29話 闘技大会②~せめて予選くらいは突破したい。
闘技大会の当日。
レイは、両手剣を身に付けた。刃は昨夜のうちに、研いである。
出場しないリガロンは、観客席から見守ることになる。
ところが、肝心のチケットが手に入らなかったらしい。
「大会前日じゃ、とっくに売り切れているんだとよ」
「なら、どうするんだ?」
「しょうがねぇから、ダフ屋から買うつもりだ。んじゃ、レイ、頑張れよ」
宿の1階にある食堂で、朝食をとりながらの会話だ。レイとリガロンだけでなく、ラプソディ、ハニ、サラもいる。
ラプソディが口を尖らせる。
「リガロン。あたしとハニちゃんに、エールを忘れているわよ?」
「お宅らは、余裕だろうが」
それだけ言うと、リガロンはそそくさと出発した。早めに行って、ダフ屋と値段交渉するためだろう。
珈琲を啜ってから、ハニがレイに尋ねる。
「闘技大会というけど、どういう仕組みでやるの?」
「まず、予選があるようだ。予選を勝ち抜いたら、決勝トーナメントだ。シード権とかはない。だから、前回の優勝者も、おれたちと同じ条件でスタートする」
前回の優勝者の実力は、いまのところ未知数だ。
レイは、トーストを齧りながら思う。
(1回戦から、ラプソディやハニと当たらないことを願おう)
優勝するのは、ラプソディだろう。
とはいえ、レイも戦士として、できるだけ勝ち進みたかった。
サラが挙手して聞く。
「あ、あの。わたしは、どうすれば良いのでしょうか?」
「各出場者は、1人までならヒーラーを付けることが許されている。ただ、戦闘中は、ヒーラーから回復魔法をかけてもらうことはできない。一対一の真剣勝負だからな。しかし、戦いが終わった後でなら、回復魔法で傷を治癒してもらって良いわけだ」
たとえば、1回戦を勝ったはいいが、深手を負った。それでもヒーラーが付いていれば、2回戦が始まる前に、全回復することができる。
ラプソディが、寛大に言う。
「そういうことなら、サラちゃんがレイに付くことを許すわ。だけど、サラちゃん。レイを誘惑しては、タダでは済まさないわよ」
ラプソディに脅されて、サラが恐怖のあまり、顔を蒼白にした。
「そ、そんな、誘惑なんて」
「ラプソディ。相手を見て、言え。サラが、そんなことをするはずがないだろ」
「念のためよ」
朝食を終え、席を立ったころだ。
長身の美女が、急ぎ足でやって来た。クルニアである。
「姫殿下。遅れてしまい、申し訳ありません。これより、さっそく出場手続きをして参ります」
「あ、クルニアちゃん。手続きの期限は、昨日までだったのよ。だから、もう出場はできないわ。けど大丈夫。かわりにレイが出るから」
クルニアは、レイにうなずきかけた。
「1回戦で敗退か」
「決めつけるな」
ハニが付け足す。
「1回戦の前に、予選があるよ」
「予選で敗退か」
「おい」
※※※※
闘技大会が開催される、コロシアム。
中央には、戦闘フィールドがある。
観客席は、この戦闘フィールドを、ぐるりと囲むようにある。収容人数は3万人で、満席だ。
開会式が行われ、主催者のボール侯爵の挨拶があった。
このときレイたち出場者は、戦闘フィールドで整列していた。
戦闘フィールドは、真四角で、大理石で造られている。縦横20メートル。
トーナメント戦で、この戦闘フィールドが使われる。
一対一の戦い。勝利条件は、対戦相手を戦闘不能にするか、戦闘フィールドから落とすか。
故意に殺すことは許されていない。逆に言えば、攻撃しすぎて、意図せず死なせてしまった、は有りということらしい。
自治都市では、大まかな法律は、都市内で完結している。よって、ボール侯爵が決定すれば、殺人も無罪となる。
「よくよく考えると、野蛮な話だ。殺し合いを見世物にするのだから」
レイがそう言うと、傍にいたラプソディが言う。
「そうなの? うちの国では、週一でやっているわよ」
「……そうか」
開会式が終わった。
この場にいる出場者は、80人くらい。決勝トーナメントに進めるのは、32人だ。
予選で、80人から32人までふるい落とされる。
(……冒険者だし、予選突破は簡単にできると思っていたが──足元をすくわれないようにしよう)
ボール侯爵は去り、出場者だけが戦闘フィールドに残った。
ハニが欠伸する。
「早く予選が始まらないかなぁ」
「緊張感がないな」
「余裕だし」
大会スタッフが現れ、予選の内容を話した。
「諸君、聞きたまえ。城郭都市ベルグ内の各地に、32個のバッジを隠した。このバッジを1個、持って来た者を、予選突破者とする。バッジ捜索中、戦闘はなるべく避けるように」
レイは唖然とした。
『なるべく避けるように』ということは、必ずしも禁止しているわけではない。
一般市民もいるというのに、正気だろうか。
スタッフの合図で、出場者は散会した。
ラプソディが、レイの耳元で言う。
「レイの分のバッジは、あたしが見つけてあげるわね」
「いや、ラプソディ。これくらい自力で探し出す。腕試しも目的にあるからな。ひとまず別れよう。また、このコロシアムで再会だ。お互い、バッジを持ってな」
「自分の力で挑戦したいのね。その心意気、惚れ直したわ、レイ」
「そう?」
ラプソディとハニと別れ、レイは単身、コロシアムの外へと出た。
(しかし、バッジを探すといっても、どうすればいいんだ? この予選、探索魔法などを使える魔導士のほうが、有利ではないか? いや、それとも、その有利さを利用しろ、ということなのか?)
魔導士を尾行し、バッジを先に奪い取る。
このような荒業を、戦士職などは求められているのかもしれない。
レイが迷っていると、格闘家と思われる男が、コロシアムへと駆け戻ってきた。さっそくバッジを入手したらしい。
「早いな」
レイが声をかける。格闘家は、警戒の眼差しだ。
(おれが横取りするとでも思ったのか? まぁ、中にはそういう輩もいるだろうが)
刹那、格闘家が倒れる。
背中から、激しい出血が起きている。
レイはとっさに駆け寄り、止血するため、両手で傷口を抑え込んだ。
「くそ。何が起きた? これは剣傷だぞ。何者かに斬られている」
しかし、誰が、格闘家の背中を斬ったのか?
レイの目には、何も映らなかったが。
救急スタッフのヒーラーが、駆けつけてきた。レイは、格闘家の治療を託す。
「そうだ。ヒーラーさん、彼はバッジを持っているはずだ」
レイの指摘を受け、ヒーラーは格闘家の衣服などを探った。
しかし、バッジは見つからなかった。
レイは首を傾げた。格闘家は、バッジを見つけたからこそ、コロシアムに戻って来たのではなかったのか?
それとも、見つけたのだろうか。
格闘家の背中を斬った者が、バッジも盗んだということなのか。
ヒーラーの治療も虚しく、格闘家は息絶えた。
(この大会、一筋縄ではいかなそうだ)




