30話 闘技大会③~怒りの〈茨道改〉。
予選を突破するためには、城郭都市ベルグ内に隠されたバッジを、探し出さねばならない。
しかし、バッジの総数は32個。
予選参加者は、80人はいた。
つまり、早い者勝ちだ。
(急がねば。しかし、バッジの手がかりが、ないからなぁ)
レイは、コロシアム前を離れ、路地を移動していた。
先ほど目の前で、出場者の格闘家が殺された。が、今のところ、レイ自身は身の危険は感じていない。狙われるだろうバッジを、見つけていないのだから。
つまり、このままでは予選落ちだ。
今回の冒険者クエストは、闘技大会に優勝し、賞品である浮遊石を入手すること。ラプソディとハニに託してもいいのだ。
が、パーティ・リーダーとしては、予選くらいは突破したい。
(ラプソディとも約束したしな)
ふと目の前を、一人の魔導士が走って行った。魔導士と分かったのは、魔杖を装備しているからだ。
前日に遭遇した、魔導士イワンではない。
こちらの魔導士は、かなり若い。赤毛で、そばかすの男。新米だろう。
「他の出場者からバッジを奪い取るのだけは、やりたくない。だが、あの魔導士に付いて行ってみよう。同じ場所に、2個のバッジが隠されているかもしれない」
赤毛の魔導士を追いかけるレイ。
やがて赤毛は、酒場に入って行った。レイも追いかけて、酒場の入り口をくぐる。
赤毛が、ビール樽の裏から、バッジを見つけ出したところだ。
(やはり、探索魔法を使ったのか)
赤毛の魔導士が、レイに気づいた。
レイが武装していることから、出場者と判断したようだ。魔杖を突きつけて来る。
レイは両手を挙げ、敵意がないことをアピール。
「落ち着け。あんたのバッジを奪い取るつもりはない。ただ、そこにバッジが2個あるかもしれないだろ。無いかな?」
赤毛は疑わしそうだ。
「ありませんよ。同じところに、2個も隠すわけがないじゃないですか」
「まぁ、確かに」
レイは壁際まで移動した。バッジは必要だが、やはり奪い取るものではない。
「行ってくれ。おれは追いかけないから」
赤毛はレイを睨みながら、じりじりと移動。最後は駆けて、酒場の外へと出て行った。
「奪わないと言ったのに、あの慌てようとはな。信用がない顔なのか、おれは?」
レイがぼやきながら、歩いて酒場から出る。
悲鳴が聞こえた。いまの赤毛のようだ。
レイは、悲鳴の発生源へと駆けて行く。そこはコロシアムへと続く路地だ。
都市内の路地に、市民の姿はない。予選開始の前に、避難するよう市民に指示があったようだ。
闘技大会のために、避難命令まで出すとは。
目指した路地に入ったところで、レイは両手剣を鞘から抜いた。
赤毛の魔導士が倒れている。すでに息はない。胸部が砕かれているのだ。
先ほど格闘家の背中を斬りつけたのとは、また別の犯人のようだ。
というより、格闘家を斬った犯人は、姿が見えなかった。
今回の、赤毛を殺した犯人は、目の前にいる。
巨漢の出場者だ。2メートルは身長があり、筋骨隆々。戦闘槌を装備している。これで赤毛の息の根を止めたようだ。
戦闘槌といえば、クルニアも武器に使っている。
だが、この巨漢の戦闘槌は、クルニアが所持しているものより、一回り小さい。
クルニアは、魔族の中でもパワーがある。そのため、やたらとデカイ戦闘槌を、軽々と振り回せるわけだ。
ただ、巨漢の戦闘槌がそんなに大きくないからといっても、脅威であることに変わりはない。赤毛の死体を見れば、明らかだ。
巨漢は、死体の手からバッジを取り上げた。
レイは、言葉を発する。
「おい、あんた。何も殺すことはなかったんじゃないか? 戦闘力の差は歴然としていただろ? 脅かすだけで、赤毛の魔導士はバッジを手放したはずだ」
巨漢は、興味のなさそうにレイを見やる。
「バカか。殺したほうが、簡単だろうが」
「そうか。そんな理由で人を殺すなら──お前が殺されても、文句はないよな!」
レイは、巨漢に向かって駆けだす。
巨漢が怒鳴る。
「てめぇ、やる気か? ぶっ殺してくれる!」
巨漢が戦闘槌を振り下ろして来た。
レイは、この一撃を、ギリギリで回避。
度重なるクエストのおかげで、敏捷性も少しはUPしたのだ。
回避の流れから、レイは両手剣を一閃。
「くらえ!」
必殺技スキル〈茨道改〉を発動したのだ。
巨漢を真っ二つにし、レイは駆け抜けた。
〈茨道改〉は、覚えたての新たな必殺技スキルだ。
〈茨道〉よりも、威力はUP。しかも〈茨道改〉は、発動後もすぐに動くことができる。〈茨道〉のように、発動後、硬直することがないからだ。
レイは、巨漢の死体からバッジを取り上げた。
赤毛の死体を見て、溜息をつく。
「まだ若かったのに。気の毒に」
レイは、コロシアムの戦闘フィールドへと戻った。
すでにラプソディとハニがいる。
ラプソディは、安堵した様子で、レイに抱きついた。
「さすがレイね! 見事、バッジを見つけて来たのね!」
「……そっちは、もうとっくにバッジを見つけているじゃないか」
レイは、予選スタッフのところまで進み、バッジを渡した。
それから名乗り、証明するため身分証を呈示した。これで出場登録者と照らし合わされ、決勝トーナメント進出の情報が追加される。
レイは、ラプソディとハニのもとに戻った。
「ひとまず、予選は無事に突破だな」
ハニが、戦闘フィールドの端のほうを、指さす。
「ラプソディ様。連中も、突破したようです」
ハニが指さした先には、前日遭遇した、2人組がいた。
魔導士、イワン。竜人の女、オル。
オルは、SSSランク戦士のレベルという話だ。
(トーナメントでは、あの2人と当たっても、勝てそうにないな)
冒険者として、的確に戦闘力を見極めるべきなのだ。そうでなければ、つまらないところで命を落とす。
(それでも、戦って腕を試したい、という気持ちはあるが)
ふと思い出して、レイは、予選開始直後の事件を話した。
出場者の格闘家が殺された。犯人の姿はなかったのに、いきなり背中を斬られたのだ。
話を聞いてから、ハニが指摘する。
「それは、透明になる魔法かもしれないね。どう思われますか、ラプソディ様?」
ラプソディはうなずく。
「透明化の魔法〈インビジブル〉ね。あたしは使わないわね。というより〈インビジブル〉って、〈ワープ〉を覚えている状態だと、使えないのよ。パパは使えたはずだけど」
レイはげんなりした。
「見えない斬殺者までいるのか。この大会、いよいよ厄介なことになってきたな」




