39話 闘技大会⑫~三つ巴の戦いに入ります。
レイは、状況を整理した。
ここは宝物庫に続く、コロシアムの地下通路。ところが、真上にあった戦闘フィールドが破壊されたため、天井はなくなり、青空の下だ。
戦闘フィールドからは、まずオルが落ちて来た。
続いてラプソディが、サラを連れて、降下して来た。
さらに、近くには透明化したドムもいるはずだ。
ドムの狙いは、宝物庫内の浮遊石。しかし、それはオルも同じことだろう。
もちろん、レイたちのクエストの目的も、浮遊石だ。レイの理想は、闘技大会に優勝し、正規ルートで入手することだった。
オルも、同じ考えだったのだろう。
だが、事ここに至っては──。
レイは、指示を出す。
「浮遊石を入手するぞ! ドムまたはオルに奪われるな!」
クルニアの戦闘槌が、宝物庫の扉を破壊した。
クルニアほどの攻撃力を持ってすれば、開錠呪文など必要がないらしい。
「浮遊石は、私が確保する!」
クルニアが宝物庫内へと駆け込む。
それを見届けてから、レイはラプソディに指示する。
「オルを頼むぞ、ラプソディ!」
「了解よ、レイ。そろそろ、決着を付けようと思っていたの」
地下通路の崩落した天井から、ハニが降りて来た。
「やっほう。観客たちの避難が開始されたよ。さすがに、これ以上の観戦は危険、と判断されたみたいだね」
レイはうなずいた。
「だな。もう、闘技大会どころではない」
指を鳴らしながら、ハニが聞く。
「それで、リーダー。ボクの役目は?」
「サラを守りつつ、臨機応変でいけ」
「え、またお守り? ボクも、そろそろ戦いたいんだけど。ラプソディ様とクルニアさんばかり、ずるいよ」
「リーダー命令だ。頼むから」
「……了解」
レイは、宝物庫内へと走った。
オルとの決着は、ラプソディに任せた。サラのことは、ハニに託した。
レイが今するべきは、浮遊石の確保だ。
宝物庫内は、思ったより広かった。
複数の保管用の棚が並べられている。そこには、リウ国の貨幣や、金の延べ棒なども、保管されていた。
(浮遊石は、どこだ?)
近くの棚が、吹き飛んできた。
さらに戦闘槌を回転させながら、クルニアが滑って来る。すでに、ドムと交戦に入っているらしい。
「クルニア!」
「レイか、気をつけろ。小癪な透明野郎が、近くにいる」
突然、火炎の弾が飛来してきた。
透明化したドムが、〈ファイヤ・ブラスト〉を、レイ目がけて発射したのだ。
レイは深呼吸し、必殺技スキルを発動。
「〈茨道改〉!」
斬撃の威力で、火炎弾を吹き飛ばした。
レイは内心でホッとした。
(〈茨道改〉の攻撃力は、〈ファイヤ・ブラスト〉を上回る)
もしも上回っていなければ、レイは火炎弾の直撃を受け、死んでいた。
とはいえ、火炎弾を回避する時間はなかったので、〈茨道改〉に賭けたのだった。
クルニアが難しい表情で言う。
「レイ。貴様、死んでくれるなよ。姫殿下のお怒りを受けるのは、私だぞ」
「おれなら心配するな。浮遊石は、どうした?」
クルニアは、宝物庫の先を、戦闘槌で示す。
「どうやら、この先らしい。ドムに先行されたな」
「まずいな。追うぞ」
「まて。これ以上、透明人間などに手こずるのは、癪だ。レイ、伏せていろ」
クルニアは戦闘槌を振りかざす。必殺技スキルを発動するつもりのようだ。
「〈魔月壊叩〉!」
クルニアの前方に、直径3メートルの球体が出現。
その球体を、クルニアは戦闘槌で叩きつける。
球体は禍々しく回転しながら、飛んでいき──爆裂した。
途轍もない破壊力だ。少なくとも、地下で放って良いものではない。
宝物庫は、〈魔月壊叩〉の爆裂によって、内側から吹き飛んだ。
保管用の棚がバラバラになり、壁と天井が粉砕され、瓦礫が降り注ぐ。
レイは、これは捌ききれないぞ、と思った。
