52話 〈梟の庭〉壊滅戦⑥~〈地獄梟〉の脅威。
〈地獄梟〉と名乗った男は、異様に背が高く、細い男だ。糸のような目をし、そこから禍々しい光を放っている。
レイは考える。〈地獄梟〉は空間を裂くようにして、現れた。何の魔法だろうか? ラプソディの〈ワープ〉とは、また違うようだが。
刹那、〈地獄梟〉目がけて、複数の火柱が噴出した。
レイは、斜め後ろにいるハニを、見やった。
「〈ハウンド・フレイム〉か」
複数の火柱を、敵の周囲から発射する攻撃魔法だ。1つの火柱の大きさは、樹木程度。
ハニが言った。
「ボクの探索魔法を、さんざん妨害してくれた罰だよ」
そのときだ。複数の火柱に異変が起きた。片端から、かき消されていくのだ。ついには全ての火柱が消滅した。
ハニが消したわけではなく、〈地獄梟〉の仕業だ。
〈地獄梟〉は無傷で、ニヤニヤ笑いを浮かべている。
「おい、頼むぜー。もう一回、名乗っておくかい? 〈梟の庭〉を統べる〈四人衆〉が一人、〈地獄梟〉でござい、ってな」
〈地獄梟〉は、大仰にお辞儀してみせた。
レイは、内心で呻いた。
(やはり、〈梟の庭〉からの刺客か。プル町の支部を壊滅させたからな)
暗殺組織の支部を潰したこと自体は、レイは後悔していない。暗殺者など、このリウ国から一掃するべきだ。
とはいえ、事の発端は、クルニアが殴りこんだこと。
〈梟の庭〉と抗争に入るにしても、準備するヒマもなかった。
そのため、サラが狙われるハメになってしまったわけだ。
ハニが気に入らなそうに言う。
「ふーん。ボクの火炎をかき消すとは、何の魔法かな」
〈地獄梟〉は、面白そうに答えた。
「魔法ねぇ。んじゃ、特別サービスだ。オイラのステータスを見せてやるぜ。今までは、テメーのスキャン魔法も妨害しちまっていたからなぁ」
するとハニが、驚いた表情を浮かべる。
「これは……キミ、ステータスを偽装しているね」
「いんや、してねぇぜ」
レイは戸惑った。
ハニは、〈地獄梟〉をスキャンし、ステータスを見た。
そして、何かに驚いている。どういう事態なのか?
ハニは、チラッとレイを見た。
それから〈地獄梟〉に視線を戻す。
「レイ。この〈地獄梟〉は、魔導士ではないよ。ステータスによるとね。MPは膨大だけど、魔法を覚えている痕跡はない」
「しかし、奴はお前の〈ハウンド・フレイム〉を消してしまったぞ。さっきも、どこからともなく、現れたし。あれらは、魔法ではなかったのか?」
「おそらく、何らかの特殊スキルだね」
特殊スキルとは、生来に持っているスキルだ。吸血鬼の〈リザレクション〉スキルなどは、実に厄介だった。
ハニが拳を鳴らす。
「レイ。キミとサラの心配をする余裕は、ないかも」
「わかった。こっちのことは構わずに、好きに戦え」
レイは、サラを守れる位置へ移動した。
〈地獄梟〉は、レイとハニを交互に見やる。頭をかいた。
「さて、どうしたもんかねぇ。ヒーラーの小娘を拉致するはずが、ラプソディ一派と激突するハメになるとは。オイラも、つくづく運がねぇなぁ。けど、ま、嘆いても仕方ねぇし──」
〈地獄梟〉が、長い手を伸ばして来た。
「殺しちまいますかねぇ」
ハニが、呪文を詠唱。
「殺されるのは、そっちだよ! 〈スピード・スター〉!」
瞬間、ハニの姿が消えた。否、目にも留まらぬ速度で、動いたのだ。
もともとハニの敏捷性は、抜群に高い。
そこに敏捷性を5倍にする〈スピード・スター〉を発動したのだ。
〈地獄梟〉が口笛を吹く。
「やるねぇ」
とたん、〈地獄梟〉が吹っ飛んで行った。
超高速のハニから、鋭いパンチを食らったようだ。
(よし、この隙だ)
レイはサラを連れて、〈地獄梟〉が吹っ飛んで行ったのとは、反対方向へ移動した。
そのまま、サラの自宅を出る。
(ハニが戦いやすいように、まずはサラを安全な場所まで送ってから──)
「レイさん、後ろです!」
サラが、レイの背後を見て、悲鳴を上げる。
