35話 闘技大会⑧~そして、ベスト4が出揃う。
レイが目覚めると、寝台の上だった。
寝台脇には、サラが立っていた。
「……サラ。回復魔法を使ってくれたのか」
脇腹の痛みがなくなっている。
レイは上体を起こしてから、周囲を確認した。
寝台が複数あり、負傷者が寝ている。ここは救護室のようだ。
「サラ、大会のほうは?」
「準々決勝に入っています。ラプソディさんは、すでに準決勝へと駒を進めました」
トーナメント表を、レイは思い浮かべる。
おそらく、オルの相方である魔導士イワンが、準決勝には上がってくるだろう。すなわち、ラプソディvsイワンだ。
イワンはここまで、力の全貌を見せていない。オルほどではないが、イワンも強敵だろう。
「おれも準々決勝の準備をしないとな」
そう言ったレイに対して、サラは何やら言いにくそうな顔だ。
「どうかしたか?」
「あの、すいません。レイ君は、ここまでです」
「は?」
「レイ君は、棄権しました」
レイは慌てて、寝台から降りた。
「どうして、そうなった? 誰の指示だ?」
「ラプソディさんです」
「ラプソディが?」
レイは救護室を出て、ラプソディたちのいる控室に入った。
ラプソディは、レイを見て、安堵と喜びの表情をした。
「レイ、元気になったのね。本当は傍にいたかったけど、ここはヒーラーに任せるのが一番と思ったの」
「そんなことより、おれを棄権させたって? おれがオルを倒す、と言っていたじゃないか」
「言ったわよ。夫の可能性を信じるのが、妻というものだもの。けど同時に、妻とは、夫を守るものなの。というわけで、レイ。オルには秒殺されるから、棄権しなさい」
レイは唖然とした。
「……なぜだ? おれはさっき、Bランク剣士を倒したんだぞ」
「それは、あたしも誇りに思うわ。あの場面で、新たな必殺技スキルを会得するなんて、さすがレイね。剣を持たずとも、手刀だけで斬撃を放つ技〈風殺剣〉。あたしは、レイならやれると、信じていたわ」
ハニが言葉を挟む。
「剣士ハモンドが9秒まで数えていたら、ラプソディ様が奴を殺していたけどね」
ハモンドは、レイが10秒の間に降参しなかったら、その首を刎ねる、と言ったのだ。
「ラプソディ。なら、オルと戦わせてくれてもいいんじゃないか?」
「うーん。能力を覚醒させて、ハモンドを倒した。それによって、ある意味で、レイはいまの限界を示したの。オルには敵わない、とね。よって、告げます。棄権しなさい。これは、魔王の娘としての言葉よ、レイ」
レイは、うなだれた。
だが冷静になれば、ラプソディの指摘は正しい。
(悔しいが、棄権が正しいんだろう)
「……悪いな、ラプソディ。本当は、おれ自身が決めることだった。戦闘力の差は、歴然としているんだから」
「いいのよ、レイ。妻として当然のことよ」
(……しかし、初めに『オルと戦って勝て』と煽って来たのは、ラプソディだったような)
ハニが、どうでも良さそうに言った。
「ところで、うちのヒーラーが気絶したよ」
「はぁ?」
レイが振り向くと、後ろにいたサラが倒れていた。失神しているようだ。
「……何が原因だ?」
「ラプソディ様が、『魔王の娘』と発言したことだよ。その言葉を聞いたとたん、サラの顔は青ざめて、ひっくり返った」
「あ」
リガロンとサラには、ラプソディたちが魔族であることは、伝えてある。
しかし、だ。さすがに、ラプソディが魔王の娘であることは、隠していた。それをラプソディ自身が、ウッカリ明かしてしまったのだ。
サラはショックのあまり、気を失ったらしい。
(いきなり『魔王の娘がパーティの仲間でした』と聞かされたら、無理ないか)
「おれは、サラを救護室まで運んで来る」
サラを運んでから戻ると、ハニの姿が消えていた。
「もうハニの出番なのか?」
「ここまで数が減ると、サクサク進むからいいわ」
