36話 闘技大会⑨~非常事態では、パーティを2つに分けよう。
準決勝1試合目が始まる時間だ。
ラプソディとドムの戦いだ。
ドムは賢者Aランク。かなりの強者だが、ラプソディの敵ではないだろう。
しかし勝敗は、思いがけない形で決した。
ドムの棄権という形で。
レイは首を捻る。
「ここまで来て、棄権だって? 深手でも負っていたのか?」
だが、ドムは準々決勝でも圧勝だったはずだ。
観客たちも納得がいかないらしく、ブーイングが起こっている。
ラプソディが、戦闘フィールドから控室に戻ってきた。
さっそく告げる。
「緊急会議よ」
次の瞬間には、パーティ・メンバーが集合していた。
はじめから控室にいたのは、レイとハニのみ。それにプラスして、観客席にいたリガロンとクルニア、救護室で休んでいたサラもいる。
ラプソディがワープ魔法で呼んだようだ。
「ラプソディ?」
「レイ、ドムがこのタイミングで棄権したのは、怪しいわよ」
ラプソディが何を疑っているのか、レイは理解した。
「まさか、浮遊石を奪うためか?」
闘技大会の優勝賞品である、浮遊石。
レイはさらに考える。
「今なら、浮遊石はどこかに保管されている。それを、ドムは盗み出そうというわけなのか? だが、どうしてこのタイミングだ? 準決勝までは、大会で優勝することで、正しく手に入れようとしていたわけだろ?」
これには、ハニが答える。
「ボクは、分かっちゃったよ。闘技大会が始まるまで、ドムは優勝できる自信があったのだね。Aランクの賢者だもの。ところが蓋を開けてみたら、そう簡単ではないぞ、と」
レイは納得した。確かに、その通りだ。
この闘技大会には、ラプソディという規格外の者が、出場しているのだから。
ドムが準決勝を突破する確率は、0%だ。
「それで、計画を変更したわけか」
リガロンが唸る。
「冗談じゃねぇぜ。ラプソディが優勝しても、肝心の浮遊石が盗まれた後じゃ、クエスト失敗だぜ」
クルニアが発言する。
「何を慌てる必要がある? 対処法は簡単だ。我々が先に、浮遊石とやらを盗み出せばいいだろう?」
レイは、クルニアの提案を却下した。
「ダメだ。確かにクエストの目的は、浮遊石を入手することだ。しかし、冒険者ギルドは、『闘技大会で優勝することで』とも言っている。よって法に違反しない形で、浮遊石を入手せねばならない」
浮遊石は貴重だ。入手ルートが明確でないと、盗品と一発でバレてしまう。
「だから、浮遊石を盗み出すというのは、論外だ」
ハニが腕組みして聞く。
「じゃ、どうするのさ?」
大会スタッフが控室に来て、ハニを呼んだ。
これから、準決勝2試合目が始まるのだ。
レイはそのスタッフに言った。
「ハニは棄権します」
「え。ボク、棄権するの?」
寝耳に水なハニである。
大会スタッフが去ってから、レイはうなずいた。
「日程表によると、決勝が前倒しになる可能性が記されていた。条件は、準決勝が2試合とも、流れたときだ。ハニが棄権することで、これから決勝が始まるはず」
ラプソディが、楽しそうに言う。
「あたしと、オルとの戦いね」
「ああ。おれ、クルニア、リガロンで、ドムを倒しに行く。浮遊石を奪われないように、だ。ラプソディは、オルを倒す。優勝者となることで、堂々と浮遊石を入手するんだ。サラは、ラプソディに付いてくれ。万が一、ラプソディが負傷したとき、〈エンジェル・ヒーリング〉を使えるように」
ラプソディが、傷ついたという表情で言う。
「あたしが、竜人なんかに傷つけられるはずがないわよ」
レイは、ラプソディの主張は無視した。
竜人オルに限っては、ラプソディも楽勝とはいかないはずだ。
ハニが挙手した。
「まった。ボクは、何か仕事はないの?」
「ハニなら、魔法障壁も得意だろ。ラプソディとオルが戦ったら、闘技場が吹き飛ぶ。観客も巻き添えで、全滅だ。それを避けるため、観客席を魔法障壁で守ってくれ」
