37話 闘技大会⑩~ラプソディが血を流したので、明日は嵐だろう。
サラは、ヒーラーの待機場所まで移動した。
ここは戦闘フィールドの横にあるため、観客席より近くで、戦闘を見ることになる。ある意味では、ここが試合観戦の特等席だ。
サラは視線を動かし、ハニを見つけた。
ハニは観客席のところで、戦闘フィールドを見下ろしている。すでに魔法障壁は張られているようだ。
ただし、サラの能力では、魔法障壁を漠然と感知できるだけ。
観客たちには、魔法障壁を見ることはできない。魔法障壁は、攻撃を受けないと反応しないためだ。
戦闘フィールド上では、すでにラプソディとオルが対峙している。
オルは、竜人という話だ。
竜人を見たのは初めてのサラだ。
とはいえ、『魔王の娘』のほうがインパクトは強かったが。
ラプソディは武器を持たず。
一方のオルは、キャノン・ランスを装備していた。魔改造されたキャノン・ランスを。
サラはふと思った。
(片方だけが武器を持っているなんて、卑怯ではないでしょうか)
ラプソディが、オルに話しかけるのが、聞こえた。
「竜人ちゃん。あなた、どこの組織の指示を受けて、浮遊石を狙っているの?」
オルが答える。
「答えてやる義務はない。しかし、我に勝つことができたら、話してやろう」
「それなら、もう話してもらうことは決定的よね」
試合開始の銅鑼が鳴った。
何も見逃すまい、とサラは気合を入れた。
ラプソディの姿が消え、オルの背後に現れる。
ワープ魔法で、移動したのだ。
オルはキャノン・ランスを発射しながら、振り返る。
すなわち、〈光の柱〉を出しながら、だ。
ラプソディは、なんと右手で、〈光の柱〉を掴んで、止めた。
「……あら。思ったより、痛いわね」
ラプソディがパッと手を離し、再度、ワープ。
戦闘フィールドの端っこに、現れた。
ラプソディの右手から、血が滴っている。この右手の負傷は、〈光の柱〉を掴んだことによるものだ。
サラは息を呑む。
ラプソディは、わざと〈光の柱〉を、素手で掴んだ。避けようと思えば、いくらでも方法はあったはず。
だから右手を負傷したことも、ラプソディにとっては、気にすることではないのだろう。
しかし、それでもサラは思うのだ。
魔王の娘が負傷するのは、ただ事ではない、と。
ラプソディは、自分で〈ヒーリング〉を使い、右手の負傷を治癒した。それから言った。
「オルちゃん。少しは、あたしを楽しませてくれそうね」
ラプソディが指を鳴らす。
「〈ボム〉」
刹那、オルのいる場所で、大爆発が起きた。
ハニの魔法障壁がなければ、観客席も巻き込んでいただろう。それほどの爆発規模だった。
サラは内心でエールを送った、魔法障壁を維持しているハニに。
(ハニさん、頑張ってください)
爆煙の中から、オルが歩いてくる。あれほどの爆発を受けても、無傷だ。しかし、魔法で身を守ったのではない。
サラは愕然とした。
(オルは、防御力が凄まじく高いのですね。だから、ラプソディさんの爆発魔法を受けても、かすり傷一つ負っていない……)
オルがニヤッと笑った。
「この程度か?」
ラプソディが楽しそうに返答する。
「いいえ、ここからが本番よ」
※※※※
そのころ──。
レイは、ボール侯爵に続いて、通路を歩いていた。
ラプソディとオルの決勝戦は、気になる。だが、いまはドムを止め、浮遊石を守護することが重要だ。
ボール侯爵が話す。
「浮遊石は、13キロある。闘技大会の間は、コロシアムの地下宝物庫に保管しているのだ」
「安全面は、どうですか?」
「安全だとも。宝物庫を開けるには、開錠呪文が必要だ。また宝物庫の前には、精鋭がいて守っている」
「とにかく、いまも安全であることを確認したいですね」
すでにレイは、冒険者の身分を名乗っていた。
冒険者ということで、ボール侯爵も信用してくれたのだ。
レイ、クルニア、リガロンは、ボール侯爵と2人の衛兵と共に、地下へと降りて行った。
リガロンが鼻を鳴らす。
「血の臭いだぜ」
「みんな、油断するな」
宝物庫の前には、4人の死体が転がっていた。
レイが素早く尋ねる。
「閣下、彼らが宝物庫を守っていた者たちですか?」
ボール侯爵は、死体を確認した。
「間違いない」
それからボール侯爵は、宝物庫の扉を見やった。扉は閉まっている、が。
「この通路に賊はいない。ということは、すでに宝物庫の中だろう。これほどの技量の持ち主だ。開錠呪文が破られても、おかしくはない」
レイは、クルニアに言った。
「ドムは透明になる魔法、〈インビジブル〉を使える。だとすると──」
クルニアはうなずいた。
ボール侯爵が、宝物庫の開錠呪文を唱える。宝物庫の扉が開いていく。
クルニアが動いた。
「そこだ!」
何もない空間へと、戦闘槌を振り下ろす。
戦闘槌が、空中で弾かれる。
クルニアは体勢を立て直す。
いま、クルニアは透明化したドムへ、攻撃を仕掛けた。
しかし、その攻撃は弾き返されたのだ。
「賢者というのは、武器を装備しているのか?」
「準々決勝では、生成魔法〈フォーム〉で、長剣を造ったそうだ。というか、クルニア。観客席で見ていただろ?」
「寝ていた」
「……マジか」
ボール侯爵が、困惑の声を出す。
「な、何が起きているのだ!」
レイが急いで言う。
「ボール侯爵、こちらへ! ドムはまだ、宝物庫内に入っていません。入る前に、おれたちが駆け付けたからです。ドムは今、そこにいます。透明になって!」
ボール侯爵が走って来る。侯爵を守るように、2人の衛兵も動く。
しかし、2人の衛兵は、立て続けに斬られてしまった。ドムの仕業だ。
「ドム! ボール侯爵まで殺させるか!」
衛兵を斬りつけたことで、透明化したドムの居場所が、推測できた。
そこに向かって、レイは必殺技スキル〈風殺剣〉を発動。手刀で斬撃を飛ばす。
〈茨道改〉のほうが、斬撃の威力は高い。しかし、斬撃を飛ばすことができるのは、今のところ〈風殺剣〉だけだ。
何もない空間で、〈風殺剣〉の斬撃が弾かれた。つまり、透明化したドムが、長剣で弾いたわけだ。
「リガロン。ボール侯爵を連れて、離脱してくれ」
城郭都市ベルグでの権力者は、ボール侯爵だ。
よって、ボール侯爵を人質に取られると、厄介なことになる。
リガロンが答える。
「了解したぜ。さ、閣下。こちらに」
リガロンがボール侯爵を連れて、駆けて行く。
こうして宝物庫の前には、レイとクルニア、そして透明化したドムだけが残った。
「クルニア。ドムの透明化を解除する策はないのか?」
「あいにく、魔法は専門外だ」
レイは、両手剣の柄を握りなおした。
「なら、このまま戦うまでだな!」




