17話 遠い異国の地で、〈ヴァンパイア・ロード〉の娘が、ブチ切れた。
吸血鬼リークは、レイの〈茨道〉によって、真っ二つにされた。
絶命したことによって、〈リザレクション〉スキルも発動しない。
さらに、魔法を発動した者が死んだことで、〈ブラック・ホール〉も解除された。
ハニがホッとした様子で、歩いて来る。
〈茨道〉後の硬直が解け、レイは改めて、吸血鬼の死体を見下ろした。
「強敵だったが、なんとか倒せたな」
ハニが、レイを指さす。
「うーむ。良いところを持っていったね。吸血鬼にトドメを差したFランクは、キミが初めてかもよ」
「みんなが、繋いでくれたおかげだ。ハニ。〈ライトニング・ブラスト〉を大地に叩き込め、という指示、伝わって良かった」
「人間ごときの考え、ボクは読めるのさ」
「そうか。それとリガロン。〈爆裂斬〉だったか。必殺技スキルなんて、いつのまに取得していたんだ?」
「お前たちと会う前からだ」
「その必殺技スキル、おれも使えるか?」
「今度、教えてやるよ」
レイは剣を鞘に納めた。
「よし、ラプソディの加勢に行こう。まぁ、必要はないだろうが」
アドコンナ村まで戻る。広場のほうから声がするので、レイたちは行ってみた。
すると、ペルという吸血鬼が号泣しているではないか。
ペルの顔はグチャグチャだ。ラプソディに何発も殴られたか、打撃系の魔法を叩き込まれたようだ。
とにかく、憐れな状態である。
ラプソディは、レイたちの帰還を見届け、うなずいた。
「この吸血鬼は、人質にできるかと生かしておいたのよね。けど、そっちが片付いたなら、もう用済みね」
ペルが泣き叫んだ。
「ご、殺ざないでくだざぁい! もう、人間を襲いまぜん! だから、殺ざ」
ラプソディは、ペルの頭部を胴体から引き抜いた。
「吸血鬼も、あたしを楽しませるには、至らなかったわ」
「……よし、いまから村人の避難先へ行くぞ。村が安全であることを、早く知らせてやろう」
避難所となっていた、古い教会へと向かった。
吸血鬼の討伐を完了した。この知らせを聞いた村人たちは、涙を流しながら、レイたちに感謝した。
レイはラプソディに言う。
「人助けも、悪くないだろ?」
ラプソディは肩をすくめた。
「まあね」
※※※
リウ国から鉤爪山脈を越えると、魔族の国に入る。
この魔族国を横断した先に、小さな国がある。
吸血鬼の王〈ヴァンパイア・ロード〉が統べる国だ。
リーク達はこの国から、人間の血を求め、遥々とリウ国まで遠征したのだった。
いま〈ヴァンパイア・ロード〉は不在であり、国を治めているのは、王の一人娘であるルティだ。
人間であるならば、見た目は、10歳ほどの少女。しかし、吸血鬼は魔族などよりも長く生きる。よってルティの実年齢は、もっと高かった。
そのとき、ルティは玉座に腰かけていた。
上質な血をワイングラスで味わっていたのだが、ふいに動きを止める。
王の間へと、一匹の蝙蝠が飛んで来たのだ。
この蝙蝠は、吸血鬼が化けたものではなく、本物だ。
そして、ルティの使い魔でもある。気配を消すことに限っては、突出した蝙蝠だ。
その蝙蝠が、ルティの肩にとまり、囁く。
ルティは、グラスを握りつぶした。
傍に控えていた家臣が、心配したように言う。
「姫殿下、どうされましたか?」
「わらわの許嫁が、殺されたようじゃ」
「ペル様が、ですか?」
「……ペル坊。腰抜けの抜け策ではあった。しかし、わらわの夫となる吸血鬼だったのじゃ。すなわち、ペルはわらわの所有物だった。だというのに、よくも、よくも……」
ルティは深呼吸して、怒りを静めた。ここで怒りを爆発させてはいけない。
この城が、跡形もなく吹き飛んでしまうからだ。
「何者が、殺したというのじゃ?」
ルティの問いかけに、使い魔の蝙蝠が答える。
この蝙蝠は、一部始終を目撃していたのだ。
犯人の名を聞いたルティは、壮絶な笑みを浮かべる。
「ラプソディ……あのアバズレか」
ルティは立ち上がった。
家臣が不安そうに尋ねる。
「姫殿下、どうなさるおつもりで?」
「決まっておろう──リウ国へ行くのじゃ」
※※※
吸血鬼を討伐したレイたちは、王都ルクセンに帰還した。
レイとラプソディが代表として、冒険者ギルド本部に、クエスト完了を報告しに行く。
すると見知った顔がいた。
「ルーシー!」
愛らしさの中にも、芯の強さのある少女が、顔を輝かせる。
「レイ! 無事だったと聞いていたけど、会えて嬉しいよ!」
「おれもだ。元気そうだね。魔王城では──気の毒だった」
ルーシーは顔を曇らせた。
「うん。多くの仲間を失っちゃった」
「ああ……」
レイは、魔王城でパーティから追放された。
このパーティに参加していたのが、魔導神官のルーシー。唯一、レイの身を案じてくれた少女だ。
魔導神官とは、魔導士と似た職業だ。
ただ魔導神官は、神殿の教義を学んでいるところに、違いがある。
魔導神官という職業を持つ冒険者は、稀少。そのため、ルーシーは様々なパーティから引っ張りだこだ。
ルーシーが固定パーティに属していないことも、原因の一つだろう。
レイはふと思った。
ルーシーを、パーティの仲間に加えたらどうか、と。
しかし、レイが誘う前に、ラプソディが肩をつかんできた。
振り返ると、ラプソディの鋭い眼差し。
「ダメ」
「……何も言ってないんだが」
「ダメよ。レイに、悪い虫が付くわ」
「……」
悪い虫とは、ルーシーのことらしい。
ラプソディは何を勘違いしたか、嫉妬しているようだ。
「あのな、ラプソディ。おれはルーシーのことを、別に何とも」
「ダメ」
「しかし、魔導神官という職業は、なかなか希少で」
「ダメなものは、ダメよ」
レイは諦めた。新妻には、逆らえない。
「……わかったよ」
レイは、ルーシーとしばらく談笑してから、別れた。
同じ冒険者だ。いつかまた、会えるだろう。
それから、受付係のローラに、アドコンナ村での顛末を話す。
すでに3体の吸血鬼の死体は、冒険者ギルドに送り済みだった。
「1体どころか、3体もの吸血鬼を討伐するなんて。レイ君は、私の見込んだ通りの冒険者でした」
「いや、ほとんど、ラプソディとハニのおかげだ。ま、リガロンもな」
ラプソディがすかさず言う。
「吸血鬼の1体は、レイが仕留めたのよ」
「それは事実だが、ハニとリガロンがお膳立てしてくれたからだ」
レイは、クエスト成功の報酬を受け取った。さらにアドコンナ村での功績が認められ、パーティ・ランクが、BからAへと上がった。
ラプソディは嬉しそうだ。
「これで、黒龍退治のクエストを受けられるわね」
「ごめんなさい、ラプソディさん。あれはSSSランクのクエストでして」
さらに、現在、Aランク・パーティに適したクエストは無いとのこと。
ラプソディは、不機嫌になった。
それでも、クエストは欲しいらしい。
「何でもいいわ。退屈するより、マシだから」
「でしたら──迷子のグリフィン探し、はどうでしょうか? Fランクのクエストですが」