試合中、戦闘している者以外の魔法使用は、禁止とされている。
が、これくらいなら許されるだろう。人命のためだ。
作戦が決まったところで、タイミング良く、大会スタッフが戻ってきた。
レイの予想通り、10分後、ラプソディvsオルの決勝戦を始めるという。
「ラプソディ。君が勝つことは、信じている。だが、油断はするなよ」
「任せて、レイ」
ラプソディ、ハニ、サラを残して、レイ、クルニア、リガロンの3人は、控室を出た。
走りながら、レイは声をかける。
「クルニア。敵は、Aランクの賢者だ。だから──」
「まて、Aランク賢者というのは、強いのか?」
「Aランクのネクロマンサー並み、とされている」
冒険者の等式は、こうなっている。
Aランク賢者=Aランクのネクロマンサー=SSSランク魔導士。
とはいえ、戦闘の流れによっては、Sランク魔導士が、SSSランク魔導士を上回ることもある。
ランク付けというのは、あくまで戦力の参考にしかならない。そこからは精神力や戦闘経験などが、差を作っていくのだ。
「ほう。Aランクのネクロマンサー級か。それは強そうだ」
クルニアは、嬉しそうだ。
ラプソディやハニと同じく、好戦的な性格らしい。というより、魔族は皆そうかもしれないが。
「とにかく、いまのうちに決めておきたい。戦闘の指揮を、誰が執るのかを」
クルニアは、魔族国では、万の軍勢を指揮できる立場だという。
ならば、ここも戦闘の指揮は譲るべきかもしれない。
しかし、クルニアは首を横に振った。
「姫殿下に厳命されている。これは、貴様のパーティだとな。レイ、貴様が指揮を執れ。仕方ないから、私は指示に従ってやる」
「わかった」
戦斧片手のリガロンが言う。
「ところでよ、オレたちはどこに向かっているんだ? レイ、浮遊石の保管場所を知っているのか?」
「知るわけがないだろ」
「なんだと?」
「だから、聞くんだよ」
レイは階段を上り、ある階で廊下に出た。その先の扉を開けると、驚いた様子の衛兵たちが、武器を向けてくる。
「何者だ!」
「ボール侯爵に会いに来た」
「ふざけるな、無礼者どもが!」
衛兵の1人が、レイに斬りかかってきた。
レイは斬撃を回避してから、両手剣の柄頭を、衛兵の頭に叩き込む。衛兵は昏倒した。
「冒険者を舐めるなよ。おれは、たかがEランクだ。だがな、お前らごときに遅れを取るはずがないだろ」
殺気立つ衛兵たちの後ろから、鋭い声がした。
「武器をしまいなさい」
そして、ボール侯爵が現れる。
レイは頭を下げた。
「無礼をお詫びします。ですが、非常事態であるため、手段を選んではいられませんでした」
ボール侯爵は、値踏みするように、レイを見た。それから言う。
「話を聞こうか?」
レイは、浮遊石が危ないことを、手短に話した。
(そろそろ、ラプソディの試合が始まるころか。ここから先は、何が起きるか分からないな)
※※※※
そのころ──。
サラは、ラプソディとハニと共に、控室から移動しようとしていた。
ラプソディは戦闘フィールドへ。ハニは魔法障壁を張るため、観客席のほうへと向かう。
サラの持ち場は、戦闘フィールド横にある、ヒーラー専用の場所だ。
「あの、レイさん達は、大丈夫でしょうか?」
サラがそう尋ねると、先を歩いていたラプソディが、振り返った。
「平気よ。レイはどんどん強くなっているし、クルニアちゃんは親衛隊の中でも、二番手の実力者だし。まぁリガロンも……足は引っ張らないでしょ」
サラは思った。
(……あれ、リガロンさんの評価だけ低いような)
「あの……ラプソディさんは? 対戦相手のオルは、強いようですが……」
ラプソディは、微笑みを浮かべた。
「あたしの身を心配しているの? それなら、サラちゃんに見せてあげないとね。魔王の娘の強さというものを」
「は、はい!」




