43話 魔王の誕生日会に行こう!①~誕生日プレゼントを忘れる。
魔王城は、魔族国家ルーファにある。
リウ国から向かうには、鉤爪山脈を越えて行かねばならない。その先が、魔族の国土だ。人間と敵対する、強力な魔族たちが待ち構えている。
もちろん、魔王の娘のワープ魔法で行くのなら、それらの脅威をショートカットできる。
かくして、レイはラプソディと共に、魔王城にいた。
ラプソディを見やる。
美麗な顔立ちだ。銀色の髪は腰まで伸ばし、胸は豊かで、肌は透き通るよう。誕生日会ということで、赤いドレスを着ている。
ワープした先は、ラプソディの自室だった。
「さっそく、パパに挨拶しに行きましょう」
「……え、いきなりか? 心の準備がまだなんだが」
ラプソディは、おかしそうに笑う。
「もう、レイったら。義父に会うのに、心の準備なんか必要ないでしょ。さ、行くわよ」
ラプソディに手を取られて、今回は徒歩で移動。
3分後には、魔王の間にいた。
魔王は、5メートルの巨躯。魔族の頂点に君臨するだけあって、圧倒的な存在感を放っている。
とはいえ、満面の笑みだが。
「おお、愛する娘ラプソディよ! そして、レイ君! よくぞ来てくれた!」
「うん、パパ。誕生日おめでと!」
「……この度は、おめでとうございます」
そこでレイは、ハッとした。
誕生日会に来たというのに、プレゼントを持って来ていないのだ。
魔王の間から出たところで、レイはラプソディに言った。
「王都にワープで戻してくれ。魔王への誕生日プレゼントを買って来たいから」
誕生日会は、19時から行われる。今は13時だ。まだ6時間の余裕がある。
「プレゼントなんて、気を使わなくていいのよ。あたしだって、用意してないもの。パパにとっては、こうして子供たちの顔を見ることが、最高のプレゼントになるのよ」
「そりゃあ、愛娘の場合はそうだろ。しかし、おれは義理の息子だぞ。立場ってものがある。とにかく、王都に送り返してくれ」
「けど、レイ。パパは、魔王よ。欲しいモノなら、何でも手に入るわ。いまさら、王都で買えるもので喜ぶかしら」
レイは呻いた。
ラプソディの指摘は、もっともだ。金銀財宝から、稀少な美術品まで、魔王なら何でも手に入るだろう。
「……魔王が、欲しいものはないのか?」
是非とも、魔王には喜んでもらいたい。冒険者としてはあるまじき考えだが、義理の息子としては、当然の発想だ。
ラプソディは腕組みした。
「うーん。あ、そういえば」
「何かあるのか?」
「レイのご両親に、挨拶したがっていたわね」
絶句するレイ。
「……他には?」
「ううん。他は思い当たらないわ。パパは言っていたわよ。『家族になったのに、レイ君のご両親とはお会いしたことがない。残念でならない。とはいえ、魔王城を留守にして、リウ国に赴くわけにもいかない』ってね」
「まぁ、リウ国には行けないよな。魔王だしな」
するとラプソディは、満面の笑みを浮かべた。
「いいこと考えたわ! サプライズで、レイのご両親を招待するのよ! パパも喜ぶし、あたしも嬉しいわ。あたしも、いまだにレイのご両親に、挨拶させてもらってないものね」
レイは、うーむ、と唸った。
そもそも、結婚したことも両親には報告していなかった。
「……それは、どうだろうな。母さんも父さんも、素朴な農民だぞ。義父さんと会ったら、腰を抜かすんじゃないか」
「何を言うのよ。息子の妻の家族と会うのよ。それでどうして、腰を抜かすのよ」
(魔王だからじゃないかな)
だが、レイは決意した。
いつまでも、両親に隠しておくことはできない。
それにラプソディも、何だか悲しそうだ。当然かもしれない。夫に家族を紹介してもらえないのだから。
(そうだ。愛する妻を紹介することに、何の問題があるんだ? たとえ、その妻が、魔王の娘だとしても、だ)
「分かった。両親を誕生日会に呼ぼう」
「それでこそ、レイよ。それじゃ、さっそくワープ魔法を」
ドタドタという足音荒く、何やら巨大な影が走って来た。
その正体は、カニだ。クマほどの大きさがある。
レイはとっさに両手剣を抜いた。
「ベンゲン伯爵か!」
ベンゲン伯爵の仕事場は、魔王城だ。
幾度となく、魔王城の攻略に挑む冒険者パーティの前に、立ちふさがってきた。
そして、数えきれないほどの冒険者たちを血祭りに上げて来た。そのハサミで。
そんなベンゲン伯爵だが、いまは何やら慌てている。
「姫君! 良いところで!」
「ベンちゃん、どうかしたの? あ、こちらレイよ。あたしの旦那様。ベンちゃん、結婚式のときは留守だったものね」
数多の冒険者を血祭りに上げて来たベンゲン伯爵が、レイに恭しく頭を下げる。
「婿殿。お初にお目にかかります。ベンゲン伯爵と申します」
レイは何とか返事した。
「……どうも、よろしく」
「それでベンちゃん、何事なの?」
「おお、そうでした! 姫君、魔王陛下の誕生日ケーキが! 15000段重ねのケーキが、いまだ完成の見込みが立っておりませぬ!」
「え、パパの誕生日ケーキが? それは一大事ね! すぐに対処しましょう。厨房へ向かうのよ」
ラプソディが、ベンゲン伯爵と共に歩いて行こうとする。
レイは慌てて止めた。
「まってくれ、ラプソディ。実家まで、ワープしてくれるんじゃなかったのか?」
「ごめんなさい、レイ。けれど、誕生日ケーキの完成は大切なのよ。クルニアちゃんが、もう来ているはずだから、彼女に頼んでみて」
それだけ言うと、ラプソディは行ってしまった。
新妻を見送ってから、レイはハッとした。
魔王城に、ただ一人ではないか。
(魔王城には、多数のトラップも仕掛けられているはずだぞ。客人のいる今は、全部offになっているんだろうな?)
石造りの通路を、慎重に進む。
こうして一人になると、やはり禍々しい場所だ。
通路の端に、宝箱を見つけた。レイが興味深く眺めていると、宝箱が声を出した。
「これは、婿殿ですな。私は、宝箱型モンスターです。どうぞお見知りおきを」
「……あ、ああ、よろしく……もしかして、宝箱のフリをして、冒険者を襲っているのか?」
「はい。自慢ではありませんが、この役目を仰せつかってから、26人もの冒険者を血祭りに上げました」
「……そうか。程々にな」
それから20分ほど歩いていると、クルニアを見つけた。
「クルニア!」
「なんだ、レイか」
レイは、クルニアの手を強く握った。感極まる。
「良かった。会えて、良かった」
「……ああ、そうだな。いい加減、手を離せ」
レイは、両親を迎えに行く話をした。
「ラプソディは用事ができてしまったんだ。クルニアのテグスで、連れて行ってくれないか?」
「仕方ないな。こっちだ、来い」
竜騎士クルニアのワイバーンであるテグス。どこにいるのかと思えば、クルニアの居室のバルコニーにいた。
「前のときみたいに、速度は出さなくていいからな」
前回、テグスに乗ったときは、何度も振り落とされそうになったものだ。
「バカなことを言うな。のんびり飛んだら、誕生日会に間に合わないだろ」
「……だよな」




