第8話:初めての「学校」建設。――算盤(そろばん)の代わりにスーパーコンピュータを配る男
ガミール商会の移住に伴い、荒野――改め、建設中の都市『カイポリス』には、多くの家族連れが集まっていた。
活気に溢れるのはいいことだが、一つ問題が出てきた。
「カイ様、子供たちがそこら中で泥遊びをしています。……いえ、あなたの作った『超硬質コンクリート』の破片で、地底竜と戦いごっこをしています。危なくて仕方がありません」
聖女リリスが、窓の外でドラゴンの尻尾にぶら下がって遊ぶ子供たちを指差した。
ドラゴンの方は「やれやれ」といった顔で、子守役をこなしているが……。
「そうだね。教育の場がないのは、長期的に見て大きな損失だ。よし、学校を作ろう」
「学校、ですか。王都では貴族か一部の富裕層しか通えませんが……」
「いや、全員だよ。教育はインフラ(基盤)の一つだからね」
僕は現場監督のヘルメットを被り直し、タワーマンションの裏手にある広大な敷地へと向かった。
まず、足場を固める。
スキル【広域整地】。
僕が地面を踏みしめると、半径数百メートルの地面が、ミリ単位の狂いもなく完全な水平に均される。
「校舎は、集中力が増すように『精神安定』の効果を持つ特殊な木材……。そうだ、世界樹の剪定で出た端材を使おう」
僕はポーチから、以前世界樹をリフォームした時に出た大量の枝を取り出した。
エルフの里では国宝級の宝物だが、僕にとっては「質の良い木材」だ。
【構造再構築】
枝が空中で幾何学的に組み合わさり、壮麗な木造校舎が組み上がっていく。
各教室には、光を最適に拡散する「マジック・プリズムの窓」を設置し、黒板には僕が開発した「書いた文字が自動で保存・転写される魔導掲示板」を取り付けた。
「……リリスさん。とりあえず、箱はできた。あとは教材だね」
「……教材、ですか。教科書や算盤などは、ガミール商会に発注しましょうか?」
「いや、もっと効率的なやつがある」
僕は、そこらへんに転がっていた石ころを拾い上げた。
そして、スキル【元素再構成】と【並列回路埋設】を極限まで重ねがけする。
僕の手の中で、石ころが薄い「板状」に変質していく。
表面には、指の動きに反応する静電容量式のタッチパネル。
内部には、一秒間に数億回の演算を行う、魔力駆動式の論理回路。
「はい、これ。子供たち全員に配る『学習用端末』だよ」
「……カイ様。それは、なんですか?」
「算数から歴史、高度な魔導工学まで、これ一枚で学べる。わからないことがあれば、僕が設定した『人工知能(擬似精霊)』が答えてくれるし。あ、ついでに計算能力は王立魔導院のメインサーバーの千倍くらいにしておいたよ」
「……せん、ばい」
リリスが、その「板」を恐る恐る手に取った。
画面に指を触れた瞬間、彼女の脳内に膨大な知識の海が展開され、彼女はあまりの情報の「正確さ」と「速さ」に、その場にへたり込んだ。
「これ……これ一つで、人類が積み上げてきた歴史を塗り替えかねません。それを、子供たちに……?」
「教育は出し惜しみしちゃダメだよ。あ、ドラゴン。お前は校門の前で『守衛』をやって。変なやつが来たら食べていいから」
「グルル(ラジャー)」
こうして、荒野のど真ん中に、世界で最も進んだ「超ハイテク学校」が誕生した。
***
その頃、王都。
「団長……報告します。王立魔導院の賢者たちが、相次いで辞表を出しています……」
「何だと!? 今度は何だ!」
「ゲヘナ荒野の学校で配布されている『石板』の情報を聞きつけたようです。賢者たちが言うには、『自分たちが一生かけて解く数式を、あそこのガキが数秒で解いている。研究するのが馬鹿らしくなった』と……」
レオンは、震える手で報告書を握りつぶした。
「カイ……! 貴様、どこまで私を惨めにさせれば気が済むんだ!」
レオンの背後で、城の天井から『ポタポタ』と水が漏れる。
カイがいなくなったことで、城の維持すらままならない王都の騎士たち。
彼らは、自分たちが「世界最高の資産」を手放してしまったことを、ようやく骨の髄まで理解し始めていた。




