表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/186

51話 〈梟の庭〉壊滅戦⑤~ヒーラーさんを守れ。



 親衛隊の隊長である、リリアス。

 見た目だけなら、愛らしい幼い少女。白い髪は床まで伸び、黒いローブを着ている。


 そんなリリアスは、サラについて、こう言った。


「少し未来で──死ぬ光景が見えた」


「サラが? どういうことだ?」


 リリアスは、自身の右の瞳を指さす。


「特殊スキル〈時を跳ねる瞳〉。誰かの未来を見ることができる能力」


 レイは固唾を呑んだ。


「サラが死ぬ未来が、見えたのか?」


 リリアスは小首を傾げる。

 何やら考え込んでから、少しだけ舌足らずに答えた。


「それはノイズのように、視界に紛れ込む。お兄ちゃんを見ていたら、〈時を跳ねる瞳〉が発動。すると、『空色の髪のお姉さん』の死が見えた」


 お兄ちゃんとは、レイのことらしい。

 レイは意志の力で動揺を抑えた


「『空色の髪のお姉さん』というのが、サラのことなんだ。サラの死は、必ず起きることなのか?」


「必ずではない。未来は変動するもの。ただし、今のままでは起こる確率は高い」


 レイは、リリアスの言葉を前向きに解釈した。

 すなわち、レイが行動を起こせば、サラの死は回避できる。


「いつ、サラは死ぬことになるんだ?」


「いつかは分からない。ただ〈時を跳ねる瞳〉は、それほど先の未来は見ることができない」


「つまり、猶予はない、ということか。どこでサラは死ぬんだ?」


「それも明瞭ではなかった」


「頼む。もう一度、〈時を跳ねる瞳〉とやらを発動し、明瞭に見てくれ」


 しかし、リリアスは無表情のまま、首を横に振る。


「特殊スキル〈時を跳ねる瞳〉は、勝手に発動する。リリアスが、発動をコントロールすることはできない。ただ──」


「ただ?」


「先ほど〈時を跳ねる瞳〉が発動したとき。サラという人の死だけではなく、虹色の花も見えた」


 レイはハッとした。

 サラの家は、一度だけ訪ねたことがある。庭には、変わった花が咲いていた。

 虹色の花が。


 レイは自宅の武器庫から、両手剣を取った。両手剣を腰に差し、リリアスを振り返る。


「これから、サラのもとに行ってくる。未来は変動するというのなら、サラを助ける未来にしてみせる」


 リリアスは、あまり感情を表に出す子ではないらしい。今も無感情な眼差しだ。


「ん。頑張って」


「最後に聞きたい。サラの死は、事故なのか? それとも?」


「下手人の姿は見えなかった。しかし、あれは殺し」


 レイは、うなずいた。

 サラは何者かに命を狙われている。


「リリアス。君は助けてくれるのか?」


「リリアスは、ラプソディお姉ちゃんの言うことだけを聞く」


「そうか。じゃ、悪いがここで待っていてくれ」


 レイは自宅から駆けだした。

 レイの家には、小さな庭がある。そこでグリが蝶を追いかけていた。レイに気づくと遊んで欲しそうな顔をしたが、レイはそれどころではない。


「グリ、また後でな!」


 自宅の敷地から出て、路地を駆ける。ラプソディがいてくれたら、とレイは思った。だが、不在を嘆いているヒマはない。


(おれの力でやるしかない)


 サラの家への最短コースを取った。その途中で、市場を突っ切る。

 このときレイは、まだツキはあるようだぞ、と思った。


 露天商と値切り交渉をしている少女が、視界に入ったのだ。

 ハニだ。


「ハニ!」


 レイが声を張り上げると、ハニが驚いた様子で顔を向けた。


「あれ、レイ。お急ぎだね?」


「お前も一緒に来てくれ! パーティの一大事だ!」


 レイは立ち止まらず、走り過ぎながら、そう言った。


 ハニは肩をすくめてから、軽く跳躍。

 レイの隣に着地し、並走する。


「何事かな、リーダー?」


 レイは、リリアスが訪れたことや、リリアスが〈時を跳ねる瞳〉で見た未来を説明した。

 ハニは、ビックリした様子だ。


「リリアスが出て来るなんてねぇ。この75年ものあいだ、引きこもっていたのに」


「まてよ、75年も引きこもっていただって? リリアスは、せいぜい8歳だぞ」


「リリアスは、自分の肉体や精神年齢の『時』を止めているからね。時を司る魔導士、〈クロノス〉。これこそが、リリアスの職業さ。ラプソディ様でさえも、時間系魔法は使えないのにねぇ」


