44話 魔王の誕生日会に行こう!②~親衛隊とかでは、戦闘力ランキングを作りたがる。
レイの生まれ育った農村は、リウ国の南東地域にあった。
ロポという村だ。
レイが冒険者になると言って、家を飛び出したのが、5年前のこと。それ以来、たまに手紙を送るだけで、里帰りすることはなかった。
(母さん、父さん。2人とも、元気にやっているかな)
レイが物思いに耽っていると、ワイバーンのテグスが、ロポ村の中央、井戸のある広場に着地した。
「クルニア! 村のど真ん中に着陸する奴があるか!」
「しかし、この村に用があるのなら、ど真ん中に着陸したほうが便利だろう?」
レイは頭を抱えた。
すでに周囲は大騒ぎだ。当然である。辺鄙な農村に、ワイバーンが舞い降りたのだ。騒ぎにならないほうが、おかしい。
クルニアが呑気に言う。
「歓迎されているようだ」
「恐怖で騒いでいるんだよ。このワイバーンに食われたりはしないか、と」
「テグスは、人肉は食べんぞ」
「知るか」
レイはテグスの背から降り、村人たちへ声を張り上げた。
「皆さん! 落ち着いてください! おれたちは冒険者です!」
冒険者ギルドの者と分かり、ようやく村人たちも安心してくれた。もちろん、クルニアが魔族であることは隠し通す。
レイはクルニアと共に、我が家に帰った。
「母さん、父さん! 突然だけど、おれ、結婚しました!」
勢いで済ませようと思い、レイは「ただいま」も言わず、報告した。
レイの母親は台所から、父親は居間から駆けて来た。
両親とも、すでに号泣している。
「うちの子が、お嫁さんをもらったんだねぇ。お母さんはもう嬉しくて、嬉しくて」
「レイ、花嫁さんは、そちらのお嬢さんか?」
父親がクルニアを示して、そう言う。
レイは慌てて否定した。
「違う。彼女は、パーティの仲間だ。妻は今、実家にいるよ。それで、だ。母さん、父さん、突然で悪いんだが、妻の父君の誕生日会に出席して欲しいんだ」
両親とも、あっさりと快諾してくれた。
ここでレイは、最大の難関を迎えた。だが、黙っているわけにはいかない。
レイは真剣な眼差しを、両親に向けた。
「母さん、父さん。落ち着いて、聞いて欲しい。実は、おれの妻は──魔王の娘なんだ」
ショックのあまり、両親は失神してしまうのではないか、とレイは心配だ。
母親と父親は、互いに顔を見交わした。はじめは『妻=魔王の娘』という事実が、理解できなかったようだ。やがて理解のときが来た。
母親が、静かな口調で尋ねる。
「レイは、その子を愛しているのね?」
「ああ、おれは彼女──ラプソディを愛している」
「そういうことでしたら、アナタ。問題ありませんね?」
アナタこと父親が、うなずいた。
「もちろんだ。それより、レイよ。魔王の娘婿として、立派に生きるんだぞ」
「そうよ。お嫁ちゃんに恥をかかせちゃダメよ」
「ああ……うん、ありがとう」
(我が親ながら、順応早すぎだろ)
ここで問題が発生した。両親を含めると、4人。しかし、テグスの乗員人数は3人だ。
「しまった。それを忘れていた。どうするかな」
「やはり、姫殿下にワープ魔法を頼むしかないだろう。話は付いたんだ。あとは迎えに来て、また戻るだけ。姫殿下なら5秒もかかるまい」
「それも、そうか。母さん、父さん。準備して待っていてくれ。あとで、おれの妻が迎えに来るから」
(ワープ酔いが辛いことは、黙っておこう)
※※※
テグスに乗って、魔王城へ帰還。
テグスは、クルニアの居室のバルコニーに着陸した。
クルニアは、テグスに食事を与えてから行く、と言う。
そこでレイは一人で、クルニアの居室から出た。
が、急いでいたため、通路を歩いて来た人物に、ぶつかってしまう。
レイは言った。
「あ、失礼」
「気を付けろ」
その人物は、もちろん魔族だろう。
だが、ラプソディ達と同じで、人間にしか見えなかった。
長髪の男で、眼光が鋭い。歳はレイと同じくらいで、身長は少し高い。黒一色の衣服で、マントを付けていた。そして、サーベルを装備している。
その男は、レイをじろりと睨む
「怪しい奴。さては、魔王城に侵入した冒険者か」
レイとしては、返答に困った。侵入したわけではないが、冒険者なのは正しい。
男は、サーベルを抜き放つ。
「不法侵入者が、成敗してくれる」
「まった! おれは、不法侵入者では──」
