表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/186

42話 闘技大会⑮~『岩の下では、無数の蟲が蠢く』。



 オルの必殺技スキル〈魔轍〉が、ラプソディに届くことはなかった。


 ラプソディの〈インフィニティ〉──輝く銀色の糸が、一閃。先に、オルの両腕を切断したためだ。


 ラプソディが、空中で、オルを蹴飛ばす。

 両腕を無くしたオルが、隕石のように落ちて行った。

 ラプソディも追うようにして、降下していく。


 見届けたクルニアが、感嘆の声で言う。


「絶対系魔法、〈インフィニティ〉。姫殿下が使われる、最強魔法の一つだ」


 レイは尋ねた。


「〈インフィニティ〉とは、あの銀色の糸だな? いったい、どういう効果があるんだ?」


「全ての物体を切り裂く、魔法の糸だ。〈インフィニティ〉の前では、どれほどの防御力も0になる」


 レイは呻いた。


「オルさえも、容易く切り裂く糸か。やはり、ラプソディには底がないな──着地しよう、クルニア。戦いも終結だ」


 テグスが、降下を始める。

 地上付近に来ると、オルの苦鳴が聞こえて来た。


「ぐぁぁぁ!」


 ラプソディが、オルの両足の腱を、〈インフィニティ〉で断ち切ったためだ。

 ラプソディは満足した様子で言う。


「これで逃げられないわね、竜人ちゃん」


 テグスが着地し、レイ達は降りた。

 レイは、ラプソディの傍まで行く。


 オルは倒れたまま、ラプソディを睨んでいる。

 両腕は切断され、両足の腱も切られた。それでも戦意は失っていないようだ。


 ラプソディは、オルの腹部を踏みつけた。


「さてと、オルちゃん。約束どおり、どこの組織の指示で動いているのか、話してもらうわよ」


 オルが吐き捨てるように言う。


「聞いてどうするつもりだ?」


「冒険者ギルドと、あなたの属する組織は、同じものを欲したわけよね。すなわち、浮遊石を。同様のことが、また起こるかもしれないわ」


 レイはハッとした。

 ラプソディは、すでに先のことまで考えていたのだ。

 冒険者ギルドと、別の組織が、競争している可能性がある。浮遊石だけではなく、様々な秘宝などを競って、取り合っているのではないか、と。 


 冒険者のレイたちも、そんな組織があるのなら、知っておいたほうが良い。


 オルは笑った。


「いいだろう。いずれにせよ、敗北した我に生きる道はない。ならば、キサマに教えてやっても構うまい」


「もったいぶるわね」


「我が属するのは、〈(ふくろう)の庭〉だ」


「〈梟の庭〉ねぇ。なに、それ?」


 レイも知らなかったが、サラは知っていた。


「あの、それは暗殺組織のことです。王都ルクセンを拠点にしているとか。主な顧客は、貴族と聞きます。謎に包まれた組織です」


「ふうん。そうなの」


 ラプソディは納得した様子だ。

 しかし、レイは違った。


(〈梟の庭〉……フクロウ。まてよ、確か)


「ラプソディ。オルは、嘘をついているぞ」


「あら?」


「ドムは死ぬ間際、あることを言った。おれが聞こえたのは、『フクロウ──万歳』だけだった。実際は、『〈梟の庭〉、万歳』と言ったのだろう」


 ドムは、〈梟の庭〉に属していた。

〈梟の庭〉の指令で、浮遊石を得ようとしたのだ。

 そして、ドムとオルは仲間ではなかった。


 よって、オルは〈梟の庭〉には属していない。

 それらしい虚偽で、ラプソディ達を騙そうとしたわけだ。


 ラプソディが、オルの顔面に〈ファイヤ・ブラスト〉を叩き込む。

 防御力が高くとも、かなり痛いだろう。


「ダメよ、嘘をついちゃ。ドムが属していたのが、〈梟の庭〉だった。ということは、オルちゃんが属しているのは、〈梟の庭〉ではないわけね。では、オルちゃん。あなたは、どこの組織から指示を受けているのかしら?」