「なに──!」
レイは振り向きざま、必殺技を発動。
「〈茨道改〉!」
しかし、必殺の斬撃は、簡単に防御された。
〈地獄梟〉の右手が、〈茨道改〉発動中の刃を掴んだのだ。
「……バカな」
〈茨道改〉の攻撃力には、自信があった。それなのに、素手で受け止められるとは。
それ以上に、レイを困惑させているのは、ここに〈地獄梟〉がいることだ。
レイとサラは、〈地獄梟〉が吹っ飛んで行ったのとは、反対方向に移動した。
だというのに、なぜ〈地獄梟〉が、レイの背後から現れることができたのか。ワープ魔法を使わなければ、不可能だ。
「お前、何でここにいる!」
〈地獄梟〉がニヤニヤ笑い。
「そりゃあ、オイラが寂しがり屋だからさ。勝手に帰っちゃ嫌だぜぇ」
〈地獄梟〉は今も、レイの両手剣の刃を掴んでいる。その右手を、さらに強く握る。とたん、刃が消滅した。
(……そんな)
冒険者になるため、レイは実家を出て、この王都にやって来た。
そのとき、初めにしたことが、自らの武器を購入することだった。
それ以来、共に戦ってきたのが、この両手剣だ。それが今、あまりに呆気なく、破壊されてしまった。
だが、ショックを受けている場合ではない。
レイはサラを庇うようにして、〈地獄梟〉から距離を取った。
そのときだ。〈地獄梟〉の頭頂部に、雷の砲弾が落ちる。
跳躍して来たハニが、〈地獄梟〉の前へと滑り込んだ。
「勝手に消えないでくれるかな。キミの相手は、ボクだ」
今の雷砲弾は、ハニの〈ライトニング・ブラスト〉だ。
だが、直撃したというのに、なぜ〈地獄梟〉はダメージを受けていないのか。
レイは、ある現象に気づいた。〈地獄梟〉の右手が、鈍く光っている。
先ほど、〈茨道改〉の斬撃を止めたときも、光っていなかったか?
「ハニ、右手だ! 〈地獄梟〉の右手に、何かカラクリがあるぞ!」
〈地獄梟〉が、わざとらしい拍手。
「お見事、お見事。ただの雑魚じゃねぇようだなぁ。そうよ、オイラの右手そのものが、特殊スキル。その名も、〈虚無手〉。まあ、能力の内容までは教えてやらねぇが」
ハニが、〈地獄梟〉を指さす。
「キミ、話が長い」
ハニは、2つの魔法を同時に発動した。すでに詠唱済みだったようだ。
「〈ウインド〉──〈ゴッド・フレイム〉!」
〈ウインド〉の突風は、レイとサラに使われた。突風によって、この場から距離を取らせるためだ。
レイは、〈ウインド〉の風に乗りながらも、見た。
〈地獄梟〉の身体が、〈ゴッド・フレイム〉に飲み込まれるのを。
〈ゴッド・フレイム〉。
ハニの使える魔法では、最強だ。大地から、巨大な火柱を噴出させる魔法。
これの直撃を受けて、無事でいられるはずがない。
ところが──〈ゴッド・フレイム〉の猛火が消滅していく。
先ほどの〈ハウンド・フレイム〉のときと同じだ。
〈ウインド〉の効果が切れ、レイとサラは地面に降りた。
ハニとの距離は、20メートルほどだ。
そのハニの後ろに、〈地獄梟〉が出現した。ワープしたが如く。
「ハニ、奴は後ろだ!」
ハニがハッとし、高く跳躍する。
そのハニを追うようにして、〈地獄梟〉の右手〈虚無手〉が、伸びる。
〈虚無手〉が、ハニの右足を掴んだ。
瞬間、ハニの右足が、消滅した。
ハニが地面に倒れる。
サラが悲鳴を上げた。
すでにレイは、ハニを救出するため駆けだしている。しかし、間に合わない。
(クソ──!)
〈地獄梟〉が、ハニに止めを刺そうとする。
刹那、〈地獄梟〉が跳躍して、なぜかハニから距離を取った。
その顔からは、初めてニヤニヤ笑いが消えている。
「おーと。こいつは、マジで運がなくなったかねぇ」
レイは、安堵の吐息をついた。
ハニのそばには今、新たな人物が立っている。長い銀色の髪を、そよ風でなびかせて。ワープ魔法で現れたのだ。
「ラプソディ!」
ラプソディの鋭い眼光は、〈地獄梟〉へと向けられていた。
「あんた、調子に乗りすぎよ」




