38話 闘技大会⑪~THE崩落。
レイは考える。
敵のドムは、透明化している。よって、こちらは攻撃を絞るのが難しい。
一方で、宝物庫前のこの通路は、狭い。ドムも動きは制限されるはずだ。
「レイ。貴様は、私の後ろにいろ」
「まてよ、クルニア。戦闘の指揮は、おれに取らせるんだろ?」
クルニアが舌打ちする。
「貴様の防御力の低さは、話に聞いている。貴様に死なれては、姫殿下に顔向けできん」
レイは一考した。
戦士たるもの、仲間の陰に隠れるのは情けない。
とはいえ、一発の攻撃を受けただけで、致命傷が避けられない身なのも事実。
「了解した」
レイは、クルニアの背後へと移動した。
ここからでも、〈風殺剣〉による飛ぶ斬撃で、遠距離の攻撃はできる。
だが、ふと心配になった。
「そもそもドムは、まだ宝物庫の前にいるのか?」
レイとクルニアは、宝物庫に向き合う形でいる。
宝物庫の扉からは、8メートルの距離だ。
透明化したドムは、レイ・クルニアと宝物庫の間に、いるはずだ。
まだドムが移動していなければ、だが。
「ドムが、私のそばを通過していないことは、確かだ。姿は見えずとも、そこまで近づけば気配を感じることはできる」
「そうか。なら、ドムはまだいるな」
宝物庫の前から移動するとなると、クルニアのそばを通過せざるをえないからだ。
とはいえ、ドムがワープ魔法を使えたら、話は変わってくる。
だが、ワープ魔法は、最上位の魔法。ハニでさえ使えないというので、ドムが使える可能性は低い。
「よし、クルニア。どうドムを倒す? アイディアは?」
「姿が見えずとも、攻撃は当たるだろう。〈五月雨〉!」
クルニアが、必殺技スキルを発動。
戦闘槌が超高速で、繰り出される。
数秒で、百撃分だ。
床といい壁といい、あたり構わず粉砕していく。
「……派手だな」
クルニアは攻撃を終えた。
「これでか? 私の必殺技スキルの中では、大人しいほうだ。ここは地下だから、加減した」
レイはうなずいた。
「確かに、天井が崩れると、厄介なことになる──」
刹那、天井に亀裂が走るのが、見えた。
「クルニア! お前の〈五月雨〉のせいで、天井が裂けそうだぞ!」
「だから、私の攻撃の中では、大人しいほうだと言っているだろ。おっと」
クルニアが戦闘槌を振るう。
何もない場所で、金属音がした。同時に、火花が散る。
透明化したドムが、長剣で斬り付けてきたようだ。
クルニアはただの直感で、ドムの斬撃を予測。戦闘槌で弾いた。
ドムは、先ほどの〈五月雨〉を、すべて避けきったらしい。
レイは再度、視線を天井に向けた。
天井の亀裂が、広がっているではないか。
(クルニアの〈五月雨〉のせいではないな。この上で、何か起きているのか?)
さらに、気になることがあった。
先ほどから、地上のほうから、物凄い音がしているのだ。
まるで、激しい風が渦巻いているときの、音。
レイは、ハッとした。
「……まさか」
「どうした、何かに気づいたのか?」
クルニアは、姿の見えぬドムと、斬り交わしている。
そんな状態で、レイに尋ねて来た。なかなかの余裕だ。
レイは答える。
「この真上は、コロシアムの戦闘フィールドだ!」
すなわち、ラプソディとオルが戦っている。
(この、激しい風が渦巻いている音、だが。正体は、ラプソディの竜巻じゃないのか?)
そのときだ。
天井が完全に崩れ出した。
「瓦礫が落ちてくるぞ!」
クルニアが戦闘槌を一閃させ、瓦礫の雨を吹き飛ばした。
「ほう。これはまた──」
※※※※
少し前──。
固唾を呑みながら、サラは戦闘を見守っていた。
戦闘フィールド上での、ラプソディとオルとの戦いを。
オルの攻撃は、単純だ。
魔改造のキャノン・ランスから、〈光の柱〉を発射。
その状態のまま、激しく移動する。結果、どうなるか?
