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第4話:工事現場に、初めての「お客様」が来ました

「……ふぅ。やっぱりドラゴンの背中は振動が少なくていいな」


僕はドラゴンの背から降り、王都近郊の宿場町で購入した資材(といっても、僕からすれば品質の低い石灰や鉄屑ばかりだけど)を荷下ろしした。

 隣では、聖女リリスが魂が抜けたような顔でアスファルトの道を見つめている。


「……ありえません。王都からここまで、馬車で三日はかかる距離ですよ? それをわずか二時間で……」


「道が良いと、効率が上がるからね。あ、ドラゴン。お疲れ様。これ、お駄賃」


僕は、道端の石ころに【成分調整】をかけて、ドラゴンが大好物の「高純度魔力岩」に変えて放り投げた。ドラゴンはそれを空中でキャッチし、幸せそうに咀嚼している。


その時だった。


「待ってくれ! 待ってくれ、そこの若者!!」


猛烈な勢いで、一台の豪華な馬車が僕たちの前に滑り込んできた。

 中から飛び出してきたのは、身なりの良い、しかし鼻息の荒い中年男性――ガミール商会の会長だった。


「君か! この『神の道』を作ったのは君なのか!?」


「あ、はい。僕ですが。……何か、通行の邪魔でしたか? まだ白線レーンを引いてないから、ちょっと危ないですよね」


「白線の問題ではない! この道だ、この材質だ! 傷一つ付かず、雨を弾き、馬の蹄を痛めない。これがあれば、大陸の流通コストは百分の一になる!」


ガミールさんは僕の両手をがっしりと掴み、血走った目でまくしたてた。


「頼む! 我が商会と専属契約を結んでくれ! この道を大陸中に張り巡らせるんだ。報酬は……そうだ、この商会の利益の半分を渡そう!」


リリスが「ひえっ」と短い悲鳴を上げた。

 ガミール商会の利益の半分。それは小国の国家予算に匹敵する額だ。


けれど、僕は首を傾げた。


「えっ、結構です。僕、ただ自分の拠点を快適にしたいだけなので」


「な……っ!? なぜだ! 富も名声も思いのままだぞ!?」


「だって、知らない場所の工事をするのは大変じゃないですか。設計図を引くのも、地質調査をするのも僕一人ですし……。今は、荒野の『下水道工事』で忙しいんです」


「下水……? この神のごとき技術を、下水に……!?」


ガミールさんは絶望したような、あるいは感極まったような顔で天を仰いだ。

 その時、僕はあることに気づいた。


「あ、ガミールさん。その馬車、車軸が歪んでますよ。王都の道が悪いからかな」


「ああ……。さっきの悪路でな。もう修理も限界だ」


「ちょっと貸してください」


僕は馬車の車軸にそっと触れた。

 スキル【構造強化リフォーム】。

 

 鈍い光が走り、使い古された木製の車軸が、瞬時にして『超硬質合金(ミスリル配合)』へと変質し、さらにサスペンション(衝撃吸収構造)まで追加された。


「はい、これで大丈夫です。ついでにタイヤもラバー状に変えておきました」


「……何をした?」


ガミールさんが恐る恐る馬車に乗り込む。

 御者がゆっくりと発進させると――。


「……動いているのか? 地面を滑っているのか!? 振動が……振動がゼロだ! まるで雲の上に乗っているような……!」


ガミールさんはガタガタと震えながら、僕を見た。

 その目はもう、僕を「人間」として見ていなかった。


「……カイ様。私は決めた。契約が無理なら、私はここに住む。この荒野に商会の本部を移す! この道と、あなたの技術がある場所こそが、世界の中心になるのだから!」


「え、それは困ります。まだ住宅地(分譲エリア)の整備が終わってないんで……」


「今すぐ作るんだ! 工事費ならいくらでも出す!」


こうして、僕の静かな開拓生活に、初めての「住民スポンサー」が加わることになった。


***


その日の夜。王都・騎士団寮。


「……おい、嘘だろ」


レオンは、食堂の水道から流れてくる『茶色く濁った水』を見て絶句していた。

 カイがいなくなってから、城内の浄水魔法陣が次々とダウンしているのだ。


「団長……。お風呂も、トイレも、もう限界です。騎士たちの士気が最低まで落ちています……」


「くそっ! 専門の魔術師は何をしている!」


「それが……カイがやっていたのは『魔法』ではなく『物理的な配管制御』だったようで、魔術師たちには構造がさっぱり解けないんです。無理に魔力を流したら、地下で破裂して……」


レオンの足元に、じわりと汚水が染み出してくる。

 

「カイ……! 貴様、どこまで我々をコケにするつもりだ……!」


逆恨みを募らせるレオン。

 だが彼はまだ知らない。

 カイの荒野では今、最高級の温泉と、水洗トイレが完備された「未来都市」が爆誕しようとしていることを。

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