第11話:勝利の余韻に浸る暇があるなら、コンクリートを練れ
「カイ様! カイ様はどこだ!」
「我らが英雄に万歳を! 王都軍を追い払った救世主に乾杯だ!」
都市『カイポリス』の目抜き通りは、狂乱に近い祝祭の渦の中にあった。
ガミール商会の商人も、移住してきた難民も、エルフの戦士たちも。皆が手に酒を持ち、昨日の「圧勝」を語り合っている。
だが、その主役であるはずの僕は、街の喧騒から遠く離れた「北門」の境界線にいた。
「……うん、やっぱりここ、数ミリ沈んでるな」
僕は膝をつき、アスファルトの路面に指を触れた。
スキル【地質スキャン】。
五千の軍勢、それも重装騎兵が無理な突進を繰り返した代償だ。路盤の深層部に目に見えないクラック(ひび割れ)が生じている。
「カイ様、見つけましたよ! もう、主役がこんなところで何をしているのですか!」
聖女リリスが、呆れ果てたという顔で走ってきた。背後には、エルフの王女セレナも続いている。
「勝利の挨拶もせず、地面を撫で回している英雄なんて、前代未聞よ。……そんなにその『道』が大事なの?」
「大事だよ、セレナさん。インフラは『作って終わり』じゃない。維持管理こそが本番なんだ」
僕は立ち上がり、現場監督のヘルメットを被り直した。
「それに。……せっかく王都の連中が、質のいい『建材』を置いていってくれたからね。これを放置するのは、現場監督として失格だ」
僕が指差した先には、昨日「強制送還」された騎士たちが、慌てて脱ぎ捨てていった最高級のミスリル鎧や、魔導銀の槍、さらには攻城槌の残骸が山積みになっていた。
「……これを、建材と呼ぶのはあなたくらいですよ」
リリスが深い溜息をつく。
「よし。修理のついでに、この北門一帯を『要塞化』しちゃおう」
僕は山積みの武具に向かって、手をかざした。
【固有権能:構造分解・再構成】
キィィィィィィィィン!!
耳を劈くような金属音が響き、騎士団の誇りであった名剣や名槍が、ドロドロとした銀色の液体へと還元されていく。
不純物は排され、純度100%の希少金属だけが抽出される。
僕はその液体を、アスファルトのひび割れに流し込み、さらに地面全体に回路を刻んでいった。
「【地脈同期】。さらに、昨日使った『強制排出コンベア』を常設の防衛システムとして組み込んで……。よし、これで完成だ」
僕が手を叩くと、一見するとただの綺麗な道が、不気味なほど静謐なオーラを放ち始めた。
「……カイ様。今、何をしたのですか?」
「ああ、簡単だよ。この道に『敵意』を持って足を踏み入れた者は、自動的に重力が五十倍になり、そのまま時速三百キロで王都方向に射出されるように設定した。名付けて『全自動・不法侵入者お断りロード』だ」
「……もはやそれは道ではなく、巨大な処刑装置ではないかしら」
セレナが引き攣った笑いを浮かべる。
「おまけに、騎士たちの鎧に含まれていた魔力を抽出して、街全体の『夜間照明』の動力源に繋いでおいたよ。これでもう、数年は燃料いらずだ」
僕は満足げに頷いた。
王都軍の侵略という「トラブル」を、都市の「アップグレード」へと変換する。これこそが、僕の流儀だ。
「さあ、リリスさん、セレナさん。修理は終わった。……次は、学校の子供たちが『すごいものを作った』って言ってるから、そっちの点検に行こう」
「……また嫌な予感がします。あなたの『すごい』と、私たちの『すごい』は、次元が違いますから……」
リリスの予感は、この直後に的中することになる。
伝説の都市『カイポリス』。
そこは、王都軍ですら「建材」として利用される、世界で最も恐ろしく、そして最も快適な「現場」へと進化を遂げていた。




