50話 〈梟の庭〉壊滅戦④~〈悪鬼梟〉・〈砂漠梟〉・〈無限梟〉・〈地獄梟〉。
【王都のどこか】
〈梟の庭〉には、絶対的な指導者はいない。
〈四人衆〉という4人の幹部が、〈梟の庭〉の運営を決めている。
4人の幹部には、それぞれ異名が与えられており、〈悪鬼梟〉、〈砂漠梟〉、〈無限梟〉、〈地獄梟〉という。
これは〈梟の庭〉が創設されてから、変わらぬシステムだ。
たとえば、先代の〈悪鬼梟〉を務めていた者が死ねば、後継者が〈悪鬼梟〉を名乗ることになる。
ミールは、21代目の〈悪鬼梟〉だった。
そして、王都の或る場所で、〈砂漠梟〉、〈無限梟〉、〈地獄梟〉と、顔を合わせていた。
彼ら4人が一堂に会するのは、滅多にあることではない。よほど重大なことが起きたときだけだ。
今が、その重大なときだ。
〈梟の庭〉の支部が一つ、丸ごと壊滅されたのだから。プル町にあった支部が。
〈四人衆〉は対等という立場だが、実際は少し違う。最も古株の〈無限梟〉が、いちばん発言力がある。
よって今回も、〈無限梟〉が会議を始めた。
「恐れていたことが、現実になった。そういうことだ。魔王の娘が、我々を潰しに来たのだ」
〈無限梟〉は、初老の男だ。冒険者ギルドにいた頃は、SSランク賢者だったという。
ミールは訂正を入れた。
「いや、必ずしも、そうではないようだぞ。もとは〈梟の庭〉側の手違いらしい」
〈梟の庭〉の暗殺者は、もとは冒険者だった者が多い。
ミールもそうだ。冒険者のころは、SSランク魔導士まで上り詰めた。
魔王城の攻略パーティに参加したこともある。邪神官ハーンに敗北したが。
「だーから、オイラが言っただろ。とっとと殺しちまえば、良かったんだよ。〈斬〉を潰されたときになぁ」
そう発言したのは、〈地獄梟〉だ。
ミールは、〈地獄梟〉の本名も、出自も知らない。
〈地獄梟〉は、3メートル近くの高身長で、針金のように細い男だ。外見からは、不気味さだけが感じられる。
だが〈地獄梟〉は、間違いなく強い。なぜなら、先代の〈地獄梟〉を殺した男だからだ。
先代〈地獄梟〉は、SSSランク戦士の実力者だったというのに。
ちなみに〈斬〉とは、〈梟の庭〉が飼っていた盗賊団だ。暗殺の隠れ蓑などで使っていた。しかし、たいていは野放しにしていた。
そのためか、〈斬〉は暴走し、王都付近で町村を襲いだした。冒険者ギルドで、〈斬〉討伐パーティを組む動きも見られた。
そろそろ〈斬〉を切り捨てよう、とミールも提案したものだ。
その矢先、〈斬〉が殲滅された。
情報取集を行い、何者が〈斬〉を殲滅したかが判明した。
魔王の娘、ラプソディだ。
ラプソディは人間と偽って、王都ルクセンで暮らし出した。しかも、冒険者になってしまった。
このラプソディを、どうするべきか? ミールたち4人も、何度か話し合っていた。
そのたび〈地獄梟〉は、殺してしまえばいい、と主張した。
ミールとしては、冗談ではない。
相手は、魔王の娘だ。〈四人衆〉総がかりでも、勝てる確証はない。
しかも、親衛隊の魔族たちも、やって来ているではないか。
冒険者ギルドに、ラプソディの正体を密告する案もあった。
魔族が冒険者をやるなど、ギルドとしてはあってはならない事態。討伐パーティを組むだろう、と。
しかし、密告案も流れた。
冒険者ギルドがラプソディ一派を討伐しようとすれば、王都が戦場となりかねない。
それは、王都を拠点とする〈梟の庭〉にとっても、避けたい事態だ。
そういうわけで、結論はこうだった。
ラプソディ一派が、〈梟の庭〉に害を及ぼさない限りは、コチラも無視する。
しかし、状況は変わった。
まず、ドムが倒された。ドムは、〈無限梟〉の弟子だった男だ。すなわち、〈無限梟〉の後継者だった。〈無限梟〉ほどではないが、腕の立つ暗殺者だった。
それが城郭都市ベルグで、殺されたのだ。
殺したのは、ラプソディ一派の者だという。
ベルグで開かれた闘技大会で、ドムは浮遊石を奪取してくるはずだった。
その任務の最中に、ラプソディ一派とぶつかることになった。そして、敗れた。
ミールたちは、少なからず動揺した。
その矢先、今度はプル町だ。プル町の〈梟の庭〉支部が、ラプソディ一派に壊滅されたのだ。
ついに奴らが、〈梟の庭〉に牙を剥いてきた。
それでもミールは、ラプソディ一派と戦うのには、反対だった。
