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ロストソング  作者: 雪那 由多
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ウェルウィッチアの魔女

 エクルとミストは二人とも両手にジュースと温かい飲み物も持ってやって来た。

 あえてヒューイはどこに置いてきたとは聞かないし知りたくもない。

 何やらダイニングの方で野太く裏返った悲鳴が聞こえるが気にしなければ先輩方は何やら顔を青ざめていた。

 うん。

 気にしたら食事も進まないよと鳥肉のローストをたっぷりたれをかけて食べる。

 ソースが絶妙だなと唸りながらパンにも塗って食べてしまう。


「そういやミスト達は授業終わってから何してたんだ?

 何か怪しい集団になってたけど……」

「怪しいなんて誤解です!

 ミスト先生の素晴らしい作品を心行くまで堪能させていただいただけなのですから!」

「そうです!

 山のように素晴らしい刺繍やレース編みの海に溺れる幸せな日々が来るなんて想像できますか?!」

「ああ、うん。

 俺には理解できない世界だ」

「これだからすぐに魔物退治に出かけようとする男子は芸術品を理解できない悲しい感性なのですよね!」

「すみません」


 なんとなく謝らないといけない迫力に謝ってしまえば、それを見て妙にうれしそうに納得してパスタを自分のトレーに取り分けていた。


「それにしてもミストは多才だな?」

 

 とりあえずミストを誉めておけばいいだろうと思って言えば


「そうなのです!

 レース編みはもちろんストールに施された刺繍の見事な事!

 ストールの美しさを壊さないようにと同じ糸で施された刺繍は違和感なく、糸の太さを変えて立体的に表現された美しく咲き誇るバラの園の刺繍はもう眼福で……」


 なぜか突然泣き出した先輩に距離を取りつつもムニエルを引き寄せて骨をよけつつ表面がバターでぱりぱりに焼けているのに脂ののりきった腹の辺りを食べて行く。うめえ……


「あとレースのサマードレスはあまりの美しさに言葉では表現できませんでした!」

「シルクのシンプルなドレスの上に重ねる様に同じ形のドレスをレース編みでかぶせるなんて、レースの隙間から見えるシルクの光沢の美しさも言葉を尽くしがたいというのに、それを形作るレースの繊細さと細やかさ、そして大胆なまでに好かせる技術……

 ミスト、将来私と一緒にぜひ店を立ち上げましょう!」

「先輩、悪いけどミストはシャトルーズ家の女主人になる予定だ」

「そんな物近しい血族に押し付けなさい。

 ミスト先生の芸術はすでにお家だけで管理できる物ではないのですよ?

 この国の国宝にしてもおかしくないのですよ?!」


 俺の胸ぐらをつかんでの説得にエクルが落ちそうになる皿を慌てて手を伸ばしてキャッチしてくれるも


「おかしいのは先輩の頭だけにしてくれ。

 そうやって何でもミストの未来を勝手に決めつけるなっつーの」


 うぐっ……


 上品ともいえない空気を飲む音を聞いて髪のくるくるドリル先輩もといオデット先輩は椅子に座って何やらピッチャーでジュースを豪快に飲みだした。

 これが裂けならヤケ酒と言った所だろうか。

 何とも言えない微妙な空気を打破する様に成長がシエル並みのクリス先輩が手をパンと叩き


「そう言えば昨日でしたが黎明の月の拠点のガーリン食堂へと足を運びましたか?」


 話を変えるにしては無理やりな急展開だったがとりあえず俺は行ってないと言っておく。

 当然ミストもエクルも誰も言ってないと返事をした所にクリス先輩はふふふと笑い


「ついにあのいつも閉まっているお家に家主がいる時に遭遇しました!」


「え?あの家って本当に人住んでるの?!」

「空き家じゃなかったんだ……」


「それよりも何かいい事合った?!」


 何故かエクルの最後の叫びの様子に彼女達の間には先輩後輩の垣根はないようだった。


「さすがにまだ何とも言えないけど……

 それよりもとっても素晴らしい物を見させていただきました!」

「それは、ミスト先生の刺繍より素晴らしい物?」


 なぜかオデット先輩からの先生呼ばわりにミストの顔も引き攣っているがお構い居様子に誰もが苦笑。


「刺繍よりって言うと価値観はそれぞれですから何とも言えませんが……」


 まともな人間がいた。

 なんとなく俺もエクルもミストもほっとしてしまえば


「噂で聞いていた超級の魔石が窓にいくつも並べられていました!」

「うそ!本当にですか?!」

「はい!

 私と変わらない年ごろの女性が部屋を掃除していたので空き家説は否定できました!

 そして窓越しですが……

 魔石の波動は物理的な障壁があるのにもかかわらず私にも感じる事が出来て、ゾクゾクと背筋を這い上がるあのカイカン……あああ……

 あの魔石を使ってロッドを作れたらもうこの命この体なんて……」


 くっ……と泣き出してふるりと体を震わすクリス先輩もこの先輩達に付き合えるくらいの立派な変な人だった……

 

「ですが、噂では黎明の月で会の石を使てオーダーが出来ると聞いた事がありますが?」


 ミストの思わぬ情報にクリス先輩はすくっと立ち上がって口元を拭いたかと思えば


「大変申し訳ありません。

 私様を思い出しましたので一度実家へと帰ろうと思います。

 ひょっとしたら明日学校に戻って来る事は敵わないと思いますが、どうか元気でいる事は信じてください」


 そう言って部屋を飛び出してしまった……


「なんだありゃ?」


 思わず零れ落ちた言葉に


「あれもよくある事って事で気にしないでくれ……」


 そっと視線を逸らすアリアだったが


「まぁ、あんたら三人揃って変態三人娘って奴だな」

「ファロード、せめてもうちょっとましな名前にしてくれ」

「痴女三人組」

「ファロ、せめてもうちょっと……」


 ミストの懇願に


「ウェルウィッチアの魔女でいいんじゃね?」

「よくはわからないけど、それならまだ受け入れれますね」


 よくも知らずにくるくるのオデットが承諾した。


「良く判らないが、何とも言えないその響き。

 悪くはないな」


 うんうんと頷くアリアはたぶん文字数が多いからかっこいいという謎の返還に納得したのだろう。

 

「ではこれからの私達のチーム名はウェルウィッチアの魔女でいいですね?」

「ああ、かまわない。

 明日にもさっそく変更手続きしよう」


 そう言いながら食事は終わったというようにまた明日と不吉な言葉を残して去って行ってしまった。





「ファル、ほんとにいいのかな?」

「まぁ、あまり知られてないし、面と向かって指摘するような奴もいないだろ……」

「え?なに?

 ひょっとして変な名前とか?」


 エクルは不安を隠さない顔で俺達に聞いてくるも思わずミストとそっと視線を外した。

 言えるわけない。

 一対の葉っぱを伸ばし続ける砂漠に育つ逞しい植物とは……

 あまり知られてないから黙っているのが吉と言う物だ。












ウェルウィッチアは私も育ててます。

二枚の葉っぱがひたすら育つという面白味もなく大体冬に枯らしてしまいますが……

世界の醜い植物トップ10にも選ばれる残念な植物です。

時折ヤフオクで種子が売られているので運が良ければ購入して育ててみてください。

大体カビが生えて腐ります……難しいんだよこいつ……

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