40話 闘技大会⑬~クルニアの〈天落〉。
半分ほど崩落した、戦闘フィールド上。
透明化したドムを叩きのめすため、クルニアは最強の必殺技スキルを放つ。
「〈天落〉!」
クルニアが戦闘槌を振り下ろし、虚空を叩いた。
瞬間、戦闘槌で叩いた虚空から、闇が噴出する。
しかも、ただの『闇』ではないようだ。
その証拠に、『闇』が触れるだけで、物体が塵と化していく。『闇』は、残っていた戦闘フィールドを跡形も無くさせ、観客席を消滅させていく。
『闇』は、レイにも至ろうとした。
「き、きたか!」
『闇』など、防御しようがない。心底、レイは死を覚悟した。
「レイ、案ずるな」
クルニアが、レイの前で戦闘槌を振るう。
すると、『闇』が遮られ、レイは無事に済んだ。
やがて、拡散していた『闇』は一斉に消えた。〈天落〉の効果が終わったとき、コロシアムはほとんど消滅していた。
レイとクルニアの足場だけが、残っている。
レイは唖然とした。
(〈天落〉、これほどとは)
地下通路から、サラを抱えたハニが、ジャンプして来た。レイとクルニアのいる足場に、着地する。
「クルニアさん! 〈天落〉を使うなら、言ってよ! 〈天落〉の『闇』は、通常の魔法障壁じゃ防御できないんだからさ! 危うく、ボクとサラも塵と化すところだよ!」
〈天落〉が放った、物体を塵と化す『闇』は、地下通路にまで達していたようだ。
「すまんな。しかし、ハニならば防御できると、信じてのことだ。姫殿下も、ご無事だろう? 姫殿下のお力ならば、〈天落〉の『闇』も弾き返されよう」
「それ以前に、ラプソディ様はもう移動されたよ。オルを巻き込んで、ワープ魔法を使ったのさ。ここは狭くて、戦いづらかったみたい」
レイは、腕組みした。
「ラプソディ……。ところで、クルニア。浮遊石まで、『闇』で塵と化したんじゃないか?」
クルニアが首を横に振る。
「心配するな。浮遊石は、魔石の一種。簡単に破壊されるものではない」
レイは自分のいる足場から、地下通路まで飛び降りた。
〈天落〉が発動するまで、浮遊石は戦闘フィールドの上にあった。その戦闘フィールドは、〈天落〉の『闇』で消滅した。
仮に浮遊石が無事なら、地下通路に落ちているはずだ。
少し探しただけで、見つけた。浮遊石。
その傍には、身体が半分になった男が、倒れている。
ドムだ。すでに透明化は解かれている。
どうやら、〈天落〉の『闇』を食らい、身体の半分を塵にされた様子。
驚くことに、ドムはまだ生きていた。
レイは、ドムの傍に屈みこむ。
〈リザレクション〉でも使わない限り、ドムは助からない。そして、この場に〈リザレクション〉を使える者はいない。
Eランクのサラでは、まだ会得できない回復魔法なのだ。
レイは思った。ドムは敵だったが、もう死ぬ運命だ。最期を見届けてやろう。
ドムは、レイに気づいたようだ。半分だけ残った口を、動かした。
これまた驚くことに、かすかだが言葉が発せられた。
「……フクロウ……万歳……」
ドムはそれだけ発すると、息絶えた。
(フクロウ? 鳥類の梟のことか? それとも、何か別のものを示しているのか?)
