第12話:天才児たちの暴走。――先生、核融合ってなんですか?
北門の補修と防衛システムの構築を終えた僕を待っていたのは、学校の校庭から立ち昇る、不自然なほど「白く、静かな光」だった。
「カイ様、急いでください! あの子たち、先生から教わった『構造分解』の応用だと言って、とんでもないものを組み上げているんです!」
リリスに急かされ、新設されたばかりの石畳を駆ける。
学校の敷地に入った瞬間、肌を焼くような熱気と、大気が震えるような重低音が僕を襲った。
校庭の中央。
そこには、十人ほどの子供たちが、僕の配った学習用タブレットを円陣になって掲げていた。
彼らの中央――地上数メートルの位置に、直径五メートルほどの『光り輝く球体』が浮遊している。
「……っ、これは」
僕の測量眼が、即座に異常な数値を弾き出した。
球体内部の魔素密度が、通常の空間の数万倍に圧縮されている。本来なら反発し合うはずの魔力が、無理やり一箇所に押し込められ、臨界点を超えて「熱」と「光」へと変換され続けている。
「あ、カイ先生! 見て見て!」
中心にいた少年、トト君が満面の笑みで振り返った。
彼の持っているタブレットの画面には、僕が教えた覚えのない、しかし論理的に完璧な「魔力収束数式」が並んでいた。
「先生が言ってたでしょ?『物は細かく分ければ分けるほど、大きなエネルギーを秘めている』って。だから、空気中の魔素を限界まで細かく分解して、逆にギューッてくっつけてみたんだ。これがあれば、夜でも街が明るいでしょ?」
「……トト君。君たちがやったのは、この世界の物理法則における『魔力の核融合』だよ。……素晴らしい、論理的には満点だ」
僕は歩み寄り、トト君の頭を撫でた。
だが、その手はわずかに震えていた。……感銘と、現場監督としての冷や汗のせいだ。
「でもね。……このままじゃあと三十二秒で、この球体は『爆発』して、この街ごと消滅する」
「「「えぇぇぇぇ!?」」」
子供たちが一斉に青ざめる。
リリスとセレナに至っては、もはや声も出ない。
「先生、止めて! 僕たち、街を壊したくない!」
「大丈夫。……ここが『現場』である限り、僕が事故は起こさせない」
僕は腰の道具袋から、建築用の『黒い杭』を四本抜き放った。
これは王都の宝物庫に眠っていた、魔力伝導率が極めて低い「黒曜鋼」を僕が加工したものだ。
「【四方結界・施工管理】!」
シュバッ、と四本の杭が球体を取り囲むように地面に突き刺さる。
同時に、透明な防壁が立ち上がり、猛烈な熱量を内部に閉じ込めた。
だが、防壁が内側から膨らみ始める。エネルギーの行き場がない。
「リリスさん、セレナさん、子供たちを後ろへ! ……次は、この『余剰エネルギー』の活用だ」
僕はタブレットを取り出し、街全体の地下配管図を空中にホログラムで投影した。
ペンを走らせ、核融合球体から一本の「太い導線」を地下の貯水槽へと繋ぐ。
【構造再構築:エネルギー循環回路】
ゴオォォォォォ……ッ!
凄まじい吸引音が響き、暴走寸前だった光の球体が、みるみるうちに小さくなっていく。
吸い出された熱量は、地下に張り巡らされた銅のパイプを通り、街中の蛇口から出る「お湯」の熱源へと変換されていった。
「……ふぅ。これでよし」
光の球体は、今や穏やかな『照明』程度の明るさになり、校庭を優しく照らしている。
「カイ様……。今、あなたは『世界を滅ぼす規模の暴走』を、ただの『給湯設備』に変えたのですか?」
リリスが震える声で尋ねる。
「効率がいいからね。これでもう、街の人たちは薪を使わなくても、二十四時間お風呂に入れるよ」
僕はトト君に視線を戻した。
「トト君。新しい発見をするのはいいことだ。でも、次は必ず『安全係数』を三倍にして計算してごらん。それが、良い職人になるための第一歩だ」
「……うん! わかった、先生!」
子供たちは再び、目を輝かせてタブレットを覗き込み始めた。
その光景を見ながら、僕は確信していた。
この街から生まれるのは、建物だけじゃない。世界を変える「技術」そのものが、ここで育ち始めている。
だが、この『第二の太陽』の出現は、遠く離れた隣国……商業都市国家「自由貿易都市ゼノス」の観測所にも捉えられていた。
「報告します! 最果ての荒野に、太陽に匹敵する魔力反応を確認! ……信じられません、反応はわずか数分で消失し、現在は『安定した熱源』として固定されています!」
その報告を受けたゼノスの第一王女、ミラ・ゼノスは不敵な笑みを浮かべた。
「王都が捨てた『無能』が、太陽を飼い慣らしたというの? ……面白いわ。その街の『トイレ』でも借りに行こうかしら」
新たな波乱が、すぐそこまで迫っていた。