控室の窓から、コロシアムの戦闘フィールドを見る。
そこには、ハニが立っていた。ハニだけが。
ハニの対戦相手は、すでにフィールドの上で伸びている。
「ハニの圧勝か……そういえば、オルはもう2回戦を戦ったわけだよな」
「ええ」
「また、〈光の柱〉を発射したのか?」
〈光の柱〉は、魔改造されたキャノン・ランスから発射される。必殺技スキルに当てはまる。ただイメージとしては、殲滅系魔法のほうが近い。
とにかく、観客を大量に殺しかねない攻撃なのだ。
ラプソディは、首を横に振った。
「いいえ。1回戦で〈光の柱〉を出したのは、いわば挨拶だったみたいね。2回戦では、キャノン・ランスは、槍としてのみ使っていたわ。それでも圧勝だったけれどね」
「そうか……まてよ。準々決勝では、オルは不戦勝だ。おれが棄権したわけだからな。つまり、これでベスト4が出そろったわけか。準決勝の組み合わせは、ラプソディvsイワン、ハニvsオル、だ」
「あ、そうだったわね。レイは気絶していたから、知らないのね」
「なんの話だ?」
「イワンよ。彼、死んだわ」
「まさか」
「準々決勝で、対戦相手に殺されたのよ」
イワンは、Sランクの魔導士のはずだ。
そんなイワンが、敗北し、殺されたという。
「それほどの実力者が、この大会には、まだ出場していたのか」
ラプソディは、準々決勝2試合目の話をした。
イワンの対戦相手は、ドムという男。
1回戦、2回戦を勝ち進んで来たので、それなりの実力者ではある。
しかし、2度の戦いとも、ギリギリで勝ったという印象だった。レイの印象では、Sランクの魔導士に勝てるレベルには見えなかった。
「イワンも、レイと同じ判断だったようね。ドムは、たいしたことがない、と。それが過ちだったの」
「だが、イワンならスキャン魔法があるだろ。ドムのステータスを見て、正確な強さを測れたはずだ」
すると、ラプソディは楽しそうに笑った。
「そこなのよ。ステータスは、時にウソをつくのよね。滅多にあることではないけれど。つまり、ステータス表示の偽装よ」
「ステータスを偽装する、だって?」
「準々決勝が始まるまで、ドムのステータスは、Cランクの格闘家だったわ。攻撃力も、防御力も並みだった。MPも持っていなかったし。それがね、いきなり変わったのよ。イワンと戦い出したとたんに。おそらく、真の力を発揮するときだけは、ステータスの偽装が解除されるのでしょうね」
「真の実力とは?」
「職業でいえば、Aランクの賢者」
「賢者だって? 希少な職業だな。魔導士の素質と、森羅万象の知識がなければ、賢者職には就けないはずだ」
「そうね。ドムという賢者は、イワンの隙を突いた。〈インビジブル〉を使い、〈フォーム〉で生成した剣で、斬りつけたのよ」
「〈インビジブル〉──そうか、透明化の魔法か!」
予選のバッジ探しのときだ。レイの目の前で、出場者が斬られた。
しかし、斬った犯人は見えなかった。透明だったからだ。
「あれが、ドムの仕業だったのか」
斬り付けた以上は、犯人は剣を装備しているものとばかり、思った。一方ドムは、1回戦・2回戦では、剣を使わなかった。
しかし、〈フォーム〉で剣を生成できるのなら、話は別だ。
「だが、気になるな。このドム。さらに竜人のオル。これほどの実力者たちが、この闘技大会に出場している。優勝賞品の浮遊石が、よほど欲しいらしい」
浮遊石とは、レイが考えていたよりも、重要な代物のようだ。
ラプソディが興味深そうに言う。
「彼らが個人的に欲しいのかは、気になるところよね」
「ドムも、オルも、どこかの組織から派遣されている、ということか? おれたちが、冒険者ギルドから派遣されたように?」
それにしても、とレイは思う。
SSSランク戦士のオルに、Aランク賢者のドム。彼らを倒さねば、クエストは完遂できない。
(これは、もうSSSランクのクエストだぞ)