 沈黙。

 オルに答える気はないようだ。


「いいわ」


 ラプソディは屈みこみ、オルの頭に片手を置いた。


「〈リーディング〉」


 記憶を読む魔法だ。

 ラプソディは小首を傾げ、オルの記憶を辿っていく。


「ふーん。あなた、メメク国の出なの。傭兵として、国々を回ってきたのね」


 メメク国は、ロール大陸の南東に位置する小国だ。

 ロール大陸中央にある、大国リウとは、あまり接点はない。


 ラプソディは、さらにオルの記憶を読んで行く。


「半年前、あなたはリウ国に来た。イワンと一緒に。『ある存在』に呼ばれたのね。そして、『ある存在』の配下となった。あら」


 オルの頭部が、破裂した。


 ラプソディは、くすりと笑う。

 サラが悲鳴を上げる。

 レイは絶句した。しばらくしてから、何とか言葉を絞り出す。


「ラプソディ。何が、起きたんだ?」


「オルの脳味噌に、魔法が仕掛けられていたのよ。何者かによって、自動発動タイプの魔法が。記憶を覗かれたら、防衛するように出来ていたのね」


「防衛だって? オルの頭を吹き飛ばすことが、か?」


「確実な防衛策だと思うわよ。脳が壊れてしまったら、記憶は読めないものね」


 ラプソディは立ち上がり、伸びをした。


「けれど、オルのボスの正体は分かったわ」


「オルをリウ国に呼び寄せた、『ある存在』のことか? 『ある存在』とは、何なんだ?」


 ラプソディは、楽しそうに答えた。


「古代神殿ルマの〈守護獣〉よ」


 レイは、驚愕した。


「まさか」


 悠久の昔に絶滅した、古代種族。彼らが、国内各地に残したのが、古代神殿だ。

 ルマも、そのうちの一つ。


 この古代神殿ルマを守るのが、〈守護獣〉。

 先月、レイたちはクエストで、古代神殿ルマの近くまで行った。〈守護獣〉が呼び寄せたゴブリンの群れを、追い返すためだ。


「〈守護獣〉が、オルとイワンに命じ、浮遊石を持って来させようとしたのか。だが、何のためだろう?」


 ラプソディは肩をゆすった。


「さあ。けれど、そのうち分かるのではないかしらね?」


 直観的に、レイは思った。


(おれ達は近いうちに、古代神殿ルマに行くことになるだろう)と。


 レイは、オルの死体を見下ろす。


「死体を埋めてやろう。そうしたら、家に帰るか」


「そうね、帰りましょう」




※※※




 その夜──


 バール高原に、3人の墓堀人が現れた。

 彼らは、ある指令を受け取って、この場に来たのだ。


 手際よく地面を掘り返し、頭部が半壊した死体を見つけ出す。

 竜人オルの死体を。


 墓堀人たちの目的は、この死体を持ち帰ることだった。

 3人の中でも、新入りの墓堀人が、先輩格に尋ねる。


「こんな死体、持ち帰って、どうするってんです?」


 先輩格は呆れて溜息をついた。


「お前、俺たちのボスが何だか、分かってんのか?」


「ゾンビ・マスターなんすよね。どう見ても、人間にしか見えないんすがね。つーか、俺たち、モンスターに従っているんすか?」


「今更なことを、ほざくな。それに、ゾンビ・マスターなんて、あの人の目の前で呼ぶんじゃねぇよ。生きたままゾンビにされるぞ」


 ようやく、新入り墓堀人は理解した。


「あ、分かったっすよ。ようは、この竜人の死体をゾンビにしようってわけだ──しっかし、なんでこの死体に拘るんすかねぇ?」


 先輩格は溜息をついた。


「あのなぁ──生者のころに強ぇほうが、ゾンビになった後も強ぇってのは、常識だろうが」


「あ、なーる」


 彼らは、オルの死体を収容袋に詰めると、そそくさと立ち去った。

 王都ルクセンへと。




※※※




 レイ、ラプソディ、ハニ、クルニア、サラ、リガロンの6名は、王都ルクセンに帰還した。


 レイが代表として、冒険者ギルドへ報告に向かう。


 しかし、すでにコロシアム全壊の苦情は届いていたらしい。

 ただボール侯爵は、レイ達を一方的に責めはしなかった。

 出場者の一人が浮遊石を盗み出そうとし、それをレイ達が阻止しようとした。それがコロシアム全壊に繋がったのだ、と説明してくれたのだ。


 受付台の向こうから、ローラが言った。


「『だが、コロシアム全壊はやり過ぎ』というのが、上からの苦言です」


「……次からは、気を付けさせる」

 

 とはいえ、お咎めはなしらしい。

 やはり、浮遊石を獲得したことが大きいようだ。


 レイは言った。


「ドムについて、報告がある。ドムが属していたのは、〈梟の庭〉のようだ」


「〈梟の庭〉。暗殺者の組織ですね。その起源は、リウ国が独立したころまで遡るとか」


「それと、出場者の中には竜人がいた。他国から来た傭兵だ。この竜人は、古代神殿ルマの〈守護獣〉に従っていたようだ」


 ローラは小首を傾げる。


「どういうことです? 〈守護獣〉が人を使役したという話は、聞いたことがありませんよ」


「ルマの〈守護獣〉は別格なんじゃないか」


 ローラは半信半疑のようだが、上に報告しておく、と約束した。


 レイが自宅に帰ると、グリフィンのグリが飛びついて来た。レイの顔を舐める。

 すっかり飼い犬ポジションだ。


「よし、よし。留守番させて、悪かったな」


 グリも成長すれば、クルニアのテグスのように、騎乗できるのだろうか。


 ラプソディが封筒片手に、駆けて来た。嬉しそうだ。


「レイ。パパから、招待状が届いたわ」


「何の?」


「パパの誕生日会よ! 夫婦で参加して欲しい、とのことよ。明日がパパの誕生日だということ、ウッカリしていたわ。これじゃ娘失格ね。パパに謝らないと」


「……まて。誕生日会って、どこでやるんだ?」


「魔王城に決まっているでしょう?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