クルニア、ハニ、サラが、レイの傍に着地した。
厳密には、サラはハニに抱えられているが。
レイは言った。
「ハニ。ラプソディを追いたい。ワープ魔法を頼む」
ハニは無念そうに言う。
「ボク、ワープ魔法は使えないよ」
「……そうだったな。とりあえず、移動しよう。クルニア、浮遊石を頼む」
レイ達は、コロシアム跡地の外へ出た。
周囲には、衛兵たちが並んでいた。彼らがコロシアムに入って来なかったのは、ボール侯爵の命令だろう。
リガロンが、ボール侯爵と共にやって来る。
「よう、レイ。無事だったか? あの『闇』は、何だったんだ? コロシアムの9割が、塵になっちまったぜ」
レイは、改めて思った。これは大惨事だ。
ボール侯爵に頭を下げる。
「申し訳ございません、閣下。おれの部下が、コロシアムをあのようなことに」
レイがリーダーである以上、クルニアは部下となる。
ボール侯爵は答えた。
「何を言うか! コロシアムなど、また建てれば良い! 諸君らの協力に、私は感謝しておるぞ!」
「はぁ」
物分かりの良い侯爵だ、とレイは思った。
しかし、そういう訳でもないようだ。
侯爵の顔には、血の気がない。衛兵たちも、皆、顔面蒼白だ。
ラプソディの〈トルネード〉、クルニアの〈天落〉。
こんな『化け物』のいるパーティに文句は言えない、ということか。もしも怒らせたら、どうなるか。最悪、この都市まで消滅させられかねない、と。
(これは、あとあと、冒険者ギルドに苦情が行くのだろうなぁ。それなら、もう自棄だ)
レイは、クルニアが片手で持っている浮遊石を、指さした。
「閣下。褒賞として、あちらを頂いても構いませんか?」
「良い、持っていくが良い!」
ボール侯爵は、裏返った声で、そう答えた。この流れでは、拒否もできまい。
レイとしても、こんな脅すやり方では、入手したくはなかった。しかし、他に選択肢もなくなったのだ。
(浮遊石を持ち帰らない訳には、いかないからな)
レイは、ボール侯爵から離れ、仲間たちを呼んだ。
パーティ・メンバーだけで、相談する。
「浮遊石は得たが、まだクエストは終わっていない。ラプソディとオルの決着を見届けて、初めてクエストも完了と言える。問題は、ラプソディは今どこにいるのか、だが」
後ろのほうが、騒がしくなった。ボール侯爵のもとに、伝令兵が駆け付けたのだ。
レイは気になって、聞き耳を立てた。
伝令兵は、焦った様子で、侯爵に報告した。その内容を、レイも盗み聞く。
伝令兵によると──。
12キロほど西に行ったところに、バールという高原がある。このバール高原で、黒龍クラスのモンスターが暴れている、と言うのだ。
モンスターの種類は特定できない。しかし、何キロも離れた所からでも、大爆発などの破壊を目撃することができる。
あれほどの破壊力は、黒龍クラスのモンスターに違いない、と。
レイは、仲間たちと目を見交わした。
「ラプソディとオルだ。今、2人はバール高原で戦っているんだ」
リガロンが唸った。
「あの2人が、ガチで戦闘しているんだ。遠くからは、まるで黒龍が暴れているように、見えるんだろうな」
「大至急、バール高原に向かうぞ」
クルニアが提案した。
「私のテグスなら、14キロの移動もすぐだ。しかし、騎乗できるのは3人までだ。レイ、貴様は来るとして、もう1人は?」
テグスとは、竜騎士であるクルニアの、ワイバーンだ。
ハニが挙手した。
「ボクが行くよ。ボクなら、ラプソディ様の援護ができる」
レイは首を横に振った。
「いいや、サラが必要だ。万が一、ラプソディが負傷したときのために。クルニア、おれとサラを乗せてくれ」
「では、ボクは?」
「ハニは、リガロンと共に、一足先に王都に帰還するんだ。浮遊石を持ってな」
「浮遊石を運ぶだけなら、リガロンだけで充分だと思うけど」
「どうかな。浮遊石は、おれが思っていた以上に、複数の組織が欲しがっている。ドムの仲間あたりが、この都市の外で待ち伏せしている危険は、ある」
ハニは溜息をついた。
「ボクは、浮遊石とリガロンのお守だね。了解したよ」
リガロンは納得がいかない様子だ。
「おい。オレは、自分の身くらいは守れるぜ」
レイは、リガロンの訴えは無視して、言った。
「決まったな。じゃクルニア、さっそく出発だ。ラプソディの戦いを見届けるぞ」




