19話 古代神殿と、〈守護獣〉。
「古代神殿ルマを、ご存知ですか?」
レイの担当であるローラが、そう尋ねてきた。
グリフィンのグリを飼うようになってから、20日後のことだ。
レイは、しばらくの間、冒険者ギルド本部に顔を出さないようにしていた。ロバクを殴った件の、ほとぼりが冷めるまでだ。
この間、ラプソディが退屈することはなかった。
グリの面倒を見るのに、忙しかったのだ。
厳密には、グリの面倒を見たのは、レイ。
食事を用意し、排泄物を処理した。そして魔獣医のもとに連れて行き、ワクチン魔法も受けさせた。
ラプソディがしたのは、訓練だ。グリに狩りの仕方を教えた。
赤子のころから、グリは飼われていたため、狩りなどしたことがなかったのだ。
よって、ラプソディが一から教えることになった。もちろん、パーティに参加させる狙いもあるだろう。
レイの家で飼っている分ならともかく、クエスト中ともなれば、最低でもエサくらいは自力で獲ってもらわないと困る。
そんなわけで、ラプソディも暇をせずに済んだ。
だが、さすがに飽きて来たらしい。昨夜、クエストを受けに行きましょう、とレイに言ったのだ。
レイは了解した。
(さすがに、ほとぼりも冷めただろう)
というわけで、今日。ハニとリガロンも呼び、冒険者ギルド本部を訪れたのだ。何かクエストはないか、とローラに尋ねた。
それに対して、ローラはルマ神殿の話を出したわけだ。
「古代神殿ルマというと、リウ国の最南端にあるアレか」
ちなみに、魔族国との境にある鉤爪山脈は、リウ国の最北端にある。よってルマ神殿は、正反対のところにあるわけだ。
「古代種族の神殿だろ」
古代種族は、リウ国と重なるように生活圏があった。大昔から土地が肥沃だったのだろう。
すでに絶滅している古代種族だが、各地に神殿を残していった。
この神殿を探索すると、特別なアイテムが見つかることがある。
現代魔法では再現不可能な代物だ。
〈オーパーツ〉と呼称される。
〈オーパーツ〉を得られれば、絶大なる力となるだろう。
だが、〈オーパーツ〉は、そう簡単には手に入らない。
各地の古代神殿には、〈守護獣〉がいるからだ。
〈守護獣〉。
ようは、モンスターの類なのだが、太古から生きている。
『モンスターの王』とされる黒龍でも、寿命は千年。
一方、〈守護獣〉は何万年も生きているとされる。古代種族が絶滅したのが、それほど昔だからだ。
〈守護獣〉の存在自体が、〈オーパーツ〉ともいえるのかもしれない。
「まさか、古代神殿ルマの探索クエストか?」
「いえ、いえ。そんなはずはありませんよ」
「まぁ、だろうね」
「なぜ、探索クエストではないのよ」
さっそくラプソディは不満そうだ。
レイが説明した。
「古代神殿の探索クエストのパーティは、冒険者ギルドでも最強メンバーが組まれるからだ」
ラプソディは、嫌な予感がする、という顔。
「……まさか、魔王城攻略パーティよりも?」
「あー……そうだな。〈オーパーツ〉を入手するのは、それほど重要ということだ」
ラプソディは屈辱的な表情だ。魔王城の攻略クエストにこそ、最強パーティを送るべきだ、というのだろう。
レイはローラに視線を戻した。
「探索クエストでないのなら、どうして古代神殿の話が出て来た?」
「はい。実は、3か月後、古代神殿ルマの探索クエストが予定されています」
クエスト対象が古代神殿ともなると、準備に何か月もかかる。
「しかし、ルマの〈守護獣〉は、いまだ討伐できていないはずだろ?」
6年前。当時の冒険者ギルド最強メンバーが、古代神殿ルマの探索クエストに出発した。
探索クエストといっても、本格的な探索は、政府から調査団が派遣される。
ようは、〈守護獣〉の討伐クエストだ。
ただ、なぜか討伐クエストではなく、探索クエストと呼称される。古代種族に敬意を表しているから、らしい。
とにかく、最強メンバーは討伐に向かった。
そして、全滅した。
古代神殿は複数ある。まだ発見されていない古代神殿もあるだろう。いずれにせよ、古代神殿の〈守護獣〉の討伐に成功するのは、稀だ。
それほどに〈守護獣〉は、強い。
(魔王よりも、強いかもしれない──などと言ったら、ラプソディが怒るだろう。だから、黙っておこう)
しかし、冒険者ギルドの見解は、まさしくそうなのだ。
古代神殿の〈守護獣〉は、魔王よりも強敵、というのだ。
「ローラ。悪いが、まだ話が見えてこない。3か月後に古代神殿ルマの探索クエストがある。それは構わないが、おれたちには関係のない話だろ?」
ラプソディの正体が知られたら、探索パーティからスカウトが来るかもしれない。
一方で、討伐対象にされる可能性も高い。
だから、ラプソディの正体は、絶対に知られてはいけないのだ。
(ラプソディの身が心配もある、が。ラプソディに撃破される冒険者たちの数が心配、というのもある。最悪、冒険者ギルドがなくなるぞ)
ローラが、こほんと咳払い。
「これから、説明しますから」
「頼む」
「古代神殿ルマの周囲で、ゴブリンの群れが目撃されました。数日前から、野営しているようです。3か月の間に、群れは移動するかもしれません。しかし、移動しないかもしれません」
「つまり、探索パーティのために露払いをしておけ、ということか」
「はい。お願いしたいのは、ゴブリンたちを立ち退かせることです。ゴブリンたちを差別するつもりはありませんが、好戦的な種族ですからね。古代神殿ルマに向かった、探索パーティの前に立ち塞がられると、困ります」
「なるほど」
〈守護獣〉を討伐しようというパーティだ。ゴブリンなど何百体いようとも蹴散らすだろう。
ただ、それでも体力は使う。なによりMPが消費されてしまう。一度消費したMPは、回復するまでに時間がかかる。
よって、討伐パーティを完全な状態で古代神殿ルマに送り込むため、いまのうちに懸念材料を排除しておこう、と。
「了解した。で、ゴブリンの数は?」
「正確には分かりませんが、200体前後です」
「大所帯だな」
「はい。ですから戦闘は回避し、話し合いで、立ち退いてもらってください」
ゴブリンは好戦的な種族だが、片っ端から狂暴というわけではない。人間の村落を襲うのは、ほんの一部だ。
基本的に、ゴブリンは狩猟民族なのだから。
ラプソディが発言する。
「問答無用で、皆殺しにしてもいいのよ」
レイは答えた。
「ひとまず、却下」