プル支部が潰されたのは、不幸だ。だが、忘れるべきだ。たかが支部ではないか。
ここでラプソディ一派を攻撃すれば、その時こそ、〈梟の庭〉が危機を迎えるだろう。
ミールは、このように主張した。
対して、〈地獄梟〉が嘲笑う。
「〈悪鬼梟〉、テメーは腰抜けだなぁ。そんなに魔族が怖いかよ」
〈悪鬼梟〉のミールは、〈地獄梟〉を睨んだ。
〈無限梟〉が、〈砂漠梟〉に尋ねる。
「貴女は、どう考えるか?」
〈砂漠梟〉は、〈四人衆〉で唯一の女だ。
年齢は、25くらい。赤銅色の髪を、肩のところで切っている。顔には、斜めに走る古い剣傷。
かつては、王国騎士団に属していたという。
〈砂漠梟〉は無口であり、最小限しか話さない。今回も、そうだった。
「我々と、ラプソディ一派。この王都で共存することは、不可能だ」
つまり、ラプソディ一派を排除するしかない、と言うわけだ。
この時点で、〈地獄梟〉と〈砂漠梟〉が、ラプソディを殺そうと主張。
〈悪鬼梟〉のミールは、反対の立場。
そして、〈無限梟〉も決断した。
「我らの未来のため、魔王の娘どもを始末するしかあるまい」
3対1だ。〈梟の庭〉の方針は決定した。ミールも受け入れた。
次は、どうやるか、だ。
「真っ向から戦う必要はない。弱点を突くのだ」
そう〈無限梟〉は告げた。
ミールは腕を組む。
「弱点。それは、ラプソディの夫のことか? レイという冒険者だな。先日、Dランクに昇格したそうだ。が、我らにとっては、敵ではない」
〈地獄梟〉がケラケラ笑ってから、言う。
「夫なんてぇのは、嘘っぱちだろ。なーんで魔王の娘が、取るに足らねぇ人間の男と結婚したりするんだよ? どうせ夫婦を偽装して、人間の社会に溶け込もうって魂胆だ」
ミールは、考える。
〈地獄梟〉の指摘は、筋が通っている。
だが真実は、もっと単純なのかもしれない。魔王の娘は、レイという冒険者を、本当に愛しているのかもしれない。
〈無限梟〉が、先ほどのミールの質問に、答えた。
「冒険者レイは、常にラプソディの庇護下にある。手を出すのは難しい」
ミールが聞く。
「では、弱点とは?」
これに答えたのは、〈地獄梟〉だった。
バカ笑いしてから、言うのだ。
「奴らのパーティの中に、もっと適当なのがいんだろ。自分では戦えない、回復魔法だけが取り柄の雑魚ちゃんがよぉ」
ミールはハッとした。
「ヒーラーの娘、サラか」
作戦は決まった。
サラを拉致し、人質とする。
最後にミールは、他の3人に確認を取った。
「作戦を動かせば、もう後には引けない。一歩間違えれば、我々は敗北する。そのときは、300年続いた〈梟の庭〉が、滅びるときだ」
〈無限梟〉が、重々しく答えた。
「我らに敗北はない」
※※※
【王都:レイの自宅】
レイは、干し草の山を抱えて、帰宅した。この干し草は、グリの餌だ。
さっそくグリが、レイに飛びついて、顔を舐めてきた。
「ただいま。にしても、グリ。ほんと飼い犬みたいだなぁ、お前。いつか、クルニアのテグスみたいな、立派な魔獣になるのか?」
ラプソディは留守にしていた。魔王城に、雑務を片付けに行ったのだ。
そのため、レイの自宅には、グリしかいない──はずだった。
「うわっ。誰だ?」
居間に、人がいるのだ。
というか、幼女がいる。
8歳くらい。白い髪が長くて、床まで届いている。サイズが大きすぎる、黒いローブを着ていた。琥珀色の瞳が、綺麗だ。
そんな幼女が、ぺこりと頭を下げる。
「リリアス」
自分の名前らしい。
「……よろしく、リリアス……いや、だから、誰?」
「親衛隊の隊長」
「え」
親衛隊員というだけなら、とくに驚かなかった。ハニ、クルニア、ローペン、バルバと、すでに4人も会っている。
しかし、隊長ということは。
「君は、親衛隊のトップということか」
リリアスはうなずく。
「ん。親衛隊では、いちばん強い」
(……つまり、親衛隊員の戦闘力ランキングで、1位なのか。クルニアより強そうには、見えないがなぁ)
リリアスは、レイを真っすぐな瞳で、見つめる。
何を考えているのか、読みがたい。
唐突に、リリアスは言った。
「空色の髪で、白いローブを着たお姉さん──知っている?」
レイは首を捻った。
「サラのことかな。サラがどうした?」
「少し未来で──死ぬ光景が見えた」