 リリアスのことは、気にはなる。

 だが、今はサラの無事を確認し、守るのが先決だ。

 ハニは、ワープ魔法を使えない。そこでレイは、別の魔法を頼んだ。


「ハニ。〈スピード・スター〉を頼む」


「オーケイ」


〈スピード・スター〉とは、敏捷性を5倍にする魔法だ。

 レイの速度が一気に上がり、路地を駆け抜ける。あっという間に、サラの自宅近くまで移動した。

 並走していたハニが、鋭く言う。


「ストップ!」


 レイは急停止する。


「なんだ? 早くサラと合流するぞ?」


「まって」


 ハニは片手を上げて、レイを制した。その瞳には、獰猛な輝きがある。臨戦モードに入ったようだ。


「ふうむ。サラの自宅に、探索魔法をかけているんだけど──妨害されているね」


「どういうことだ?」


「つまり、探索魔法を妨害できるほどの敵が、すでに来ているのさ」


 ハニの探索魔法を妨害できるとは。よほどの実力者らしい。だからといって、ラプソディやクルニアを呼びに行っている時間はない。


「ハニ。おれ達だけでやるぞ。正面突破だ!」


 レイは両手剣を抜き放ち、駆けだした。サラの自宅前に到着。正面玄関のドアを蹴破り、屋内へと入る。


「サラ、無事か!」


 サラは、居間にいた。ソファの上で、横たわっている。

 目をつむり、安らかな表情だ。


 レイの全身から、力が抜けていった。


「……そんな、間に合わなかったのか。サラ……」


 ふいにサラの目が開かれる。レイとハニに気づくと、驚いた様子で跳び上がった。


「な、なにごとですか! レイさん、ハニさん!」


 レイは改めて脱力した。


(なんだ、安らかな死に顔かと思ったら、安らかに昼寝していただけか。寿命が縮んだよ)


「サラ。説明は後だ。回復用の魔杖を装備し、ここから出るぞ。敵が来る」


 そこは冒険者である。敵が来ると聞くなり、サラは素早く行動した。

 魔杖を手に取り、ヒーラーを示す白いローブを纏う。


「ハニ。敵がどこから来るか、分かるか?」


 ハニが苛立たしそうに答える。


「この敵、腹立つね。僕の探索魔法が、妨害されっぱなしだ。見つけたら、ボコボコに殴ってやる」


 唐突に、どこからともなく声が響いた。

 男の声だ。少し聞いただけで、虫唾が走って仕方ない。そういう声音だ。


「なんてこったぁ。せっかく、オイラが自ら出向いたってぇのに、邪魔が入っちまったなぁ」


 レイは周囲を見回す。男の声は聞こえるのに、姿は見えない。〈インビジブル〉で透明化しているのだろうか?


 声だけの男が、ケラケラ笑い出す。

 

「簡単な仕事のはずだったんだがなぁ。サラっていう小娘を捕まえて、手足を千切ってから、拉致しよってだけでさ。いんや、拉致してから、手足を千切るんだっけかなぁ?」


 レイは、吐き捨てるように言った。


「どこにいる? 姿を見せろ!」


「ああ、いいぜ。んじゃ、ちょっくら、オイラと遊んでくれよ」


 空間が裂けて、男が現れた。

 異様に背が高く、細い男だ。糸のような目をし、そこから禍々しい光を放っている。


「どーも、〈地獄梟〉とか名乗っちゃいますぜ~」


 レイは両手剣を構え直す。

 直感的に、確信した。


(この敵、ヤバいぞ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