のハーフだったのか。


 一般的には、魔族のほうが、人間より戦闘力は高い。

 どうりで、〈地獄梟〉は化け物じみた強さなわけか。


 だが、そんなに単純な話ではないぞ、とレイは思い直した。

〈地獄梟〉の〈虚無手〉は、特殊スキルにしても、異様すぎる。何より、ハニが敗北したのだから。


〈地獄梟〉が答える。


「オイラのことは、ハイブリッドと呼んでもらいたいねぇ」


「何でもいいわ。あたしの親衛隊員を傷つけた以上、タダで済むとは思っていないでしょうね?」


 これだけは伝えねば、とレイは声を上げた。


「ラプソディ! 奴の右手に、気を付けろ!」


 ラプソディがワープし、〈地獄梟〉の背後に現れる。


〈地獄梟〉は、その動きを先読みしていたようだ。すでに振り返っており、〈虚無手〉を、ラプソディへと伸ばしている。


 そのときだ。

 ラプソディの〈シャドウ・ブレード〉が一閃、〈虚無手〉の右腕を切り裂いた。


 ラプソディは〈ワープ〉と同時に、〈シャドウ・ブレード〉を発動していた。相手の動きを読んでいたのは、ラプソディも同じだったようだ。


〈地獄梟〉は跳躍し、建物の屋根に着地。

〈虚無手〉の右腕は、半分ほど切断されている。〈シャドウ・ブレード〉の切れ味は抜群だ。ただ竜人オルのときは、こうも簡単にダメージは与えられなかった。少なくとも、〈地獄梟〉の防御力は、並らしい。


 レイが分析していると、驚くことが起きた。

〈地獄梟〉は左手で、〈虚無手〉の右腕を掴んだ。ついで右腕を、肩から一気に引きちぎってしまった。

 引きちぎった右腕は、すぐに灰となって消えた。

 そして肩からは、新たな右腕が生えてきた。


〈地獄梟〉は、新たな右腕を振った。


「〈虚無手〉を『再生』すると、メチャクチャ痛てぇんだよ。ちっとは手加減して欲しいね、魔王のご令嬢」


 ラプソディは腕組みした。


「あんた、半分が魔族にしても、変な身体をしているわね」


〈地獄梟〉はニヤニヤ笑いを浮かべる。


「魔王のご令嬢に、褒められちまったぜ」


「出生に何か秘密があるようね。だけど興味はないわ。ハニちゃんをイジメた報いを、受けてもらうわよ」


 刹那、〈地獄梟〉の背後に、巨大な闇黒球体が生まれた。

 ラプソディが造った、ブラック・ホールだ。


〈地獄梟〉が立っている建物は、分解しながらブラック・ホールに飲み込まれていく。

〈地獄梟〉自身は、空中に浮かびながら、何とか耐えていた。


「こ、こいつは、ちとヤバいんじゃ、ぐえっ」


 そんな〈地獄梟〉の腹に、ラプソディが放った〈ライトニング・ボール〉が激突。

 しかも連続射撃だ。

〈地獄梟〉が喚く。


「ちょっと、ま、まて、ま──」


〈ライトニング・ボール〉連射に押されるようにして、〈地獄梟〉はブラック・ホールへと吸引されていく。

 ついにブラック・ホールの闇黒に飲まれようとした、そのときだ。


〈地獄梟〉の姿が、消えた。

 

 レイは考える。〈地獄梟〉は、戦線を離脱したようだ。


「〈地獄梟〉は、〈ワープ〉に似た魔法も使うんだ。しかし、スキャンしたハニが言うには、〈地獄梟〉は魔法を使えないという。どういうことだろう?」


 ラプソディが答える。


「簡単よ、レイ。10キロほど離れた地点に、もう1人、魔導士がいたのよ。もちろん、〈地獄梟〉の仲間ね。そいつが、〈トランジション〉という〈ワープ〉と似た魔法を、〈地獄梟〉に使っていたの」


 なるほど、とレイは思った。

〈地獄梟〉がワープするように空間を移動できたのは、仲間の魔導士が、〈トランジション〉で支援していたからなのか。

 そして、ブラック・ホールに飲み込まれる寸前、〈地獄梟〉は〈トランジション〉によって、救出された。


「『10キロ先にいる』と言ったな、ラプソディ? 〈地獄梟〉の仲間の位置も、正確に把握済みか──追うのか?」


〈地獄梟〉は、仲間と合流したはずだ。

 ラプソディの〈ワープ〉ならば、今から追いかけることも可能だろう。

 しかし、ラプソディは首を横に振った。


「敵が逃げたのなら、今はいいわ。優先することは、別にあるもの」


 それからハニのもとに行き、抱き上げる。


「ハニちゃん、やられちゃったわね」


 ハニは恥じ入った様子で言う。


「ラプソディ様、申し訳ないです。誇り高き親衛隊の一員なのに、敵に遅れを取るなんて」


「気にしないで、相手が悪かったわ。レイも、大丈夫? ヒーラーちゃんも」


 レイは両手剣を鞘に戻した。といっても、刃は〈地獄梟〉によって、破壊されてしまったが。


「ああ、何とか。ハニのおかげだ」


 サラが頭を下げる。


「ごめんなさい。わたしがお二人の足を引っ張ってしまったばかりに、ハニさんが──」


 レイは言った。


「いや、サラのせいじゃない」


 ラプソディは頷きつつも、そこは批評も加える。


「そうね。けれど、サラちゃんが〈ゴッド・ヒーリング〉を使えたなら、戦況は好転していたかもしれないわね」


 四肢の欠損も回復できる〈ゴッド・ヒーリング〉ならば、ハニの消滅した右足も回復できた。確かに、ラプソディの指摘は間違いではないが。

 サラが申し訳なさそうに言う。


「はい、わたしの力不足です」


 ラプソディは、サラの肩に片手を置いた。


「別に責めているわけではないのよ。あたしは、〈ゴッド・ヒーリング〉どころか、〈エンジェル・ヒーリング〉も使えないもの。ただサラちゃんなら、頑張れば〈ゴッド・ヒーリング〉も使えるようになる、という話」


「あの、わたし、努力します」


 レイは考えた。同じことは、自分にも言えると。

 もっと戦闘力が高ければ、ハニと協力して、〈地獄梟〉と戦えた。そうすれば、ハニも右足を失うことはなかったはずだ。


(まだまだ、おれは弱いな)


「とりあえず、ラプソディ。ハニの右足を回復させないとな。ローラに頼んでみるか?」


「ローラちゃんに?」


「ローラなら、〈ゴッド・ヒーリング〉を使える冒険者を、紹介してくれるはずだ」


「そうね。頼んでみて。ところで〈地獄梟〉とかいう男、どこの誰なの? 魔王城から戻って来たら、ハニちゃん達が戦っているのを感知したので、急いで来たのだけど」


「〈梟の庭〉の幹部らしいぞ。おれたちは、〈梟の庭〉の標的にされてしまったようだ」


 ラプソディは小首を傾げた。


「標的? あたしたち、恨まれることしたかしら?」


「……連中の支部を潰しただろ」



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