第10話:安全第一の鉄槌。――五千の騎士団は、不燃ごみとして処理されます
「……壮観だね。あんなにたくさんの人が一気に来るなんて」
都市『カイポリス』の正門前。僕はいつもの現場ヘルメットを被り、腰に下げた水準器を確認しながら、地平線を眺めていた。
そこには、王立騎士団の総力――五千人もの主力軍が布陣していた。
先陣を切るのは、白銀の鎧を血走った目で輝かせている団長レオン。
彼らは魔導兵器や攻城槌まで持ち出し、本気でこの街を更地にするつもりらしい。
「カイィィィィ! 貴様の好き勝手もここまでだ!」
拡声魔法で、レオンの怒声が荒野に響き渡る。
「貴様は国家の富を盗み、禁忌の術で民を惑わした! 挙句、我が偵察部隊に屈辱を与えた罪……万死に値する! 今すぐその『不法建築物』を開放し、投降せよ! さもなくば、この地を血の海に変えてくれる!」
五千の騎士たちが一斉に槍を打ち鳴らし、大気を震わせる。
その威圧感に、避難を勧告した市民たちも窓から不安そうにこちらを見ていた。
……けれど。
「レオン。君、まだ分からないのかい?」
僕は、独り言のように小さく呟いた。
「ここにはもう、君たちの『軍事』が入り込む余地なんてないんだ。ここは僕の『管理区域』なんだから」
僕はポーチから、特製の「黒い杭」を取り出し、足元の境界線にゆっくりと打ち込んだ。
「施工開始。――【広域現場管理:絶対安全義務違反】」
その瞬間、戦場の空気が変わった。
「突撃ぃぃぃ! 全軍、あの傲慢な土方を踏み潰せッ!」
レオンの号令と共に、五千の重騎兵と歩兵が、地響きを立てて突進してくる。
大地を揺るがす鉄の波。
しかし、彼らが僕の引いた『黄色と黒のトラ境界線』に足を踏み入れた瞬間――。
「……ぬ? なんだ、地面が……柔らかい?」
先頭の騎士たちが困惑の声を上げた。
ズブブブブッ!!
彼らの足元の地面が、唐突に『超高粘度アスファルト・ピット』へと変貌したのだ。
どれだけ足掻いても抜け出せない、底なしの泥濘。
「な、なんだこれは! 魔法か!? 泥化魔法なのか!?」
「いいえ、ただの『地盤改良ミス』を人工的に再現しただけだよ」
僕はさらに指を鳴らす。
「次は、頭上の安全確認だ。――【構造的欠陥:落石注意】」
空中に、僕が事前に「構造分解」して浮かせておいた巨大な岩塊――一話で地底竜を埋める時に出た余り物が、次々と実体化する。
ドォォォォォォォン!!
「ぎゃぁぁぁぁ! 空から岩が!?」
「防壁を展開しろ! 防ぎきれん、重すぎる!」
岩は騎士たちを押し潰す直前、僕の設定した「クッション材(衝撃吸収ウレタン加工)」へと変化し、彼らを優しく、しかし確実に地面へと押し固めていく。
「おのれ……小賢しい真似をぉぉぉ!」
レオンが、自分の剣に全魔力を注ぎ込み、炎の刃を振りかざした。
彼は泥濘を跳ね除け、執念だけで僕の目の前まで肉薄してくる。
「死ねぇ、カイ! この一撃で、すべてを終わらせてやる!」
王家秘伝の奥義。城門すら一撃で断つ炎が僕に迫る。
僕は、避けることすらしなかった。
ただ、手に持っていた「図面」を広げた。
「【安全設備:防護フェンス(概念級)】」
キィィィィィィィィィィン!!
炎の刃は、僕の目の前に現れた「半透明の工事用フェンス」に触れた瞬間、パリンと乾いた音を立てて砕け散った。
「……なっ……!? 私の、最強の剣が……工事用の看板ごときに……!?」
「レオン。君の剣は、メンテナンス不足だ。僕がいた頃は、分子レベルで刃の結合を補強していたけど……今はもう、ただの脆い鉄屑だよ」
僕は静かに、レオンの胸元を指差した。
「それに。……現場では、ヘルメット未着用の立ち入りは厳禁なんだ。――【不燃ごみ処理:強制排出】」
パチン、と最後の一押し。
レオンを含む五千人の騎士たちの足元が、巨大な『シーソー』のように跳ね上がった。
「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
五千の叫びが夜空に消えていく。
彼らは一列に整列した状態で、王都の方向へと「等間隔」で射出された。
空を飛ぶ彼らの背中には、僕が自動で貼り付けた『産廃物:不燃ごみ(王都宛)』という光り輝くラベルが貼られていた。
***
静寂が戻った荒野。
リリスとセレナが、僕の背後に歩み寄ってくる。
「……カイ様。お疲れ様です。これで、王都との縁は完全に切れましたね」
「うん。……あ、そうだ。彼らが置いていった武器や鎧、質のいい鉄が使われてるから、溶かして次の『集合住宅』の鉄筋に使おうかな」
「……どこまでも無駄がないのね、あなたは」
セレナが呆れ半分、尊敬半分で肩をすくめる。
翌朝。
王都の城門前には、五千人の騎士たちが「ピラミッド状」に積み上げられて放置されていた。
頂上で白目を剥いて震えるレオンの姿は、王国の威信を完全に粉砕するのに十分だった。
一方で。
『カイポリス』の掲示板には、新しい工事の予定が張り出された。
【本日の工程:大陸間横断・魔導鉄道の敷設工事について】
「……さて、世界を繋ぐための『レール』を敷こうか」
無能と呼ばれた土木魔導師の物語は、ここから世界を、そして神話へと繋ぐ第2部へと突入していく。