「問答無用! 〈ハウンド・ロック〉!」
刹那、通路の床が盛り上がり、『巨大な手』と化した。どうやら、大地系統の魔法らしい。通路の材料である石を、操作しているようだ。
レイは慌てて、〈茨道改〉を発動。『巨大な手』を粉砕した。
「付き合っていられるか!」
レイは逃走することにする。だが数メートル走ったところで、急停止した。
前方に、新手が現れたためだ。今度は、3メートル近くの大男。歳は45くらいか。すでに酔っているらしく、赤ら顔。
「なんだ、テメー。見かけねぇ顔だな?」
レイの後ろから、さっきの男が言う。
「バルバ! そいつに手を出すな! 俺の獲物だ!」
バルバと呼ばれた大男は、ニヤリと笑った。
「なーるほど。魔王城に忍び込んだ、敵さんってことか。ちょうどヒマしていたところだ、相手してもらおうじゃねぇか」
とたん、バルバの姿が変化し始めた。上半身が膨張し、衣服を引きちぎる。人間と同じ皮膚だったのが、すぐさま毛皮になった。
気づけば、レイの目の前には、8メートル級の狼男が立っている。
(コイツ、狼男だったのか──というか、この城にいる奴ら、人の話を聞く気なしだな)
レイは両手剣を握りなおした。
あっという間に、絶体絶命の危機だ。しかし、生き延びねばならない。魔王の誕生日会があるので。
大地系統の魔法を使う男が、改めて怒鳴る。
「バルバ! 俺の獲物といったはずだぞ!」
狼男と化しても、人語は話せるらしい。バルバが面倒そうに言う。
「ローペン、細かいことは気にするなよ」
こっちの男は、ローペンというようだ。
レイは素早く考えた。バルバとローペン、突破するには、どっちが現実味はあるのか。
刹那、床といい天井といい、至るところから複数の火柱が噴出。
火柱が襲ったのは、バルバとローペンだ。
「おっと、邪魔すんじゃねぇ!」
「ふん、下らん!」
バルバは火柱を片腕で吹き飛ばし、ローペンは石壁を作って防いだ。
この隙に、レイの隣に跳躍して来た人物がいる。
金色の髪をツインドリルにした、15歳の少女だ。スカートに穴があり、そこから尻尾が出ている。
レイはホッとした。ようやく、まともな者と出会えた。
「ハニ!」
「やぁ、レイ。で、キミ、どうして戦闘しているの? 親衛隊の戦闘力ランキングで、4位のバルバさんと、6位のローペンとさ。自殺行為だよ」
どうやら、バルバとローペンも、ラプソディの親衛隊員のようだ。
「あのな、おれも好き好んで戦おうとしたわけじゃない。不法侵入者に間違えられたんだ。釈明するヒマもなしに」
「ふーん。バルバさん、ローペン。彼の名は、レイ。ラプソディ様の夫君だからね」
バルバが狼男から、ヒト型に戻った。裂けた衣服まで修復された。それから、残念そうに言う。
「んだよ、敵じゃねぇなら、遊べねぇじゃないか」
踵を返して、歩いて行ってしまった。
一方、ローペンは態度が急激に変わった。
レイの前に跪き、恭しく言う。
「まさか、姫様の夫君であられたとは! 無礼を働き、申し訳ありませぬ!」
「あー、もういいよ。ただ次から、人の話は聞こうな? 侵入者と決め付けて、攻撃する前に」
「承知いたしました!」
ローペンとも別れたところで、レイはハニに言った。
「ハニのおかげで、助かった」
「それは、バルバさんとローペンにも言えることだよ。2人がレイを殺したと、ラプソディ様が知ったら、どうなったことか。たとえ自分の親衛隊員でも、八つ裂きにしただろうね」
「そうだな……ところで、親衛隊員は何人いるんだ? バルバというのは、アドコンナ村のクエストのとき、名前だけは聞いたが」
「親衛隊員は、全部で6人さ」
「へえ。戦闘力ランキングがあるんだな。ハニとクルニアの順位は?」
「クルニアさんは2位、ボクは5位だね」
レイは考えた。4位はバルバで、6位がローペン。すると、いまだ会ったことがないのは、1位と3位だ。
「魔王の誕生日会ということは、残りの2人も出席するのか?」
「しないだろうね。2人とも、物理的に不可能だから」
「そうか」
物理的に不可能、とはどういう意味なのか。レイは気になったが、ハニの雰囲気からして、質問しないほうが良さそうだ。
何となく、レイは思った。
(同じ親衛隊員だからといって、全員が仲良しというわけでも、なさそうだな)