クルニアは、レイの傍に移動してから、
「〈大車輪〉!」
クルニアは戦闘槌を回転。
それによって、エネルギー障壁が生まれた(魔法障壁とは、また異なるものだ)。
この障壁が、降り注ぐ瓦礫から、レイとクルニアを守った。
終わってみると、日差しが降り注いでいた。天井が吹っ飛んだためだ。
宝物庫内にあった品物は、ほとんどが瓦礫に埋もれている。
「クルニア。これじゃ、浮遊石まで瓦礫の下じゃないか」
「構わないだろ。掘り出せば良い話だ。浮遊石が頑丈なのは、確かだからな」
レイは渋々ながら、納得した。
「……まぁ、そうかもな。それに、ドムを倒せたのは大きいか。〈魔月壊叩〉を食らって、生きているとは思えない」
そのときだ。底光りする巨岩が、宙に浮きあがった。
巨岩は漂って行き、天井のあったところから、地上へと出る。
レイはハッとした。
「あの巨岩が、浮遊石だ。浮遊石だけあって、浮遊しているのか?」
クルニアは首を横に振った。
「魔石というものは、単体では効力を発揮しないぞ」
「それなら、どうして──そうか、ドムだ! ドムはまだ生きていて、浮遊石を盗んでいくぞ!」
クルニアは壮絶なる笑みを浮かべた。
「まだ生きていたとはな。賢者Aランクを舐めていたようだ。しかし、都合が良い。〈インビジブル〉の透明化が効くのは、使用者と、使用者の着ている服くらいだ。浮遊石までは消せないようだな」
レイは、うなずいた。
透明化したドムは、浮遊石を抱えて移動している。
つまり、浮遊石がドムの目印になる。
レイとクルニアも、ドムを追って、地上に出た。そこは戦闘フィールドの端っこだった。
15メートルほど移動すると、ラプソディの竜巻が開けた大穴がある。
観客の避難は済んだらしく、観客席に人はいなかった。
その代わりか、衛兵たちが雪崩れ込んで来た。50人はいる。
衛兵の隊長らしき男が、レイとクルニアに怒鳴った。
「賊ども、そこまでだ!」
レイは呻いた。
「賊は、おれたちじゃない。ボール侯爵から、ちゃんと話を聞いておけ。おれたちは冒険者で、賊を止めようとしているんだ。賊は、そこだ」
レイが両手剣の切っ先で、浮遊石を示す。
とたん、浮いていた浮遊石が、地面に落ちた。
浮遊石を抱えていたドムが、手を離したようだ。これでまた、透明化したドムの居場所が、分からなくなった。
「バカめ。次こそ、貴様が死ぬときだ」
そう言ってクルニアが、戦闘槌を振りかざす。
「まて、クルニア。何をするつもりだ? まさか、〈魔月壊叩〉を発動するつもりか?」
「いいや。さっき〈魔月壊叩〉を選択したのは、地下だったからだ。威力を遠慮したのだ。が、ここはもう地上。私の持つ、最強の必殺技スキルを使わせてもらおう」
レイは唖然とした。
クルニアの最強の技なら、ラプソディの〈トルネード〉や、ハニの〈ゴッド・フレイム〉に匹敵するだろう。
「そんなものを発動したら、そこの衛兵たちが巻き込まれ、全滅するだろ!」
「なに? 衛兵どもの命まで考えねばならないのか? 冒険者というのは、厄介だな」
刹那、何もない空間から、〈ファイヤ・ブラスト〉が連射された。
もちろん、透明化したドムが放っている。
連射された火炎弾は、衛兵たちに直撃した。ほとんどの衛兵たちが、火達磨となり、絶叫しながら死んでいった。
生き残った衛兵たちは、悲鳴を上げながら、逃げて行く。
どうやら、ドムは邪魔者を全員、排除するつもりのようだ。
クルニアが笑った。
「ドム! 賢者というわりには、間抜けだな! 衛兵がいなくなった以上、私が遠慮する理由はなくなった!」
改めて戦闘槌を振りかざす、クルニア。
「いくぞ、透明の小物が!」
レイは呻いた。
(この近距離で、最強の必殺技スキルを使うのか?)




