18話 Q,貴族の野郎が、新妻をイヤらしい目で見たら、どうしますか? A,ぶん殴ります。
『迷子のグリフィン探し』というFランクのクエスト。
内容が内容だけに、レイとラプソディのデュオで受けた。
グリフィンが迷子になったのは、王都内という話だ。まずは、グリフィンの飼い主に会うため、レイとラプソディは、上流階級の区域へ向かった。
レイは、嫌な予感がした。
お高くとまった貴族と、ラプソディである。事件が起こりそうな組み合わせではないか。
とにもかくにも、飼い主──つまり、クエスト依頼者の邸宅を訪ねた。
王都内にある、アトバ男爵家の別邸だ。
リウ国の北の地には、小さいながらも、領地も持っているとか。
アトバ男爵家の当主は、26歳のロバク。父親が病死したため、20代で家督を継いだのだ。
ロバクが飼っていたオスのグリフィンが、逃げ出したのだという。
このロバク、貴族を絵に描いたような男で、平民は手足となって働いて当然、という調子。
レイは名乗り、ラプソディを紹介した。
ロバクは、傲慢な口調で言う。
「日が暮れる前に、見つけてもらわなくちゃ困るぞ」
「努力します」
ロバクは、好色そうな目で、ラプソディを見やる。
舐めるような視線が、ラプソディの肢体を這った。
「それから、お前」
ラプソディは、首を傾げた。
「あたし?」
「そうだ。クエストを終えたら、俺のところに来るが良い」
レイは、ウンザリした。この間抜け、ラプソディを手込めにする気らしい。
同時に、腹が立った。しかし、ここは気持ちを静める。
「……閣下。申しわけございませんが、彼女は、おれの妻です」
ロバクが睨んで来る。
「妻だと? だから、何だと言うのだ?」
レイは唖然とした。
この男は、平民のことを同じ人間とは思っていないようだ。
貴族が皆、この男のようではないだろうが。にしても、だから貴族は嫌いなのだ。
「分かった、カネを払ってやる。それなら、満足だろう? いくらだ? 上玉だからな、けっこうな額を払ってやるぞ」
そう言ったロバクは、満足そうな顔だ。すでに交渉が成立した、と信じ込んでいる顔である。
平民はカネに困っている。よってカネを渡せば、妻も差し出すはずだ。このロバクの思考回路は、そういうものらしい。
レイは、自制心をフル稼働した。
「……閣下……彼女を、娼婦と一緒にしないでもらえますか」
しかし、ロバクはレイの言葉を無視した。というより、もう耳に入っていないようだ。交渉は成立し、今夜はラプソディを抱ける、と思い込んでいる。
イヤらしい目で、ラプソディの肢体を見る。その視線が、ラプソディの胸で止まった。
「どれ、少し味見を」
ロバクが、ラプソディの胸へと片手を伸ばした。
我慢の限界だ。
レイは右拳を、ロバクの顔面に減り込ませた。鼻がへし折れる音がした。
「おれの嫁に、汚い手で触ろうとするな! このクズが!」
殴られたロバクは、尻餅を付いた。鼻からは血が噴き出し、信じられないという顔をしている。
レイは深呼吸した。
後悔はしていない。ラプソディを、まるで所有物のように扱おうとした。許しがたい奴だ。殺されなかっただけ、ロバクはツイているのだ。
ラプソディが、レイに抱き着いた。
「カッコ良かったわよ、レイ! これが守られる女子の気持ちなのね! 胸がキュンとしちゃった!」
(……さては、ラプソディ、わざと抵抗を示さなかったな)
ロバクが立ち上がる。いまや怒りで、顔がどす黒くなっている。
ロバクにしてみれば、虫けらのように思っていた平民に、殴られたのだ。信じがたいほどの怒りだろう。
口角泡を飛ばしながら、
「き、貴様、許さん! 許さんぞ! 必ずや、後悔させ、ぶげっ!」
ラプソディが、デコピンする。
それだけでロバクは吹き飛び、邸宅の外壁にぶつかった。ピクリとも動かなくなった。
「ラプソディ。さすがに、貴族殺しはヤバいぞ」
「あんなクズ、殺してもOKでしょう? けど、心配しないで。殺してはいないわよ」
「……なら、いいか」
「それで、どうするの、レイ?」
レイは肩を揺すった。
「帰るか」
帰り道で、ラプソディがレイの手に、指を絡めてきた。
レイは、その手を握り返した。
2人で、散歩のペースで歩いていると、ふいにラプソディが上空を指さす。
「あら、珍しい。グリフィンよ」
指さす方向、晴天の中を、一匹の魔獣が飛んでいる。
鷹の翼と上半身、獅子の下半身を持つ、魔獣が。
グリフィンだ。
グリフィンは、成体だと熊ほどに大きいという。しかし、飛んでいるのは、まだ小型犬ほどの大きさだ。どうやら、幼体のようだ。
「なるほど。あれが、ロバクが逃がしたグリフィンだろうな」
ラプソディが、「おいで」と手招きする。
すると、グリフィンは急降下してきて、ラプソディの腕の中に飛び込んだ。
「なかなか、可愛いわね」
「どうするんだ? クエスト完了のため、ロバクに渡すのか?」
「まさか! この子、きっとロバクが嫌で逃げ出したのよ。アイツのことだから、動物虐待していても、おかしくはないわ」
レイは、ロバクの腐った性格を思い返す。ラプソディの推測は、正しそうだ。
「レイ。この子、うちで飼いましょう」
「……いや、それはさすがに」
「ダメなの?」
ラプソディが、潤んだ瞳を向けてくる。
レイは思った。この瞳は、反則だろう、と。
「分かった。だが、このグリフィンの名前も知らないだろ」
「名前なんて、新たに名付ければいいわよ」
ラプソディは、抱いているグリフィンに対し、言った。
「あんたの名前は、グリよ。今日から、あたしとレイが、飼い主よ。忠誠を誓いなさい」
グリフィンが嬉しそうに鳴く。
(そういえば、ラプソディは、魔獣使いの職も、SSSランクだったか)
こうして、レイとラプソディは、初めてクエストに失敗した。
それでも、得たもののほうが大きい。魔獣としても希少なグリフィンを得た。
何より、レイとラプソディの絆は、より強まったのだ。




