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第5話:下水道が開通したら、エルフの王女が釣れました

「……カイ様。本気、なのですか?」


聖女リリスが、拠点の下に掘られた巨大な空洞を見上げて、震える声を出した。

 そこは、僕がこの数日間で掘り進めた地下空間だ。

 

 王都の地下道のようなジメジメした不潔さは一切ない。

 壁面は僕がスキル【地質変換】で焼き固めた、白磁のように滑らかなセラミックで覆われ、天井には一定間隔で「自動洗浄クリーン」の術式を刻んだ魔石が埋め込まれている。


「リリスさん、都市の基本は『流体管理』だよ。汚水が滞れば疫病が流行るし、魔力の残滓が溜まれば変異種が生まれる。だから、これを完璧に循環させる必要があるんだ」


「循環……。でも、ここを流れているのは、あの『エリクサーの泉』の余り水ですよね? 街中の汚水を、神の聖水で洗い流すというのですか!?」


「その方が掃除の手間が省けるだろ? 効率がいいんだ」


僕は手に持った「現場監督の杖(ただの測量棒)」を地面にコン、と突いた。

 

【固有権能:流体最適化ハイドロ・ロジスティクス発動】


――ゴォォォォォォ!!


地下空間の奥底から、清冽な水の音が響いてくる。

 「エリクサーの泉」から溢れた膨大な魔力水が、完璧な計算に基づいた勾配を流れ、街全体の「汚れ」を瞬時に分解・吸収しながら、地下の浄化槽へと吸い込まれていく。

 

「よし、完璧だ。これで百万人住んでも……ん?」


その時。

 完成したばかりの第3幹線ルートから、何かが猛スピードで流れてくる気配を感じた。


「……何か、大きなゴミが詰まったかな。……あ、出てきた」


バシャアァァァン!!


排水口のメンテナンス・ホールから、水飛沫と共に「何か」が飛び出してきた。

 それはゴミではなく、泥だらけになった「人」だった。


「ぷはっ! げほっ、げほっ! な、なんなのよこの場所は……っ!」


それは、目を見張るような絶世の美少女だった。

 泥にまみれてはいるが、その隙間から見える肌は透き通るように白く、背中まで伸びた金糸のような髪が濡れて光っている。

 

 そして何より特徴的なのは、その長い耳。


「エルフ……? なんで下水道から流れてくるんだ?」


「エ、エルフ!? ちょっと、失礼ね! 私はこれでもエルフの里の第一王女、セレナよ!」


セレナと名乗った少女は、ふらふらと立ち上がると、僕の胸ぐらを掴もうとして――そのあまりの清潔さと、周囲の「異常な魔力濃度」に気づいて動きを止めた。


「待って……ここ、どこなの? 私は、干上がった里を救うために伝説の『源流』を探して地下の魔力脈を辿っていたはずなのに……なんでこんな、神殿みたいな場所に出るのよ!?」


「神殿じゃないよ。うちの下水道(B1エリア)だ」


「げ、げすいどう……?」


セレナは、足元を流れる七色の輝きを放つ水を見て、絶叫した。


「嘘でしょ!? これ、精霊王の涙よりも純度が高い魔力水じゃない! なんでそれが、こんなピカピカの土管の中をドバドバ流れているのよ! 一滴あれば、枯れかけた私たちの森が半分以上復活するレベルの宝玉よ!?」


「ああ、それはただの『おまけ』だから、いくらでも持って行っていいよ。……それよりセレナさん、里が困ってるんだって?」


僕は彼女の言葉に、新しい「工事の予感」を感じて、少しワクワクしていた。


「な、なによその目は……。私たちの里は、ゲヘナ荒野のさらに奥にあるわ。魔力の供給が途絶えて、もう一週間もすれば世界樹が枯れて、私たちは住む場所を失う。……でも、あなたのような変態的な魔力を持つ人なら、もしかして……」


「わかった。じゃあ、そこまで『水道』を引こう。ついでに『道路』も繋げちゃえば、物流も安定するしね」


「すいどう? どうろ? ……あなた、何を言っているの?」


セレナが呆然とする中、僕はコテージの外に待機させていた地底竜アースドラゴンを呼んだ。


「ドラゴン、出番だ。次はエルフの里まで『トンネル』を掘るぞ」


「グルル(了解、ボス)」


伝説の魔獣が、犬のように尻尾を振って僕に従う姿を見て、王女セレナはそのまま静かに白目を剥いて倒れた。


「……カイ様。また一人、常識を破壊された被害者が増えましたね」


聖女リリスの深い溜息が、清潔な下水道に虚しく響いた。

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