〈光の柱〉は常時発射されている。そのため、まるで〈光の柱〉が鞭のように動くのだ。
オルは、巨大な鞭とした〈光の柱〉で、ラプソディを狙う。
対するラプソディは、魔法障壁や、〈ファイヤ・ブラスト〉を当てることで、〈光の柱〉を弾いていた。
さらにラプソディは、防御と平行して、攻撃も行っていた。
〈ファイヤ・ブラスト〉や〈ライトニング・ブラスト〉で、オルを攻撃し続ける。
対するオルは、それらの攻撃を避けなかった。
まともに食らっても、ダメージを受けていない。
オルの圧倒的に高い防御力が、ラプソディの魔法攻撃に耐えているようだ。
ラプソディは、何度目かのワープ魔法で、オルから距離を取った。
「ふーん。思ったより、頑丈ね。ハニちゃんに負担がかかるけど、これならどうかしら? 〈トルネード〉!」
ラプソディによって、戦闘フィールド上に、巨大な竜巻が生まれた。
観客席をも巻き込む規模だ。それでも、ハニの魔法障壁があるため、観客たちは無事だが。
一方、サラは観客席より前にいた。つまり、魔法障壁の外側だ。
竜巻に巻き込まれた。
「きゃぁぁぁぁああぁぁ!」
吹き飛ばされるサラを、空中でラプソディがキャッチ。
「大丈夫? サラちゃんのこと、忘れていたわ」
ラプソディに抱きかかえられたまま、サラは頭を下げた。
「あの、ありがとうございます」
「サラちゃんには、さっきレイを助けてもらった恩義があるものね」
レイが重傷を負ったとき、〈エンジェル・ヒーリング〉で回復させたことらしい。
「いえ、パーティの仲間として、力になれて嬉しかったです」
「そう」
このとき、ラプソディは浮遊魔法で、空にいた。戦闘フィールドからは、15メートルほどの高さだ。
竜巻は、いまだ猛威を振るっている。
やがて、もう充分と、ラプソディが判断したらしい。
竜巻が消えた。
竜巻の直撃を受けていたオルは、戦闘フィールド上に立っていた。竜巻の狂風の中でも、持ちこたえたようだ。
一方、肝心の戦闘フィールドは、限界だったらしい。
ハニの魔法障壁も、戦闘フィールドには及んでいない。
そして、頑丈な造りの戦闘フィールドも、さすがに竜巻レベルには備えていなかった。
戦闘フィールドが崩れて、下へと落ちていく。
戦闘フィールドの真下には、地下通路があった。しかも、運の悪いことに人がいた。
サラはその人たちを見て、「あっ」と声を上げた。
レイとクルニアである。
浮遊石をドムから守るため、別行動した2人が、なぜか地下通路にいる。
ラプソディも、当然、レイたちに気づいた。
「あら。地下の宝物庫に、浮遊石が保管されていたようね」
「それで、レイさんとクルニアさんは、地下通路へと移動していたのですね」
その地下通路の真上に、戦闘フィールドがあった。そして、ラプソディの〈トルネード〉によって、戦闘フィールドが崩れ去ったのだ。
こうして地下通路は、空中にいるラプソディとサラからも、見下ろせるようになった。
「あ、ラプソディさん、あそこに!」
サラが指さした先には、オルがいた。圧し掛かっていた瓦礫を、蹴散らしている。
崩れた戦闘フィールドと共に、オルも地下通路へと落ちたのだ。
つまり、レイとクルニアの近くに、オルがいる。
ラプソディが言った。
「行くわよ、サラちゃん」
「はい? きゃあ!」
ラプソディが、サラを抱いたまま、急降下したのだ。
そして、地下通路に着地。
地下通路といっても、戦闘フィールドが崩れたため、もう天井はないが。
レイが、驚きの声を上げた。
「ラプソディ! サラも!」
クルニアが言う。
「姫殿下、お気をつけてください。透明化したドムが、近くにいます」
サラは、ハッとした。
(レイさんのパーティ、ドム、そしてオル。この場に、3つの陣営がいるのですね。つまり、三つ巴ということですか)




