第9話:騎士団の偵察部隊。――不法侵入者は自動的に「返品」されます
学校の開校から数日。
都市『カイポリス』は、さらにその規模を拡大させていた。
僕がアスファルトの道に「自動街灯(光魔法を溜め込む特殊な石)」を等間隔で設置していた時のことだ。
「カイ様、北の境界線から『不吉な鉄の響き』が近づいています。……それも、かなりの数です」
聖女リリスが、神聖魔法による索敵で眉をひそめた。
エルフのセレナも、世界樹の枝で作った弓を握りしめている。
「間違いないわ。王立騎士団の紋章をつけた一団よ。偵察部隊にしては重装備ね。……百人は下らないわ」
「王都の騎士団か。……懐かしいな。でも、今は工事中なんだけど」
僕は視線を上げることなく、最後の一本の街灯を、地面に【急速冷却固定】で打ち込んだ。
地平線の向こうから、土煙を上げてやってきたのは、金銀の装飾が施された鎧に身を包んだ精鋭たちだった。
先頭に立つのは、かつて僕に「無能」と吐き捨てた騎士の一人、副団長のバルトだ。
「……止まれぃ! 貴様がカイ・ハイランドか!」
バルトが愛馬を躍らせ、僕を見下ろす。
彼の後ろに並ぶ騎士たちは、僕が築き上げたタワーマンションや、鏡のように平らな道を見て、驚愕と嫉妬が混ざったような歪な表情を浮かべていた。
「久しぶりだね、バルト副団長。……何か用? ここは今、立ち入り禁止区域なんだけど」
「黙れ、薄汚い土方が! 貴様、国家の機密を盗んでこんな場所に拠点を築いたな! この建物も、道も、すべて王国の資産として没収する! お前は国家反逆罪で連行だ!」
バルトが剣を抜き、僕を指し示した。
リリスが前に出ようとするのを、僕は手で制した。
「没収って言われても……。これ、全部僕の私物だし、そもそもここは王国の領土外(最果ての荒野)だよね?」
「問答無用! 騎士団の力に抗うつもりか! 全員、突撃せよ! 抵抗する者は切り捨てて構わん!」
バルトの号令と共に、百人の精鋭騎士が一斉に馬を駆り、僕を目がけて突進してくる。
……困ったな。
せっかく舗装した道が、馬の蹄で傷つくじゃないか。
「仕方ない。……安全第一だ」
僕は、足元の地面に描いた「赤いライン」の端を、指先で少しだけ弄った。
【固有権能:現場管理――「立ち入り禁止区域」発動】
その瞬間だった。
突撃してきた騎士たちが、僕の数メートル手前にある「赤いライン」を踏み越えた。
「ぬっ!? なんだ、体が――」
バルトが叫ぶ間もなかった。
彼らの足元の地面が、唐突に『超高速コンベアベルト』へと変貌した。
ズアァァァァァァッ!!
「な、なんだぁぁぁぁ!?」
「止まれ! 馬が止まらん!」
時速二百キロを超える猛烈な勢いで、地面が「逆方向」に回転を始める。
騎士たちは剣を振り上げる暇もなく、あまりの加速Gに目を回し、そのまま後方へと弾き飛ばされていく。
「さらに――【自動梱包】」
僕が手を叩く。
空中で舞っている騎士たちの周囲の「土」が、意思を持っているかのように飛び上がり、彼ら一人一人を丁寧に包み込み始めた。
まるで繭のような、頑丈な土のボール。
「バルトさん、怪我をすると危ないから、柔らかめに包んでおいたよ」
「が、がはっ! 出せ、ここから出せぇぇ!」
「いいえ、不法投棄はいけませんからね。……【強制返品】」
僕は、都市の地下に張り巡らせた「廃棄物処理用」の空気砲を起動した。
――ボォォォォォォン!!
百個の土のボールが、空を切り裂いて北の空へと飛んでいった。
目指すは、王都のメインゲート前にある「噴水広場」だ。
「……よし。これで現場の安全は確保されたね」
「……カイ様。今、彼らを時速五百キロくらいで射出しませんでしたか?」
リリスが遠ざかる点を見つめながら、頬を引き攣らせている。
「大丈夫だよ。着弾の瞬間に、土のボールが『衝撃吸収クッション』に変わるように設定してあるから。……それより、リリスさん。あっちの街灯の角度、ちょっとズレてると思わない?」
一方その頃、王都。
昼下がりの平穏な広場に、突如として空から「百個の土の塊」が降り注いだ。
ズシン! ズシン! と大きな音を立てて着地した塊が割れると、中から出てきたのは、目を回して泡を吹き、鎧を泥だらけにした騎士団の精鋭たちだった。
その様子を見ていた市民たちは、腹を抱えて笑い転げた。
「見ろよ! 騎士団様が空から降ってきたぞ!」
「泥まみれで情けないわねぇ」
その報告を聞いたレオンは、執務室でついに発狂した。
「カイ……ッ! 貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
ついに、第10話――。
レオン自らが率いる主力軍との「最終決戦(という名の工事)」が幕を開ける。




